会社の資金調達方法とその手続き まとめ
2024/03/25   知財・ライセンス, 商事法務, 会社法

はじめに


 企業が事業活動を行う上で資金が必要となってきます。このような場合、企業はどのようにして資金調達を行うのでしょうか。一般的に考えられる手段として、金融機関等からの借入、募集株式の発行、社債の発行、会社資産の売却などが挙げられます。

これらの資金調達方法にはそれぞれメリット・デメリットがあり、必要な手続きも異なります。また、会社によっては実行できる場合と実行できない場合が存在します。

今回は会社の資金調達方法について概観し、それぞれの手続きなどを見ていきます。

 

資金調達方法の種類


 企業の資金調達方法は金融用語的に、エクイティファイナンス、デットファイナンス、アセットファイナンスの3つに分けられます。

エクイティファイナンスは資本を増加させるというもので、具体的には募集株式の発行が該当します。これには株主割当、第三者割当、公募増資などが含まれます。

デットファイナンスは負債を増加させることによる資金調達です。具体的には金融機関からの借入や公的融資、社債などが該当します。

そして、アセットファイナンスは会社の資産を現金化することです。会社の余剰資産や知的財産権、不良在庫などの処分・売却、債権の売却などが考えられます。これらにはそれぞれにメリット・デメリットがあり、必要な手続きもそれぞれ異なってきます。

 

それぞれのメリット・デメリット

(1)エクイティファイナンス
 募集株式の発行などいわゆるエクイティファイナンスに分類される資金調達方法のメリットは、調達できる金額が大きいこと、返済が不要であること、使い道に制限がないこと、担保等が不要であることなどが挙げられます。株式会社にとって最もメジャーな調達方法と言えます。

一方で、デメリットとしては、手続きが煩雑であること、株主に剰余金の配当をする必要があること、株価の下落や持株比率の低下、さらには敵対的買収の危険が生じることなどが挙げられます。

(2)デットファイナンス
 金融機関からの借入や社債の発行、公的融資の利用など、いわゆるデットファイナンスのメリットとしては経営権に影響を及ぼさないこと、節税が期待できることなどが挙げられます。

デメリットとしては返済が必要であること、担保や保証を要すること、そして何より融資審査に通る必要があり、会社の信用度が低いと融資を受けられない可能性が高いことなどが挙げられます。融資額や金利、返済期間などの決定の主導権が金融機関側に握られるという点も指摘されております。

(3)アセットファイナンス
 アセットファイナンスには不動産や機械などの固定資産や特許権といった知的財産権の売却から、売掛債権などを支払日よりも前に現金化する、いわゆるファクタリングといった方法があります。メリットとして返済が必要ないこと、会社の信用にかかわらず資産自体の信用力で資金調達できること、貸借対照表上の総資本利益率が向上するなどが挙げられます。

デメリットとしては調達額が資産自体の価格よりも下がってしまうこと、持っている資産の額が調達限度であることなどが挙げられます。

 

募集株式の発行手続き


(1)第三者割当
 募集株式の発行に際しては、①募集株式の種類や数、②払込金額、③現物出資に関する事項、④払込期日、⑤計上する資本金・準備金に関する事項などを決定する必要があります(会社法第199条1項)。そして、これを決定する機関は公開会社・非公開会社で異なります。

公開会社の場合は原則として取締役会の決議によって決定することが可能ですが(第201条1項)、有利発行となる場合は株主総会の特別決議を要します(第199条2項、第309条2項5号)。

非公開会社が第三者割当増資をする場合、通常発行、有利発行にかかわらず株主総会の特別決議が必要です(第199条2項および3項、第309条2項5号)。ただし、株主総会の特別決議で取締役または取締役会に募集事項の決定を委任することも可能です(第200条1項)。この場合、効力は1年以内(払込期日が)となります。

募集に応じて株式の引受を申し込んだ者の中から、誰にどれだけ株式を割り当てるかは会社が自由に決定することが可能です(204条1項)。この決定は公開会社では原則として代表取締役等の業務執行の範囲と言えますが、譲渡制限株式であった場合は取締役会の決議を要するとされます(同2項本文カッコ書き)。

非公開会社の場合は原則として取締役会決議となりますが、取締役会非設置会社の場合は株主総会の特別決議を要します。

(2)株主割当
 株主割当の場合も公開会社と非公開会社で募集事項の決定機関に違いがあります。まず、公開会社の場合、原則として取締役会の決議で可能ですが定款に定めることによって株主総会で決定することもできます(第202条3項3号)

一方、非公開会社の場合は第三者割当と同様に原則として株主総会の特別決議を要します(第202条3項4号、第309条2項5号)。しかし、定款に定めることによって取締役または取締役会に決定の委任をすることが可能です(第202条3項1号および2号)。

株主割当の場合、株主からの申し込みにより当然に株式引受人の地位を取得することとなることから、割当の手続きは必要ありません。

(3)募集事項の通知または公告
 公開会社が取締役会決議によって募集事項を定めた場合、払込期日の2週間前までに株主に対して当該募集事項を通知する必要があります(第201条3項)。

上記のように公開会社は原則として募集事項の決定を取締役会決議によって行うことができます。株主総会を経ないため、株主が知らないうちに株式が発行される可能性があるということです。そこで株主に差止の機会を提供するためこのような通知を義務付けております。公告で代えることも可能です(同4項)。

なお、株主割当の場合も申し込み期日の2週間前までに株主に通知を要します。

(4)出資の履行と現物出資規制
 引受人は払込期日または払込期間内に会社が定めた銀行等の払込取扱金融機関に払込金額の全額を払い込むことを要します(第208条1項)。直接会社に払い込むことはできないということです。

出資が金銭以外の場合、つまり現物出資の場合も同様に、給付期日または給付期間内に全額に相当する出資財産の給付を要します(同2項)。なお現物出資がある場合は原則として裁判所が選任した検査役による調査が必要です(207条)。

例外的に現物出資をする引受人に割り当てる株式の数が発行済株式総数の10%を超えない場合、出資財産が市場価格のある有価証券で法務省令で定める額を超えない場合、財産価格が相当である旨の弁護士等による証明がある場合、出資財産が履行期の到来している当該会社に対する債権である場合には検査役による調査は不要です(同9項)。

 

社債の発行手続き


(1)発行事項の決定
 募集社債の発行も募集株式と同様に決定すべき事項があります。①募集社債の総額、②社債一口の金額、③利率、④償還方法と期限、⑤利息支払い方法と期限、⑥社債券を発行する場合はその旨、⑦払込金額または最低金額、⑧払込期日などを決定することとなります(第676条)。

そして、決定機関は取締役会、取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数によって決定します。この決定は各取締役に委任することはできませんが、指名委員会等設置会社の場合、執行役に委任することはできます(第362条4項および5項)。

(2)申し込みと割当
 会社は募集に応じて社債の引受けの申し込みをしようとする者に対し、会社の商号、募集事項、その他法務省令で定める事項を通知することとなります(第677条1項)。

これに対し、申込みをする者は会社に対し書面で、申込者の氏名・名称と住所、社債の金額、希望する払込金額を通知します(同2項)。会社の承諾がある場合は電磁的方法により通知することも可能です(同3項)。

会社は申込者の中から割当を受ける者と割り当てる社債の金額と数を決定します(第678条1項)。申込者が申しこんでいた数よりも少ない数を割り当てることも可能です(同後段)。これは募集株式の割当と同様です。

申込者は社債の払込を行うこととなりますが、払い込む先は募集株式の出資と異なり特に制限はありません。一括で払い込ませることも分割にすることも可能とされます(会社法施行規則第162条1号)。出資と異なり相殺もできるとされます。

(3)社債管理者
 募集社債を発行する場合、原則として社債管理者の設置が必要となります。社債管理者は社債権者のために債権の弁済を受けたり、償還のために必要な一切の裁判上または裁判外行為をする権限を有するとされます(第705条1項)。

社債管理者となるのは通常、銀行や信託会社などの金融機関となります。

なお、各社債の金額が1億円を下回らない場合、または社債権者が50人未満である場合は社債管理者の設置は不要とされます。

このような場合は、社債権者は一般投資家ではなく金融機関等の、いわゆるプロの投資家であるため、社債の管理も自ら行う知識を有しており、別途社債管理者を設置する必要性が乏しいことが理由です。

 

まとめ


 以上のように企業が資金調達を行う場合、大きく3つの方法が存在します。それぞれにメリット・デメリットがあり、また必要な手続きも異なります。

調達額も大きく返済義務が無い反面、経営権に影響を及ぼす募集株式の発行、経営権に影響は無いものの会社の信用力に依存し、額や利息などの決定も自由に行えない金融機関からの借入、それらの中間的な性質を持つ募集社債の発行、現に存在する現物の価値分しか調達できない会社資産の売却など様々な手段が存在します。

それぞれの特徴を踏まえ、自社の原状にもっとも適した資金調達手段を検討し、実行していくことが重要と言えるでしょう。

 

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