2025年上半期、監査法人異動が過去最多、会計監査人について
2025/07/24 商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに
2025年上半期の上場会社における監査法人の異動件数が過去最多であることがわかりました。任期満了や辞任が増加したとのことです。
今回は会社法が規定する会計監査人について見直していきます。
事案の概要
東京商工リサーチの調査によりますと、国内の証券取引所に上場する約3800社のうち2025年上半期に「監査法人異動」を開示したのは157社で前年比89.1%増だったとされます。移動理由としては、監査期間が長期にわたる「監査期間」が最多で、次いで「監査報酬」、「会計監査人の辞任等」とのことです。
辞任に関しては上場会社等監査人登録制度への未登録、拒否による辞任、監査法人の人員不足などの理由が多かったとされます。また、近年監査法人数は増加しており、大手監査法人から準大手、中小監査事務所に会計監査人を変更する企業も増えているとのことです。
会計監査人とは
会計監査人とは、株式会社における機関の一つで、会社の計算書類などについて会計監査を行うことを主な職務としています。会計監査人は公認会計士かまたは監査法人のみが就任することができるとされ(会社法337条)、日本の企業の適正な会計実務を担保する重要な機関となっています。
会計監査人の権限としては、会社の計算書類や附属明細書、臨時計算書類や連結計算書類を監査するとされ(396条1項)、そのために会計監査人はいつでも会計帳簿の閲覧・謄写ができ、また必要がある場合は取締役や会計参与、支配人等に会計に関する報告を求めることができます(同2項)。
会社の監査という意味で監査役と似ていますが、両者は主従の関係にはなく、監査役は内部監査、会計監査人は外部監査を担い、相互に補い合って充実した会社監査を目指しているとされます。
会計監査人に関する機関設計等
会計監査人はどのような会社でも定款で定めることにより設置することができますが、会社法では一定の場合に設置を強制しています。
まず、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社は会計監査人の設置が義務付けられます(327条5項)。そして、大会社も同様に設置が必須となります(328条1項)。
会社法上の「大会社」とは、資本金の額が5億円以上、または貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である会社を言います(2条6号イロ)。
なお、会計監査人を設置する場合、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社以外の会社の場合は必ず監査役の設置も必要となります(327条3項)。また、取締役が会計監査人の報酬を決定する際には監査役の同意も必要となります(399条)。
会計監査人の選任・解任
会計監査人の選任も他の役員同様に株主総会の普通決議によります(329条1項)。取締役などの役員選任に関しては定足数を定款で3分の1未満にすることはできませんでしたが、会計監査人は「役員」ではないことから定足数を排除してしまうことも可能です。
会計監査人の任期は1年で定時株主総会で別段の決議がなければ再任されたものとみなされます(338条1項2項)。会計監査人の選任・解任議案は取締役ではなく監査役が決定します(344条)。これは監査を受ける立場の取締役との独立性を確保するためです。
そして、会計監査人の解任も他の役員同様に株主総会の普通決議によります(339条1項)。なお、会計監査人特有の解任制度として、監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会は会計監査人に職務上の義務違反や職務を怠った事実などがある場合に解任することができます(340条1項~6項)。この場合には解任後最初に招集された株主総会で報告する必要があります。
コメント
近年、大手監査法人が金融庁から業務改善命令の行政処分を受けたり、また2023年4月から始まった上場会社等監査人登録制度などに関連し、多くの企業で会計監査人の変更に迫られる例が増加しているとされます。
会社法では一定の場合に会計監査人の設置を義務付けており、また金商法でも上場企業は会計監査人による監査を義務付けています。上でも触れたように会計監査人は役員と同様に株主総会の普通決議によって選任しますが、他の役員とは異なったルールも存在します。
任期は1年でみなし再任がされたり、監査役による解任が認められていたり、また任期満了や辞任の際に必要員数を満たさなくなっても権利義務を承継しないなど役員との違いに注意が必要です。
なお、急遽会計監査人が欠けた場合は株主総会で新たに選任されるまで監査役が一時会計監査人を選任することとなります。これらの会計監査人の特殊性を踏まえて社内で不備の無いよう準備していくことが重要と言えるでしょう。
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