消費者庁が注意喚起、マスク送り付けについて
2020/04/30 コンプライアンス, 民法・商法, 特定商取引法
はじめに
消費者庁は新型コロナウイルス感染拡大への対応として行われているマスク配布に便乗して高額なマスクを送りつける商法が増加しているとして注意を呼びかけております。全国の警察や消費者センターなどに相談が寄せられているとのことです。今回は送り付け商法に対する法的規制についてみていきます。
事案の概要
報道などによりますと、政府によるマスクの配布開始に合わせて全国各地で見に覚えのないマスクが宅配便などで送付されてくるとの相談が寄せられているとのことです。13日までに消費者庁に寄せられた相談のうち151件がマスク等の送り付けに関するものであり、見に覚えがなくても家族が注文したのだろうと慌てて振り込む事態が想定されるとしています。ただ送り付けられるだけで代金の請求が無い例も多いとされます。消費者庁や警察では慌てずに相談してほしいと呼びかけております。
送り付け商法とは
送り付け商法とは、注文がないにもかかわらず消費者に商品を送り付け代金を請求するというものでネガティブオプション商法とも呼ばれております。受け取った時点で売買契約が成立する、何日までに返送しない場合は売買契約が成立するなどと主張して代金を請求する場合が多いとされます。主に高齢者の自宅に送り付けられる場合が多く、健康食品や布団、本や写真集、カニなどの例もあったとされます。
売買契約の成立
民法522条1項によりますと、売買契約は契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示である「申込み」に対して相手方が「承諾」をしたときに成立するとしています。つまり申込みに対し承諾があり、互いに意思の合致があって初めて売買契約は成立することとなります。業者側が一方的に受け取りをもって契約は成立する、何日以内に返送しなければ契約は成立すると表示していたとしても消費者が承諾しなければ契約は成立しません。
特定商取引法による規制
それでは送り付けられた商品はどうなるのでしょうか。特定商取引法59条によりますと、商品が送付された日から14日、または業者に引き取りを請求した日から7日経過するまでに消費者の承諾または業者の引取がない場合は商品の返還請求ができなくなります。つまり承諾しないままこの期間が経過すれば受け取った側は商品を自由に処分することが可能ということです。なおこの期間が経過しないうちに商品を消費してしまった場合には「承諾の意思表示と認めるべき事実」として契約が成立したと認められる可能性があると言えます(527条)。
送り付け商法と罰則等
特定商取引法上、このような送り付け商法に対しては特に罰則等は設けられておりません。しかし相手方に対し、「受け取った以上代金を支払う義務がある」「受け取った時点で契約は成立している」「あなたが注文したことを忘れているだけ」などとして代金を支払わせた場合は別途詐欺罪に該当する可能性があります(刑法246条)。実際に高齢者の家などの高額な健康食品を送り付けていた健康食品販売会社の従業員が詐欺容疑で逮捕された事例が存在します。その事例では被害者は1万人にのぼり、被害総額は約2億円とされております。
コメント
昨今の新型コロナウイルスの感染拡大によって全国でマスクの供給が追いつかず品薄となっております。政府は各世帯につき2枚ずつマスクを無償で配布しておりますが、それに便乗するように悪質商法が発生しているとのことです。上記のように契約は申込みと承諾の意思の合致があって初めて成立します。売り手側がどのような条件をつけていても一方的に契約成立を主張することはできません。顧客に新製品を売り込む際にはこの点を留意しつつ、強引な勧誘になっていないか、あたかも代金支払義務が発生しているかのように説明していないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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