経済安全保障法務:中国の改正国家秘密保護法の概要
2024/03/15   海外法務, 中国法

浅井敏雄[1]


本年(2024年) 2月27日, 中国では国家秘密保護法(原文:人民共和国保守国家秘密法)の改正が成立し, 本年5月1日より施行されることとなった(以下改正後の同法を「本法」という)。日本企業やその中国国内の関連会社は, 直接, 中国の国家秘密を取扱うことは少ないであろうが, 例えば, 自社の取引先が中国の中央政府または地方政府の機関の場合や, 自社の業務または取引が中国の国家安全・国家利益に関係する場合には, 国家秘密に接する可能性もあると思われ, その場合には同法が関係するまた, 近年日本人の拘束事件も発生している中国の反スパイ法(原文:中华人民共和国反间谍法)[2]では, 「国家機密, 情報その他の国家の安全又は利益に関わる文書・データ・資料・物品を窃取し・探り・購入し・違法に提供(する)」行為も反スパイ行為とされている(4条1項3号)が, その「国家秘密」の定義・内容等は本法で定められている従って, 本法の内容は, 日本企業やその中国国内の関連会社の関心事であろうと思われるので, 以下において, 本法の内容を関係条文を挙げて紹介および解説する[3] なお, 我が国にもおいても, 国家安全保障に関わる情報に関し「特定秘密の保護に関する法律」(以下「特定秘密保護法」という)が制定されているが, 随時, 本法の内容を同法の内容とも比較する。本稿中, 関係条文などにおける[  ]内の記述は筆者の補足である。
  

【目  次】


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1 国家秘密の意義等


2 本法の目的・総則


3 国家秘密の確定手続, 秘密保護期間・秘密解除, 知り得る範囲等


4 秘密保護制度


5 監督管理


6 法的責任


7 人民解放軍等の秘密保護業務, 業務秘密(工作秘密)


 

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1 国家秘密の意義等


【関係条文】


【国家秘密の定義】 (第2条)国家秘密とは, 国家の安全および利益に関係し, [後述の本法19条等の]法定の手続により確定され, [後述の本法20条2項に定める原則最大30年間の]一定期間内において一定範囲の者に限って知り得る事項を意味する。

【国家秘密の範囲・党の秘密】 (第13条1項)国家の安全および利益に関わる次の事項であって, その漏洩が, 国家の政治, 経済, 国防, 外交等の分野の安全および利益を損なう虞があるものは, 国家秘密とする

(一) 国事に関わる重大な政策決定に関する秘密事項。

(二) 国防建設および武装力量[人民解放軍, 武装警察および民兵[4]]の活動に関する秘密事項。

(三) 外交もしくは外事活動に関する秘密事項, または対外的に秘密保護義務を負う秘密事項。

(四) 公民経済社会発展に関する秘密事項

(五) 科学技術に関する秘密事項

(六) 国家安全維持業務または刑事犯罪追及に関する秘密事項。

(七) その他, 国家秘密保護行政管理部門が定める秘密事項

(第13条2項)政党[主に共産党であろう]の秘密事項であって前項の規定に合致するものは, 国家秘密に属する

【国家秘密の秘密等級】 (第14条1項)国家秘密の秘密等級(区分)は, 絶秘(原文:密), 機密(原文:机密), 秘密(原文:秘密)の三等級に分かれる。

(第14条2項)絶秘級国家秘密は, 最重要の国家秘密であってその漏洩によって国家の安全および利益が特別に重大な損害を受けるものを, 機密級国家秘密は, 重要な国家秘密であってその漏洩によって国家の安全および利益が重大な損害を受けるものを, 秘密級の国家秘密は, 一般的な国家秘密であってその漏洩によって国家の安全および利益が損害を受けるものである。

【秘密等級の具体的範囲の確定・変更・解除】 (第15条1項)国家秘密およびその秘密等級の具体的範囲(以下「秘密保護事項範囲」という)は, 国家秘密保護行政管理部門[具体的には国家保密局を指すと思われる[5]]が, 単独でまたは関係する中央国家機関と協力して定める

(第15条2項)軍事分野の秘密保護事項範囲は, 中央軍事委員会がこれを定める。

(第15条3項)秘密保護事項範囲の確定は, 必要性と合理性の原則に従い, 科学的に論証評価し, かつ状況の変化に応じて速やかに調整しなければならない。秘密保護事項範囲に関する規定は, 関係する範囲内で公布しなければならない。

(第7条1項,第19条)国家機関および国家秘密に関わる単位(「機関および単位」)は, その生成した国家秘密事項について, 秘密事項範囲の定めに従い秘密等級を確定し, 同時に秘密保護期間およびこれを知り得る範囲を確定しなければならない

【国家秘密の表示】 (第22条1項)機関および単位は, 国家秘密を含む紙媒体, 光媒体, 電磁媒体等の媒体(以下「国家秘密媒体」という)および国家秘密に属する設備または製品に対し, 国家秘密の標識を付さなければならない[6]

(第22条2項)国家秘密に係わる電子文書については, 国の関係規定に従い国家秘密の標識を付さなければならない

(第22条3項)国家秘密に属さないものには, 国家秘密の標識を付してはならない。

【集約化または関連付けにより国家秘密に該当する場合】(第36条3項)機関および単位は, 集約または関係付け後に国家秘密に該当するデータに対し, 法に従い安全管理を強化しなければならない

【国家秘密に関する鑑定】 (第53条)国家秘密漏洩の疑いがある事件を処理する機関が, 関係事項が国家秘密であるか否かまたは如何なる秘密等級であるかについて鑑定を行う必要がある場合, 国家秘密保護行政管理部門または省, 自治区または直轄市の秘密保護行政管理部門がこれを鑑定する。

【解 説】


上記関係条文から理解される「国家秘密」の意義を, 日本の特定秘密保護法第3条の「特定秘密」と比較して分析すると以下のようになる。
 

中国の「国家秘密」


 

日本の「特定秘密」


 

それを生成・取得・確定(指定)する主体

 

国家機関および国家秘密に関わる単位(「機関および単位」)である(7条1項等)。この「国家機関」には中央国家機関の他, 省級以下の地方国家機関も含まれる[7]従って, 例えば, 県級の地方人民政府の情報も国家秘密に該当し得る。「国家秘密に関わる単位」とは, 国家秘密に関わる国家機関以外の単位(組織), 例えば, 国から国防上の国家秘密に該当する兵器の開発・生産等を委託された民間企業が該当し, その民間企業が兵器開発・生産等の過程で作成した情報も国家秘密に該当し得ると思われる。

 

「行政機関」(国の行政機関)である(2条, 3条)。地方公共団体は含まれない。従って, 地方公共団体が生成等する情報は, 国から提供された特定秘密を除き, 原則として特定秘密に該当しない[8]。民間企業が生成等する情報も同様。

 

何に関する情報か。

 

国事, 国防, 外交・外事の他, 経済社会, 科学技術等に関する情報, その他国家秘密保護行政管理部門が定める事項に関する情報, 共産党等の政党に関する情報まで, 非常に広い分野の情報が含まれる(13条)。

 

防衛, 外交, 特定有害活動(スパイ活動等)の防止またはテロリズムの防止に関する情報に限定されている(3条, 別表)。

 

 

内容・質的要件

 

三等級に区分されるが, 最低限, その漏洩によって国家の安全および利益が損害を受けるものであること(14条)。

 

その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあること(3条1項)。

 

国家秘密・特定秘密であることの確定・指定

 

(中央の)国家秘密保護行政管理部門等が定めた国家秘密およびその秘密等級の具体的範囲(「秘密保護事項範囲」)に従い, その国家秘密を生成した各級の機関および単位が, 秘密等級, 秘密保護期間およびこれを知り得る範囲を確定する(15条, 19条)。

 

内閣で定めた基準に従い, 各行政機関の長が, 当該機関の所掌事務に係る情報について, 特定秘密として指定し, その秘密保持期間を定める(18条, 3条1項, 4条)。

 

国家秘密または特定秘密であることの表示等

 

国家秘密媒体, 国家秘密に属する設備・製品, および国家秘密に係わる電子文書に国家秘密の標識を付さなければならない(22条)。

 

特定秘密に係る文書, 図画, 電磁的記録, 物件に特定秘密の表示をし, その表示が困難な場合は当該情報を取り扱う者に特定秘密であることを通知しなければならない(3条2項)。

上記の通り, 中国において, 「国家秘密」には, 地方人民政府の情報も含まれる可能性があり, また, 国事, 国防, 外交・外事の他, 経済社会・科学技術・別途当局が定める事項・共産党等に関する情報も含まれる可能性がある。また, その漏洩により国家の安全および利益に生ずる損害の程度が必ずしも「特別に重大」または「重大」と言えないレベルの情報も「国家秘密」に該当する可能性がある。従って, 非常に広範囲の情報が「国家秘密」に該当する可能性がある。また, 媒体, 設備, 製品, 電子文書には国家秘密であることの表示はされるが, 口頭, 視覚等により外部の者が知り得た情報については, 国家秘密であることの表示・明示はされていない可能性がある。しかし, 本法第2条の国家秘密の定義からすれば, 国家秘密の表示・明示がなくても国家秘密に該当し得る(このことは司法解釈で明確にされている[9])。この結果, 企業は, それと気づかずに, 国家秘密を受領・収集または知得してしまい, 本法違反の責任(57条1項1号など)または反スパイ行為(反スパイ法4条1項3号)の責任の追及を受ける可能性があると思われる。従って, 企業としては, 特に, 自社の取引先が中国の中央政府または地方政府の機関の場合や, 自社の業務または取引が中国の国家安全・国家利益に関係するなどの場合には, 関連する情報の受領・収集または知得に十分注意する必要がある。 なお, 上記第36条3項で前提されている通り, 各種の情報の集約または関係付けにより国家秘密に該当することもある。これらの点に関しては, 昨年来(おそらく)反スパイ法違反で摘発されたコンサル会社[10]を通じた情報収集についても同様である。

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2 本法の目的・総則


【関係条文】


【本法の法目的】 (第1条)国家秘密を保護し, 国家の安全および利益を保護し, 改革公開および社会主義現代化建設事業の円滑な進行を保障するため, 憲法に基づき, 本法を制定する。

【共産党の指導】 (第3条)国家秘密保護(以下「秘密保護」という)業務に対する中国共産党の指導は堅持されなければならない。中央秘密保護業務指導機構[11]は, 全国の秘密保護業務を指導し, 国家秘密保護業務の戦略および重大方針・政策を研究, 策定, 指導および実施し, 国家秘密保護の重大事項および重要業務を統一的に調整し, 国家秘密保護の法治確立を推進する。

【秘密保護業務の原則】 (第4条1項)秘密保護業務は, 総体的国家安全観の堅持, 党による秘密保護管理, 法による管理, 積極的予防, 重要事項最優先, 技術および管理の重視並びに革新発展の原則に従い, 国家秘密の安全を確保するとともに, 情報資源の合理的利用を促進する。

(第4条2項)法律または行政法規で公開が義務付けられた事項は, 法に従い公開しなければならない。

【国家秘密の法的保護, 義務・責任】 (第5条1項)国家秘密は法律によって保護される。

(第5条2項)全ての国家機関および武装力量, 各政党および各人民団体, 企業事業組織, その他の社会組織および公民は, 秘密保護義務を負う

(第5条3項)国家秘密の安全を害する如何なる行為も, 法律に従い責任追及される

【主管行政機関】 (第6条)国家秘密保護行政管理部門は, 全国の秘密保護業務を主管する。県級以上の地方各級秘密保護行政管理部門は, 当該行政区域の秘密保護業務を主管する。

【秘密保護業務の管理等の主体】 (第7条1項)国家機関および国家秘密に関わる単位(以下「機関および単位」という)は, 当該機関および当該単位の秘密保護業務を管理する

(第7条2項)中央国家機関は, その職権の範囲内において, その系統組織の秘密保護業務を管理しまたは指導する。

【秘密保護業務の責任制度】 (第8条)機関および単位は, 秘密保護業務の責任制度を実施し, 法に従い秘密保護業務組織を設置しまたは専任者を指定して秘密保護業務の責任を負わせ, 秘密保護管理制度を確立・改善し, 秘密保護措置を整備し, 秘密保護宣伝教育を行ない, 秘密保護監督検査を強化しなければならない。

【秘密保護宣伝教育等】 (第9条)国は, 様々な方法により秘密保護宣伝教育を強化し, 秘密保護教育を公民教育体系および公務員教育研修体系に組み入れ, マスメディアが社会に向けて秘密保護宣伝教育を行い, 秘密保護知識を普及しおよび秘密保護法治を宣伝し, 社会全体の秘密保護意識を強化することを奨励する。

【秘密保護科学技術の研究・応用等の奨励】 (第10条)国は, 秘密保護科学技術の研究と応用を奨励および支持し, 自主革新能力を向上させ, 法に従い秘密保護分野の知的財産権を保護する。

【秘密保護業務の計画化・予算化】 (第11条1項)県級以上の人民政府は, 秘密保護業務をその級の公民経済社会発展計画に組み入れ, 必要経費をその級の予算に計上しなければならない。

(第11条2項)機関および単位が秘密保護業務を行うのに必要な経費は, 当該機関および当該単位の年度予算または年度収支計画に計上しなければならない。

【秘密保護人材の育成と表彰・報奨】 (第12条1項)国は, 秘密保護の人材育成およびチーム構築を強化し, 関係する奨励保障の仕組みを確立・改善しなければならない。

(第12条2項)国家秘密の保護業務に顕著な貢献をした組織または個人に対しては, 国の関係規定に従い表彰または報奨を行わなければならない。

【解 説】


上記の通り, 国家秘密の保護に関し, 中国共産党の指導の堅持, 習近平主席の提唱する「総体的国家安全観」[12]の堅持, 共産党による秘密保護管理, 国家秘密保護の中央集権性等が強調・明記され, 国家安全保障の一環としての国家秘密保護に関する非常に強い国家と党の意思が感じられる。その結果, 民間組織, 一般国民(公民)のレベルにまで, 国家秘密の秘密保護義務を負わせ, 国家秘密の安全を害する如何なる行為も法律に従い責任追及するとしている(5条2項・3項)。この国家秘密保護義務および責任追及の対象には日本企業の中国国内の関連会社も当然含まれる。

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3 国家秘密の確定手続, 秘密保護期間・秘密解除, 知り得る範囲等

【関係条文】


【秘密確定責任者および秘密確定権限】(第16条1項)機関および単位の主要責任者およびその指定する者は, 秘密確定責任者として, 当該機関および当該単位の国家秘密の確定, 変更および解除の業務に責任を負わなければならない。

(第16条2項)機関および単位が当該機関および当該単位の国家秘密を確定, 変更および解除する場合には, その担当者が具体的意見を提出し, 秘密確定責任者の審査承認を経なければならない。

(第17条1項)国家秘密の秘密等級の確定は, [以下に定める]秘密確定権限に従わなくてはならない

(第17条2項)中央国家機関, 省級機関およびこれらが授権した機関および単位は, 絶秘級, 機密級および秘密級の国家秘密を確定することができ, 設区的市級の機関およびそれが授権した機関および単位は, 機密級および秘密級の国家秘密を確定することができ, 特殊状況下において上述の授権により秘密を決定することができない場合には, 国家秘密保護行政管理部門もしくは省または自治区もしくは直轄市の秘密保護行政管理部門は, 機関および単位に秘密確定権限を与えることができる。具体的な秘密確定権限および授権範囲は国家秘密保護行政管理部門が定める。

(第17条3項)下級の機関および単位は, 当該機関および当該単位で生成した関係秘密事項が上級の機関および単位の秘密確定権限に属すると信ずる場合には, 先ず秘密保護措置を講じ, かつ, 直ちに上級の機関および単位にこれを報告しその判断を仰がなければならない。上級の機関および単位がない場合には, 直ちに相応の秘密確定権限を有する業務主管部門または秘密保護行政管理部門に提出しその判断を仰がなければならない。

(第17条4項)公安機関および国家安全機関は, その業務範囲内において, 所定の権限に基づき, 国家秘密の秘密等級を確定しなければならない。

(第18条)機関および単位が上級の[機関および単位が]確定した国家秘密事項を執行する場合または他の機関もしくは単位が確定した国家秘密事項を取扱う場合において, これに派生して秘密を確定する必要があるときは, 当該執行しもしくは取り扱う国家秘密事項の秘密等級に基づき確定しなければならない。

【国家秘密の秘密保護期間と秘密解除】 (第20条1項)国家秘密の秘密保護期間は, その事項の性質および特徴に基づき, 国家の安全および利益を保護する必要に応じ, 必要な期間に限定しなければならない。当該期間を確定できない場合は, 秘密解除の条件を確定しなければならない。

(第20条2項)国家秘密の秘密保護期間は, 別段の定めがある場合を除き, 絶秘級については30年を超えてはならず, 機密級については20年を超えてはならず, 秘密級については10年を超えてはならない

(第20条3項)機関および単位は, 業務上の必要性に基づき, 具体的な秘密保護期間, 秘密解除時期または秘密解除条件を確定しなければならない。

(第20条4項)機関および単位が関係事項の決定または処理の業務過程において秘密保護が必要であると確定した事項を業務上の必要に基づき公開することを決定した場合には, 正式公開の時点で秘密解除されたものとみなす。

【国家秘密を知り得る範囲】 (第21条1項)国家秘密を知り得る範囲は, 業務上の必要に応じて最小範囲に限定しなければならない。

(第21条2項)国家秘密を知り得る範囲を特定職員に限定できる場合は, 特定職員に限定しなければならない。特定職員に限定できない場合は, 機関および単位に限定し, 当該機関および単位が特定職員に限定しなければならない。

(第21条3項)国家秘密を知り得る範囲以外の者が, 業務上国家秘密を知る必要がある場合, 当該機関および単位の主要責任者またはその指定する者の承認を得なければならない。秘密確定元の機関および単位に, 国家秘密を知り得る範囲の拡大について明確な規定がある場合には, その規定を遵守しなければならない。

【秘密等級, 秘密保護期間および知り得る範囲の変更およびその通知】 (第23条1項)国家秘密の秘密等級, 秘密保護期間および知り得る範囲は, 状況の変化に応じて速やかに変更しなければならない。国家秘密の秘密等級, 秘密保護期間および知り得る範囲の変更は, 秘密確定元の機関および単位が決定するものとし, その上級機関も決定することができる。

(第23条2項)国家秘密の秘密等級, 秘密保護期間および知り得る範囲に変更があった場合, それを知り得る範囲内の機関, 単位または者に, 速やかにその旨書面で通知しなければならない。

【国家秘密の毎年審査, 秘密解除, 秘密保護期間の延長】 (第24条1項)機関および単位は, 確定した国家秘密を毎年審査しなければならない。

(第24条2項)国家秘密の秘密保護期間が満了した場合には, 自動的に秘密解除されたものとみなす。秘密保護期間内に秘密事項範囲の調整により国家秘密でなくなった場合, または公開しても国家の安全および利益を損なわず秘密保護を継続する必要がない場合は, 速やかに秘密解除しなければならない。秘密保護期間を延長しなければならない場合には, 元の秘密保護期間満了前に改めて秘密等級, 秘密保護期間および知り得る範囲を確定しなければならない。秘密保護期間満了前の秘密解除または秘密保護期間の延長は, 秘密保護確定元の機関および単位が決定するものとし, その上級機関も決定できる。

【疑義の解決】 (第25条)機関および単位において, 国家秘密に属すか否かまたは如何なる秘密等級に属すかについて不明確性または争いがある場合, 国家秘密保護行政管理部門もしくは省または自治区もしくは直轄市の秘密保護行政管理部門が国の秘密保護規定(原文:国家保密规定)[後述の第48条の国家秘密保護行政管理部門が制定する秘密保護規則[原文:保密规章]のことと思われる]に従いこれを確定する。

【解 説】


国家秘密の秘密保護期間は, 絶秘級30年内, 機密級20年以内, 秘密級10年以内とされている(第20条2項)が, 延長可能であり, その延長の制限は規定されていない(第24条3項)。従って, 相当昔の情報でもなお国家秘密とされている可能性がある。なお, この点, 日本の特定秘密保護法では, 特定秘密の指定の有効期間は5年, 延長は5年ずつ, 累計最大30年(但し, 特別な場合に限り同60年)である(4条)。

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4 秘密保護制度


【関係条文】


【国家秘密媒体の取扱い】 (第26条1項)国家秘密媒体の製作, 受発信・受発送, 交付・伝達, 使用, 複製, 保存, 維持修正および廃棄については, 国の秘密保護規定に従わなければならない

(第26条2項)絶秘級の国家秘密媒体は, 国の秘密保護標準[後述の第48条の国家秘密保護行政管理部門が制定する国家保密标准のことと思われる]に適合する施設または設備に保存し, かつ専任者を指定して管理しなければならない。秘密確定元の機関もしくは単位またはその上級機関の承認を得ずに, これを複製または抜粋してはならない。受発信・受発送, 交付・伝達または外出携行については, 担当者を指定し, かつ必要な安全措置を講じなければならない。

【国家秘密に属す設備・製品の取扱い】 (第27条)国家秘密に属する設備または製品の研究開発, 生産, 輸送, 使用, 保存, 維持修正および廃棄については, 国の秘密保護規定に従わなければならない。

【国家秘密媒体に関する管理強化・禁止行為】 (第28条)機関および単位は, 国家秘密媒体の管理を強化しなければならず, 如何なる組織および個人も次の行為をしてはならない

(一) 国家秘密媒体を不法に取得または保持すること

(二) 国家秘密媒体を売買, 譲渡・転送または無断廃棄すること。

(三) 秘密保護措置を講じることなく, 国家秘密媒体を普通郵便, 速達等の手段で交付・伝達すること。

(四) 国家秘密媒体を境外(本土外)に郵送または託送すること

(五) 関係主管部門の承認を得ずに, 国家秘密媒体を境外に携行しまたは交付・伝達すること

(六) その他, 国家秘密媒体秘密保護規定に違反する行為

【国家秘密の複製・記録・保存・送信に関する禁止行為】 (第29条1項)国家秘密の不法な複製, 記録または保存は禁止される。

(第29条2項)国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講じることなく, インターネットその他の公共情報ネットワークまたは有線または無線通信により国家秘密を送信することは禁止される

(第29条3項)私的な交流または通信に国家秘密を含めることは禁止される

【秘密情報システム】 (第30条1項)国家秘密を保存または処理するコンピュータ情報システム(以下 「秘密情報システム」 という)については, 秘密保護の程度に基づき分級保護を行なわなければならない

(第30条2項)秘密情報システムについては, 国の秘密保護規定および標準に従い計画, 構築, 運用および保護し, かつ秘密保護の施設または設備を備えなければならない。秘密保護の施設または設備は, 秘密情報システムと同期して計画, 構築および運用しなければならない。

(第30条3項)秘密情報システムは, 規定に従い検査に合格した後でなければ使用を開始することができず, かつ定期的にリスク評価を行わなければならない

【情報システムおよび情報設備の秘密保護管理】 (第31条)機関および単位は, 情報システムおよび情報設備に対する秘密保護管理を強化し, 秘密保護の自己監督管理組織を構築し, セキュリティ秘密保護リスクを速やかに発見し対処しなければならない。如何なる組織または個人も次の行為をしてはならない

(一) 国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講ずることなく, 秘密情報システムまたは秘密情報設備をインターネットその他の公共情報ネットワークに接続すること

(二) 国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講ずることなく, 秘密情報システムまたは秘密情報設備とインターネットその他の公共情報ネットワークの間で情報交換を行うこと。

(三) 非秘密情報システムまたは非秘密情報設備を使用して国家秘密を保存または処理すること

(四) 秘密情報システムの安全技術プログラムまたは管理プログラムを無断でアンインストールしまたは変更すること

(五) 使用終了した秘密情報設備を, 安全技術処理を施すことなく, 寄贈, 売却, 廃棄または他の用途に転用すること

(六) その他, 情報システムまたは情報設備の秘密保護規定に違反する行為

【安全秘密保護製品・秘密保護技術設備の要件と検査】 (第32条1項)国家秘密の保護に用いる安全秘密保護製品および秘密保護技術設備については, 国の秘密保護規定および標準に従わなければならない

(第32条2項)国は, 安全秘密保護製品および秘密保護技術設備の抜き取り検査および再検査制度を構築するものとし, 国家秘密保護行政管理部門が設立しまたは授権した機関が当該検査を行う。

【新聞・雑誌等における国家秘密の取扱い】 (第33条)新聞・雑誌, 図書・書籍, 音・映像製品もしくは電子出版物の編集, 出版, 印刷, 製作もしくは発行, ラジオ番組, テレビ番組もしくは映画の製作もしくは放送・放映, またはネットワーク情報の製作, 複製, 公開もしくは伝播については, 国の秘密保護規定を遵守しなければならない。

【ネットワーク運営者の義務】 (第34条)ネットワーク運営者は, その利用者が公開する情報の管理を強化し, 監察機関, 秘密保護行政管理部門, 公安機関もしくは国家安全機関が国家秘密漏洩被疑事件について調査・処理を行うことに協力しなければならない。インターネットその他の公共情報ネットワークを利用して公開された情報について国家秘密漏洩の疑いがあることを発見した場合には, 直ちに当該情報の送信を停止し, 関係記録を保存し, 秘密保護行政管理部門または公安機関もしくは国家安全機関に報告しなければならない。また, 秘密保護行政管理部門または公安機関もしくは国家安全機関の要求に従い, 国家秘密漏洩が疑われる情報を削除し, 関係設備に対し技術的措置を講じなければならない。

【情報公開に対する秘密保護審査】 (第35条)機関および単位は, 法に従い公開しようとする情報に対して秘密保護審査を行う場合, 国の秘密保護規定を遵守しなければならない。

【国家秘密の安全(セキュリティ)監督管理】 (第36条1項)国家秘密を含むデータ処理業務およびその安全監督管理については, 国の秘密保護規定を遵守しなければならない。

(第36条2項)国家秘密保護行政管理部門並びに省, 自治区または直轄市の秘密保護行政管理部門は, 関係主管部門と共同で, 秘密保護安全防止管理の仕組みを構築し, 秘密保護安全防止管理措置を講じ, データの集約または関係付けによる秘密漏洩リスクを防止しなければならない。

(第36条3項)機関および単位は, 集約または関係付け後に国家秘密に該当するデータに対し, 法に従い安全管理を強化しなければならない

【国家秘密の境外(本土外)への移転規制】 (第37条)機関および単位は, 国家秘密を, 中国境外(本土外)に提供する場合, または中国境外の者が中国境内に設立した組織もしくは機関に提供する場合, またはその任用もしくは招聘した境外の者が業務上国家秘密を知る必要がある場合には, 国の関係規定に従い対処しなければならない

【会議等における国家秘密の取扱い】 (第38条)国家秘密に係る会議その他の活動が行われる場合, その主催単位は, 秘密保護措置を講じ, かつ, 参加者に秘密保護教育を行い, かつ具体的な秘密保護要件を提示しなければならない。

【秘密保護重要部門と秘密保護重要場所】 (第39条)機関および単位は, 絶秘級または多数の機密級しくは秘密級の国家秘密を扱う機関を秘密保護重要部門として確定し, 国家秘密媒体を集中的に製作, 保管もしくは保存する専門の場所を秘密保護重要場所として確定し, 国の秘密保護規定および標準に従い必要な技術防護施設もしくは設備を備えこれを使用しなければならない。

【軍その他国家秘密に属す場所・位置, その周辺の秘密保護管理】 (第40条1項)軍事制限区域, 軍事管理区, その他国家秘密に属し対外公開していない場所または位置については, 秘密保護措置を講じなければならず, 関係部門の承認を得ることなく, 対外公開または公開範囲拡大を無断で決定してはならない。

(第40条2項)秘密の軍事施設その他の重要な秘密に関わる単位の周辺区域については, 国の秘密保護規定に従い秘密保護管理を強化しなければならない。

【国家秘密業務に従事する企業事業単位の義務】 (第41条1項)国家秘密に関わる業務に従事する企業事業単位は, 相応の秘密保護管理能力を有し, かつ国の秘密保護規定を遵守しなければならない。

(第41条2項)国家秘密媒体の製作, 複製, 維持修正もしくは廃棄, 秘密情報システムの統合, 武器装備の科学研究・生産, または秘密軍事施設建設等の国家秘密業務に関わる企業事業単位は, 審査承認を経て, 秘密保護資格を取得しなければならない。

【国家秘密関連物品・サービス購入/業務委託に関する義務】 (第42条1項)国家秘密に関わる物品またはサービスを購入する機関もしくは単位, または国家秘密に直接関わるプロジェクトの構築, 設計, 施工, 監理等を行う単位は, 国の秘密保護規定を遵守しなければならない。

(第42条2項)機関および単位が企業事業単位に国家秘密に関わる業務を委託する場合, その企業事業単位と秘密保護契約を締結し, 秘密保護要件を提示し, かつ秘密保護措置を講じなければならない

【秘密関係職員の義務・補償】 (第43条1項)[国家]秘密に関わる業務に従事する職員(以下 「秘密関係職員」 という)については, 当該秘密の程度に応じ, 核心秘密関係職員, 重要秘密関係職員および一般秘密関係職員に分けて分類管理をしなければならない。

(第43条2項)秘密関係職員の任用および雇用については, 国の関係規定に従い審査しなければならない。

(第43条3項)秘密関係職員は, 政治的資質および品行が良好で, 秘密保護教育の研修を受け, [国家]秘密に関わる業務に従事する能力と秘密保護の知識・技能を有し, 秘密保護承諾書に署名し, 国の秘密保護規定を厳格に遵守し, 秘密保護の責任を負わなければならない。

(第43条4項)秘密関係職員の合法的権益は法律で保護される。秘密保護が原因でその合法的権益に影響を受けまたは制限される秘密関係職員に対しては, 国の関係規定に従い相応の待遇または補償を与える。

【秘密関係職員の管理制度】 (第44条)機関および単位は, 秘密関係職員の管理制度を確立・改善し, 秘密関係職員の権利, 職務責任および要件を明確にし, 秘密関係職員の職責遂行状況に対し定期的な監督検査を行わなければならない。

【秘密関係職員の出境制限】 (第45条)秘密関係職員の出境については関係部門の承認を得なければならず, 関係機関が秘密関係職員の出境が国家の安全に危害を及ぼしまたは国家の利益に重大な損失をもたらすと判断した場合には, 出境を承認してはならない

【秘密関係職員の離任・離職】 (第46条)秘密関係職員が離任または離職する場合は, 国の秘密保護規定を遵守しなければならない。機関および単位は, 秘密保護教育および注意喚起を行ない, 国家秘密媒体を点検・返還させ, 秘密離脱期間(原文:脱密期)管理を実行しなければならない秘密関係職員は, 秘密離脱期間中, 規定に違反して就業または出境してはならず, 如何なる方法によっても国家秘密を漏洩してはならない。秘密離脱期間終了後も, 国の秘密保護規定を遵守し, 知り得た国家秘密について秘密保護義務を継続して履行しなければならない。秘密関係職員が離任または離職時または秘密離脱期間中に国の秘密保護規定に対する重大な違反をした場合, 当該機関および単位は, 速やかにその級の秘密保護行政管理部門に報告しなければならず, 秘密保護行政管理部門は, 関係部門と共同で法に従い対処措置を講じなければならない。

【漏えい報告義務】 (第47条)国家公務員またはその他の公民は, 国家秘密が漏洩したまたは漏洩する虞があることを発見した場合, 直ちに是正措置を講じ, かつ関係する機関および単位に速やかに報告しなければならない。機関および単位は, 報告を受けた後, 直ちにこれに対処し, かつ速やかに秘密保護行政管理部門に報告しなければならない。

【解 説】


上記第28条に定める国家秘密媒体の境外(香港・マカオ・台湾を除く中国本土外)への移転の禁止・制限等は, 輸出管理法(原文:中华人民共和国出口管制)や, データセキュリティ法(原文:中华人民共和国数据安全法)第31条[13]等によっても規制されるであろう。なお, 本法とデータセキュリティ法との関係について, 当局による本法の内容説明では以下の通り説明されている:「データセキュリティ法(数据安全法)はデータの収集, 保存, 使用, 加工, 送信, 提供, 公開および安全監督管理について体系的に規定し, また, 秘密に関わるデータの管理に秘密保護の法律・法規が適用されることを明確にしている。今回の[国家]秘密保護法改正ではデータセキュリティ法との連携が強化され, 秘密に関わるデータの管理および集約または関係付け後に国家秘密となるデータの管理に関する原則が新たに追加された。」

上記第34条のネットワーク運営者の利用者公開情報の管理強化義務および国家秘密漏洩被疑事件の調査・処理協力義務については, その「ネットワーク運営者」の定義は, サイバーセキュリティ法(原文:中华人民共和国网络安全法)(第76条3項)にあり, なんらかの形でネットワークを利用している企業の全てを意味し, 従って, ほぼ全ての企業が「ネットワーク運営者」に該当し, これらの義務を負うこととなる。

上記第40条の軍その他国家秘密に属す場所・位置, その周辺の秘密保護管理から, 特に軍関係の施設やその周辺への接近, 関連情報収集には注意しなければならない。

上記第41条および42条に関し, 企業がこれら業務に従事する場合には, 国の秘密保護規定, 秘密保護資格取得, 秘密保護契約等を遵守しなければならない。

上記第46条に関連し, 元公務員等も在職中に知り得た国家秘密について秘密保護義務を負っているから, その者からの情報収集については注意を要する

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5 監督管理


【関係条文】


【秘密保護規則および国の秘密保護標準の制定】 (第48条)国家秘密保護行政管理部門は, 法律または行政法規の規定に従い, 秘密保護規則(原文:保密章)および国の秘密保護標準(原文:国家保密准)を制定しなければならない。

【秘密保護宣伝教育, 秘密保護検査, 秘密保護技術防護および秘密保護違法事件の調査・対処】 (第49条)秘密保護行政管理部門は, 法に従い秘密保護宣伝教育, 秘密保護検査, 秘密保護技術防護および秘密保護違法事件の調査対処の業務を組織および実行し, 秘密保護業務に関する指導および監督管理を行わなければならない。

【是正要求等】 (第50条) 秘密保護行政管理部門は, 国家秘密の確定, 変更または解除が不適切であることを発見した場合には, 速やかに関係する機関および単位にその旨通知して是正させなければならない。

【遵守検査・協力義務】 (第51条1項)秘密保護行政管理部門は, 法に従い, 機関および単位による秘密保護の法律・法規および関係制度の遵守状況について検査を行わなければならない。[国家]秘密保護法違反の疑いがある場合には, 速やかに調査および対処し, または関係する機関および単位に調査・処理を督促しなければならない。

(第51条2項)犯罪の疑いがある場合には, 法に従い監察機関または司法機関にその対処のため移送しなければならない。国の秘密保護規定に対する重大な違反をした秘密関係職員については, 秘密保護行政管理部門は, 関係する機関および単位に対し, その者を秘密関係職から異動させるよう勧告しなければならない。

(第51条3項)関係する機関および単位および個人は, 秘密保護行政管理部門が法に従い職責を履行することに協力しなければならない

【調査・尋問等の権限】 (第52条1項)秘密保護行政管理部門は, 秘密保護検査および事件の調査対処において, 法に従い, 関係資料の調査, 尋問もしくは状況の記録を行い, 事前に関係する施設, 設備, 文書資料等を登録・保全することができ, かつ必要な場合には秘密保護技術検査を行うことができる

(第52条2項)秘密保護行政管理部門は, 秘密保護の検査または事件の調査・処理中に, 不法に取得または所持された国家秘密媒体を発見した場合, これを押収しなければならない。この場合, 国家秘密漏洩の虞があることを発見したときは, 対応措置を講じて期限内に是正することを要求し, 国家秘密漏洩の虞がある施設, 設備または場所については, その使用停止を命じなければならない。

【国家秘密に関する鑑定】 (第53条)国家秘密漏洩の疑いがある事件を処理する機関が, 関係事項が国家秘密であるか否か, 如何なる秘密等級であるかについて鑑定を行う必要がある場合, 国家秘密保護行政管理部門または省, 自治区または直轄市の秘密保護行政管理部門がこれを鑑定する

【違反の処分等】 (第54条)機関および単位が国の秘密保護規定に違反した者に対して法に従い処分を行わない場合, 秘密保護行政管理部門は, これを是正するよう勧告しなければならない。是正が拒否された場合は, その一級上の機関または監察機関に対し, 当該機関および単位に責任を負う指導者および直接責任者を法に従い処理するよう要請しなければならない。

【秘密保護リスクの評価制度, 監視・事前警告制度, 緊急対応制度】 (第55条)設区的市級以上の秘密保護行政管理部門は, 秘密保護リスク評価の仕組み, 監視および事前警告制度, 並びに緊急対応制度を構築し, 関係部門と共同で情報収集, 分析および通報の業務を行わなければならない。

【秘密保護協会等】 (第56条)秘密保護協会等の業界組織は, 法律または行政法規の規定に従い業務を行ない, 業界の自律を推進し, 業界の健全な発展を促進しなければならない。

【解 説】


上記第53条によれば, ある情報が国家秘密として確定されていない場合でも, 事後的に国家秘密であると鑑定される場合があり得るので, その情報を国家秘密であると認識せずに受領・収集または知得した企業も処罰される可能性があるものと思われる。

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6 法的責任


【関係条文】


【処 罰】 (第57条1項)本法の規定に違反し, 次の各号の一に該当する場合, 情状の軽重に応じ, 法に従い処罰する。違法所得がある場合には, 当該違法所得を没収する。

(一) 国家秘密媒体を不法に取得または所持した場合。

(二) 国家秘密媒体を売買, 譲渡・転送または無断廃棄した場合。

(三) 秘密保護措置を講じることなく, 国家秘密媒体を普通郵便, 速達等の手段で交付・伝達した場合。

(四) 国家秘密媒体を境外に郵送もしくは託送し, または関係主管部門の承認を得ずに, 国家秘密媒体を境外に携行もしくは交付・伝達した場合。

(五) 国家秘密を不法に複製, 記録または保存した場合。

(六) 私的な交流または通信に国家秘密を含めた場合。

(七) 国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講じることなく, インターネットその他の公共情報ネットワークまたは有線または無線通信により国家秘密を送信した場合。

(八) 国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講ずることなく, 秘密情報システムまたは秘密情報設備をインターネットその他の公共情報ネットワークに接続した場合。

(九)国の秘密保護規定および標準に従い有効な秘密保護措置を講ずることなく, 秘密情報システムまたは秘密情報設備とインターネットその他の公共情報ネットワークの間で情報交換をした場合。

(十)非秘密情報システムまたは非秘密情報設備を使用して国家秘密を保存または処理した場合。

(十一)秘密情報システムの安全技術プログラムまたは管理プログラムを無断でアンインストールしまたは変更した場合。

(十二)使用終了した秘密情報設備を, 安全技術処理を施すことなく, 譲渡, 売却, 廃棄または他の用途に転用した場合。

(十三)その他, 本法の規定に違反した場合。

(第57条2項)前項の場合において犯罪に該当せず, 処分がなされない者については, 秘密保護行政管理部門がその所属機関および単位にその処分を督促しなければならない。

【主管者その他の直接責任者の処罰】 (第58条1項)機関および単位が本法の規定に違反し, 重大な国家秘密漏洩事件が発生した場合には, 法に従い, 直接責任を負う主管者その他の直接責任者に対し処分を行わなければならない。

処分がなされない者については, 秘密保護行政管理部門がその主管部門に処分を督促しなければならない。

(第58条2項)機関および単位が本法の規定に違反し, 秘密とすべき事項を秘密と確定せず, 秘密とすべきでない事項を秘密と確定し, または秘密解除の審査責任を履行せず, 重大な結果をもたらした場合には, 法に従い, 直接責任を負う主管者その他の直接責任者を処分しなければならない。

【ネットワーク運営者に対する処罰】 (第59条)ネットワーク運営者が本法第34条の規定(利用者による国家秘密漏洩被疑事件の調査・処理への協力, 当該国家秘密の送信停止, 事件関係記録保存, 事件の報告, 情報削除, 関係設備への技術的措置)に違反した場合には, 公安機関もしくは国家安全機関, 電気通信主管部門または秘密保護行政管理部門が, 各自の職責分担に基づき, 法に従い, 処罰をしなければならない

【秘密保護資格取得者に対する処罰】 (第60条1項) 秘密保護資格を取得した企業事業単位が国の秘密保護規定に違反した場合には, 秘密保護行政管理部門は, 期限を定めて是正するよう命じ, 警告または通達・譴責をしなければならない。違法所得がある場合には違法所得を没収する。情状が重い場合には, 秘密関係業務を一時停止させ, 資格等級を引き下げ, 情状が特に重い場合には, 秘密保護資格を取消さなければならない。

(第60条2項)秘密保護資格を取得していない企業事業単位が本法第41条第2項の規定(国家秘密業務に関わる企業事業単位の秘密保護資格取得義務)に違反して秘密保護業務を行った場合, 秘密保護行政管理部門は, 秘密関係業務の停止を命じ, 警告または通達・譴責をし, 違法所得がある場合には違法所得を没収する。

【秘密保護行政管理部門の職員に対する処罰】 (第61条)秘密保護行政管理部門の職員が秘密保護管理職責遂行上, 職権を濫用し, 職務を怠りまたは私利のため不正行為をした場合, 法に従い処罰する。

【刑事責任の追及】 (第62条)本法の規定に違反し, 犯罪に該当する場合には, 法に従い刑事責任を追及する。

【解 説】


一般の企業も, 上記の本法第57条1項第(一)号の「国家秘密媒体を不法に取得または所持した」, または同(五)号の「国家秘密を不法に複製, 記録または保存した」等の行為をしたものとして, 嫌疑・処罰を受ける可能性があるものと思われる。この場合は, 反スパイ法上の反スパイ行為(国家秘密を窃取し・探り・購入し・違法に提供する行為:4条1項3号)の嫌疑・処罰を受ける可能性もあるであろう

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7 人民解放軍等の秘密保護業務, 業務秘密(工作秘密)


【関係条文】


【人民解放軍等の秘密保護業務】 (第63条)中国人民解放軍および中国人民武装警察部隊が実施する秘密保護業務に関する具体的な規定は, 本法に従い中央軍事委員会が制定する。

【業務秘密(工作秘密)】 (第64条)機関および単位は, 職務履行過程において生成または取得された, 国家秘密には属さないがそれが漏洩した場合には一定の悪影響をもたらす事項(「業務秘密」。原文:工作秘密)について, 業務秘密管理弁法(工作秘密管理办法)を適用し, 必要な保護措置を講じなければならない。業務秘密管理弁法は別途定める。

【解 説】


本法の秘密保護対象は, 基本的に国家秘密であるが, 上記第64条の通り, 機関および単位の職務履行過程において生成または取得された, 国家秘密には属さないがそれが漏洩した場合には一定の悪影響をもたらす事項(業務秘密:工作秘密)も, (別途定めるとされる)業務秘密管理弁法(工作秘密管理办法)により保護および取締りがなされる。同弁法の内容は不明であるが, 国家秘密に該当しない情報であっても「業務秘密(工作秘密)」として保護および取締りの対象となる情報があることになるから, 企業の情報収集(コンサル会社を通じた収集を含む[14])活動上十分注意する必要がある。

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以 上


【注】

 

[1] 【本稿の筆者】 UniLaw企業法務研究所代表 浅井敏雄

[2]「中国反スパイ法」の改正施行】 (参考) 浅井敏雄「経済安全保障法務:中国の改正反スパイ法の概要」2023/5/8, 企業法務ナビ.

[3] 【本稿における主な参考資料】 (1)改正国家秘密保護法の全文英訳:“PRC Law on the Guarding of State Secrets” 2024/02/27, China Law Translate. (2)安全保障貿易情報センター(CISTEC)「中華人民共和国保守国家秘密法の改正について」2024.2.28. (3). Lester Ross, Tingting Liu "China Revised the State Secrets Law" MARCH 1, 2024, Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLP, CLIENT ALERT(「Lester Ross, Tingting Liu, 2024」)

[4] 【武装力量】中华人民共和国国防法第22条「中華人民共和国武装力量は, 中国人民解放軍, 中国人民武装警察部隊および民兵から構成される。」

[5] 【国家秘密保護行政管理部門】具体的には, 国務院国家秘密保護局(国家保密局)および中国共産党中央秘密保護委員会弁公室(中共中央保密委员会办公室)の二つの名称を有する「一个机构两块牌子」(国家の組織としての名称と共産党の組織としての名称を有する同一組織)を指すと思われる。 (参考) 百度百科「国家保密局

[6] 【国家秘密の標識(ラベル)】 国家機密保護法の下位法令である国務院制定の「中华人民共和国保守国家機密法实施条例」(2014年3月1日施行)(国家機密保護法実施条例)(以下「実施条例」)第15条によれば, 「国家秘密の媒体並びに国家秘密に属する設備および製品には, 見やすい場所に国家秘密の標識(ラベル)を付さなければならない。 標識(ラベル)には, 秘密等級および秘密保護期間を表示しなければならない。」

[7] 【国家機関】 中国では, 全国各級の地方人民政府は, 国務院の統一指導下にある国家行政機関であり, 国務院に従属し(「中华人民共和国地方各级人民代表大会和地方各级人民政府组织法」第69条2項), 中国における「国家機関(機構)」には, 中央国家機関の他, 地方人民政府等の地方国家機関が含まれる(百度百科「国家机构」)。

[8] 【特定秘密保護法上の「行政機関」】 平成 26 年 12 月9日「特定秘密の保護に関する法律【逐条解説】」内閣官房特定秘密保護法施行準備室, P13 「...地方公共団体についても, 第 10 条に基づき提供を受けた場合を除き, 特定秘密を指定したり保有したりすることが想定されないため行政機関には含めないこととしているが...」

[9] 【国家秘密の表示・明示がない情報】 最高人民法院关于审理为境外窃取, 刺探, 收买, 非法提供国家秘密, 情报案件具体应用法律若干问题的解释」(外国のための国家機密・情報の窃取・スパイ・買収・不法提供事件の裁判における法の具体的適用に関する若干問題に関する最高人民法院の解釈)(2001年1月22日発効)第5条によれば, 行為者が, 秘密等級が明記されていない事項が国家の安全・利益に関するものであることを知りまたは知り得べきであったにもかかわらず, 外国のために国家秘密を窃取・スパイ・購入・不法提供した場合には, 刑法第111条(後述)により処罰されるとされている。

[10] 【(おそらく)反スパイ法違反で摘発されたコンサル会社】 (参考) 時事ドットコムニュース『「反スパイ法」コンサル会社標的 機密情報の流出警戒―中国』2023年05月10日

[11] 【中央秘密保護業務指導機関(中央保密工作领导机构)】前掲Lester Ross, Tingting Liu, 2024によれば, 共産党中央委員会(実務上は党政治局常務委員会を意味する)直属の党組織である中央国家秘密保護指導グループを意味するようである。

[12] 【総体的国家安全観】 「総体的国家安全観」とは, 習近平氏が2014年以降提唱してきた, 政治, 経済, 文化, 科学技術, 資源等も含む幅広い分野において, 包括的・統一的に, 対外的・対内(国内治安)的な国家安全保障の実現を目指す概念・国家政策である。

[13]データセキュリティ法第31条】 「重要情報インフラ運営者は, 中国国内での[同インフラ]運営中に収集・生成した重要データの中国国外への移転に関し, サイバーセキュリティ法の規定に従わなければならない。その他のデータ処理者は, 中国国内での業務において収集または生成した重要データの中国国外への移転に関し, 国家ネットワーク情報部門が国務院の関係部門と共同で制定する規則に従わなければならない。」

[14] 前掲Lester Ross, Tingting Liu, 2024は, 「昨年, 国際的なコンサルティング会社やデューデリジェンス会社等の企業情報サービス会社が家宅捜索を受け, そのスタッフが拘束され, 監視下に置かれているが, 業務秘密には従来の調査やデューデリジェンスにより得られた情報が含まれる可能性がある。」とする。

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