東京地裁が大塚製薬社員の自死を労災認定、みなし労働時間制について
2026/04/24 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 医療・医薬品

はじめに
うつ病で自死した大塚製薬の男性社員(当時31)の労災を労基署が認めなかったのは不当であるとして、遺族が処分の取消を求めていた訴訟で、東京地裁が労災を認めていたことがわかりました。多い月で、時間外労働が約86時間にのぼっていたとのことです。今回はみなし労働時間制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、男性は2016年11月、大塚製薬の長崎出張所に配属されたといいます。しかし、翌年には人員減による業務量増加に見舞われ、18年4月に自死したとされます。自死する直前には会話が噛み合わないなどうつ病と見られる症状が出ていたとのことです。
男性は営業職で外回りも多く、実際の労働時間にかかわらず所定労働時間を働いたとみなす、“事業場外みなし労働時間制”のもとで働いていたとされています。その結果、男性の労働時間は常に「午前9時~午後5時半」とされ、会社は実労働時間を把握していなかったとのことです。
男性は発症前の6か月間に時間外労働が約86時間にのぼる月があった他、12日間以上の連続勤務が3回あり、18年3月に20日間連続勤務をした直後に、うつ病を発症したとみられています。
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とは、実労働時間の把握が難しい業務に適用される労働時間制を言います。一口にみなし労働時間制と言っても、大きく(1)「事業場外みなし労働時間制」と(2)「裁量労働制」に分かれます。
使用者は原則として労働者の実労働時間によって労働時間を算定することが求められます(労基法32条等)。しかし、外回りの営業など使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難となる場合には使用者のこの義務が免除されることがあります。これが事業場外みなし労働時間制です。
これに対し、裁量労働制は業務の専門性が高く、業務を遂行する方法や時間配分などについては労働者自身に委ねたほうが効率的で適切な場合などに認められています。
裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」分かれており、前者は研究職やデザイン等の考案業務、放送プロデューサー、記者、編集者や弁護士等の士業などが対象となります(労基法38条の3)。
企画業務型裁量労働制は企業の事業運営に関する企画や立案、調査や分析業務等が対象となっています(38条の4)。
事業場外みなし労働時間制の要件
労基法38条の2第1項では、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と規定されています。つまり(1)労働時間の全部又は一部が事業場外業務であることと、(2)労働時間を算定し難いことが要件となります。
労働時間の全部又は一部が事業場外業務である場合とは、使用者の具体的な指揮監督が及ばない場所で業務に従事していたかで判断されます。外勤の営業職や新聞等の記者など日常的に事業場外で業務に従事する労働者だけでなく、一時的な出張などもこれに含まれるとされています。
次に、労働者が事業場外で業務に従事する場合でも、指揮監督が及んでおり労働時間の算定が可能な場合はみなし労働時間制の適用はないとされます。たとえば事業場外で業務に従事するグループ内に労働時間を管理する者がいる場合や、無線やポケベル等によって随時使用者から指示を受けている場合、事業場で当日の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示通りに業務に従事する場合などが挙げられています。
みなし労働時間制に関する裁判例
みなし労働時間制に関する事例として、旅行会社の添乗員に事業場外みなし労働時間制の適用の有無が認められるかが問題となった例が存在します。
この事例で裁判所は、添乗員は旅行日程があらかじめ具体的に確定しており、また、会社があらかじめ日程や旅程の管理等を具体的に指示した上で、添乗日報によって業務の遂行状況等の詳細な報告を受けることになっていることから「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとしました(最判平成26年1月24日)。
また、金融会社の営業社員について適用の有無が問題となった事例でも裁判所は、外勤中の行動内容を記したメモを会社に提出し、外勤中の行動を報告した場合は予定表の該当欄に線を引く等の行為が行われ、社用携帯電話も持たされていたことから労働時間を算定することが困難とは言えないとし事業場外みなし労働時間制の適用を受けないとしています(大阪地裁平成14年7月19日)。
このように、みなし労働時間制に関しては2番目の要件である「労働時間を算定し難いとき」に該当するのかが問題となることが多く、否定された場合には通常の賃金や割増賃金等の支払が命じられることとなります。
コメント
本件では営業職で外回りが多かったことから“事業場外みなし労働時間制”が採用され、午前9時~午後5時半が労働時間とされていたとされます。
しかし、みなし労働時間制で働く外勤職員等は長時間労働につながりやすく、心身の健康に支障を来すリスクも高いと言えます。
また、上記のように外勤営業職など事業場外で働く場合でも、実際には会社が労働時間を算定し難いとは言えない場合も多く、その場合には適用が認められないこともあり得ると言えます。
みなし労働時間制を採用する際には本当に実労働時間の算定が困難と言えるのかを詳細に検討し、慎重に勤怠管理を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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