消費者庁による糖質カット炊飯器への処分を取り消し ー東京地裁
2025/07/30 コンプライアンス, 行政対応, 広告法務, 景品表示法, 行政法, メーカー

はじめに
ご飯の「糖質カット」をうたう炊飯器を巡る消費者庁の措置命令に対し、販売会社が取り消しを求めていた訴訟で25日、東京地裁が取り消す判決を出していたことがわかりました。
優良誤認に当たるとは言えないとのことです。今回は措置命令が出された際の対応について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、炊飯器を販売している「forty-four」は2021年~23年、自社サイトで「おいしさそのまま糖質45%カット」などと表示していたとされます。
消費者庁はこの表示について、糖質カット機能で炊いた米も通常の機能と同様の炊き上がりになるかのように表示しているとして表示を裏付ける資料の提供を求めたとのことです。
同社は資料を提出したものの、消費者庁は合理的根拠が示されていないとし、景表法の優良誤認表示に該当するとして措置命令を出しました。
これに対し同社は、「普段どおり炊くだけで糖質カットができると表示しているだけで、糖質カット炊飯でも通常炊飯と同じ炊き上がりになるとは表示していない」として、処分の取り消しを求め、東京地裁に提訴していました。
景表法による規制
景表法では、一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であるかのような表示や、価格や取引条件について実際よりも著しく有利であるかのような表示は優良誤認表示、有利誤認表示として禁止されています(5条1号、2号)。
消費者庁はこれらの疑いがあると判断した場合はその調査を開始します。
商品やサービスの性能や効果に関する表示については、期間を定めてその裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を命じることができ、提出が無い場合や、合理的根拠が示されていない場合は優良誤認表示とみなされることとなります。これを不実証広告規制と言います(7条2項)。
消費者庁が優良誤認表示などに該当すると判断すると、当該行為の差止や再発防止などを命じる措置命令(7条1項)、また課徴金納付命令が出されることとなります(8条1項)。
措置命令への対応
ここからは措置命令への対応を見ていきます。
消費者庁が措置命令を出す場合、まずその内容と弁明の機会の通知が行われます。ここで不服がある場合は弁明書を提出します。
それにもかかわらず措置命令が出された場合は消費者庁長官に対して審査請求をすることも可能です(行政不服審査法2条)。
この審査請求と同時に、または審査請求せずに措置命令の取消訴訟を提起することができます。
審査請求は措置命令を出す消費者庁の長官宛て行うものであることから、一般的には言い分が認められ措置命令が撤回されるということはほぼ期待できないと言えます。
そこで一番メインとなる対抗手段は行政訴訟である取消訴訟となります。取消訴訟は違法な行政処分を裁判所が取り消すというものです。
景表法の措置命令だけでなく、独禁法の排除措置命令など多くの行政処分が対象となっています。
取消訴訟と執行停止
行政処分は取消訴訟を提起しただけではその執行は止まりません。そこで同時に執行停止の申立てを行うこととなります(行政事件訴訟法25条1項)。
執行停止が認められる要件としては、(1)重大な損害を避けるため緊急の必要があること、(2)公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと、(3)本案について理由がないとみえる場合に該当しないこととなっています。
「重大な損害」については損害の回復困難の程度、損害の性質、程度、処分の内容、性質が勘案されるとされています(同3項)。
執行停止の決定は口頭弁論を経ずに行えますが、当事者の意見が聴取されます(同6項)。執行停止の申立てに対する却下決定に対しては即時抗告をすることが可能です(同7項)。
なお、執行停止については内閣総理大臣が裁判所に対し異議を述べることができるとされます(27条1項)。この異議があった場合裁判所は執行停止を取り消すこととなります(同4項)。
コメント
本件で消費者庁は、同社の表示を糖質カット炊飯機能で炊飯しても通常の炊飯機能で炊飯したものと同様の炊き上がりになるかのように表示しているとして措置命令を出しました。
これに対し東京地裁は、「表示内容の全体を見た一般消費者は、通常の炊飯機能で炊飯したものと同様の炊き上がりになるとの認識をするとは言えない」とし、景表法の不当表示に該当しないにもかかわらず措置命令が出されたとして措置命令を取り消しました。
景表法の措置命令が行政訴訟で取り消されるのは初とのことです。
以上のように法令の規定に該当しないにもかかわらず出された行政処分は違法であり、取消訴訟で取り消すことが可能です。
取消判決を得ることは簡単ではありませんが、まちがった措置命令は取り消すことができると示されたことに意義があると言えます。
行政処分を受けた際にはどのように対抗することができるのかを把握して、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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