トヨタが定時総会での承認を経て移行へ、監査等委員会設置会社とは
2025/02/27   商事法務, 総会対応, 会社法, 自動車

はじめに

 トヨタ自動車は25日、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行すると発表しました。6月の定時株主総会での承認を経て移行する予定とのことです。今回は会社法が規定する監査等委員会設置会社とその移行について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、トヨタ自動車は25日開催の取締役会で監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行することを決定したとされます。取締役会の更なる活性化を図り、自動車業界の大きな変化に対応し、ステークホルダーからいつまでも選ばれる会社であるために取締役が知見・専門性を最大限発揮するためとのことです。移行後は4人の取締役に加え、2人の社外取締役と4人の監査等委員である取締役を新任するとされ、そのうち3人が社外取締役となっております。6月開催予定の定時株主総会での承認を条件としております。

 

監査等委員会設置会社とは

 監査等委員会設置会社とは、会社法の平成26年改正で導入された新しい会社の機関設計で、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的な性格といわれております。かつて現行会社法が制定される前の平成15年に米国の制度を参考にした委員会設置会社が導入されました。これは業務執行と監督機能を分離し、迅速な意思決定を図ったもので、従来の監査役会設置会社よりも欧米の投資家による信用が高いものでした。しかし三委員会とそれらの過半数を社外取締役で占めなければならないという機関設計が非常に重く、実際に委員会設置会社に移行する会社が極めて少ないという状況でした。そこで委員会設置会社よりも柔軟な機関設計として、平成26改正から監査等委員会設置会社が導入されることとなりました。なおこれ以降、委員会設置会社は「指名委員会等設置会社」と呼ばれることとなります。

 

監査等委員会設置会社の機関設計

 監査等委員会設置会社となる場合、それ以外にも取締役会、会計監査人の設置が必須となります。監査等委員会の設置は公開・非公開、また会社の規模にかかわらず行うことができますが(会社法326条2項)、取締役会非設置会社のままでは移行することはできません。そして監査等委員会は通常の取締役とは別カテゴリーである「監査等委員である取締役」で構成され、その過半数は社外取締役であることを要します。取締役会は全ての取締役および監査等委員である取締役で構成され、監査等委員会は最低3名が必用であり、また監査等委員でない取締役が代表取締役となることから、合計4名の役員が最低必用となり、そこに会計監査人1名を含めて最小構成で5名となります。監査等委員である取締役は通常の取締役や支配人その他の使用人、また子会社のそれらの者や会計参与等と兼任することは禁止されております(331条3項)。

 

監査等委員会設置会社への移行手続き

 監査等委員会設置会社に移行するには、まず監査等委員会を設置する旨の定款変更が必用です。同時に監査役・監査役会設置の定めを廃止し、会計監査人を設置する旨の定款変更も必用となります。これらは定款変更ですので株主総会の特別決議による決議が必用です(466条)。また監査等委員会設置会社に移行した場合、その時点で現任と取締役や監査役が任期満了となり退任します。そのため同時に取締役や監査等委員である取締役また会計監査人の選任が必用です。こちらは株主総会の普通決議で可能です。これらの株主総会による承認決議を経た後、監査等委員会設置会社の定めの設定、監査役・監査役会設置会社の定めの廃止、会計監査人設置会社の定めの設定、そして役員等の変更を登記することとなります。登記には株主総会議事録や株主リスト、役員等の就任承諾書、本人確認証明書そして会計監査人が公認会計士であることを証明する書面を添付します。

 

コメント

 本件でトヨタは監査等委員である取締役として4名の新任を予定しており、そのうち3名が社外取締役とされます。そのうち2名は監査役から、1人は取締役から移行するとのことです。以上のように最低2名の社外取締役を確保することによって監査等委員会設置会社に移行することは可能です。監査等委員会設置会社は指名委員会等設置会社に比べ人員的な負担が低く、従来の監査役会設置会社よりも柔軟で機動的な意思決定またガバナンスの強化も期待できます。しかし一方で、欧米ではやはり委員会設置会社に対する信用性が依然として強いと考えられます。それぞれの機関設計のメリット・デメリットを正確に把握し、自社に適した選択を模索していくことが重要と言えるでしょう。

 

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