改正障害者差別解消法が施行、事業者に合理的配慮の提供義務
2024/04/03   コンプライアンス, 法改正

はじめに


障害者差別解消法が改正され、4月1日に施行されました。これにより、事業者による障害のある人への不当な差別的取り扱いが禁止され、合理的配慮の提供が義務化されました。

今回の施行を受け、障害のある人からの要望にどのように対応していくのか。各社、個別具体的に検討する必要があります。

 

障害者差別解消法における「事業者」、「障害者」とは?


改正障害者差別解消法とは、『障害のある人に対し、障害を理由に「不当な差別的取扱い」をすることを禁止し、申し出があれば「合理的配慮の提供」をすることを義務付ける法律』といえます。
では、この法律上、「事業者」、「障害者」とは、どのような人や団体を指すのでしょうか。

まず、「事業者」とは、サービスなどを日常的に提供している企業や団体、店舗を指します。営利・非営利、個人・法人は問わず、個人事業主やボランティア活動をするグループも「事業者」に含まれます。

一方、「障害者」とは、障害者手帳を持っているかどうかに関わらず、

・身体障害のある人
・知的障害のある人
・精神障害のある人(発達障害や高次脳機能障害のある人も含む)
・その他心や体のはたらきに障害がある人(難病等に起因する障害も含む)

など、障害や社会の中にあるバリアによって、日常生活で相当な制限を受けている人全てが対象となります。そこには、年齢による区切りもありません。

 

改正障害者差別解消法が禁じる「不当な差別的取り扱い」


改正障害者差別解消法では、障害の有無によって扱い方を変えることを「不当な差別的取り扱い」として禁止しています。例えば、以下のような対応が挙げられます。

・「障害がある」という理由だけでサービスなどの提供を拒否する行為
・「障害がある」という理由だけで、サービスの提供場所や時間帯などを制限する行為
・保護者や介助者がいなければ一律に入店を断り、介助者などの同伴をサービス提供の条件とする行為
・業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害のない人とは異なる場所での対応を行う行為

一方で、障害者本人や従業員、周りのお客などの安全が確保できないなど“やむを得ない”と判断された場合には、「不当な差別的取り扱い」ではないとみなされるので、その時々の状況に合わせた対応や丁寧な説明が求められます。

 

改正障害者差別解消法が義務づける「合理的配慮の提供」


今回の改正では、障害のある人にとって利用がしにくい“バリア”を取り除く必要性から、事業者に対し、合理的配慮の提供が義務付けられています。そのため、事業者は障害者から申し出があった場合に「合理的な範囲」で対応することが求められます。

ここでいう、「合理的な範囲」とは、事業などの目的・内容・機能に照らし、
(1)以下の①~③を満たしていること
 ①必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること。
 ②障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものであること。
 ③事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと。

(2)上記に加え、費用や事業への影響面で、事業者にとっての負担が過重でないこと

これらを満たす範囲とされています。

合理的な配慮の具体的な例をいくつかご紹介します。

■物理的環境への合理的配慮の例
飲食店で障害のある人から「車椅子のまま着席したい」との申出があった。
[対応]車椅子のまま着席できるスペースを確保した。

■意思疎通への合理的配慮例
障害のある人から「難聴のため筆談によるコミュニケーションを希望しているが、弱視でもあるため細いペンで書いた文字や小さな文字は読みづらい」との申出があった。
[対応]太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。

■ルールや慣行の柔軟な変更の例
障害のある人から「文字の読み書きに時間がかかるため、セミナーへの参加中にホワイトボードを最後まで書き写すことができない」との申出があった。
[対応]書き写す代わりに、デジタルカメラやスマートフォン、タブレット端末などでホワイトボードを撮影できることとした。

 

コメント


この改正法の施行前だった3月に、車椅子ユーザーへの対応でイオンシネマが謝罪を行うなど、障害のある人への事業者の対応のあり方に大きな注目が集まっています。

改正法では、事業者が合理的配慮の提供を怠ったり、不当な差別的取扱いを行った場合でも、直ちにペナルティが科されるわけではありませんが、違反が繰り返され、改善もされない場合などには、行政などから、助言や指導・勧告を受けることになります。さらに、報告を怠ったり、虚偽の報告行った場合などには、20万円以下の過料が科されます。
また、申し出を行った障害者から、損害賠償請求される可能性に加え、イオンシネマの例のように、レピュテーション上のリスクもあります。
その意味で、事業者としては、決して無視できない法律といえます。

一方で、安全面や事業存続面などから、すべての要望に応えられないケースも十分に考えられるため、どの範囲で要望に応えていくのかの線引きも非常に重要になります。「建設的な対話への意思」と「相互の立場の理解・尊重」を持つことを大前提としつつ、

(1)想定される要望と対応方法の整理
(2)想定外の要望があった際の判断枠組みの整理
(3)上記の判断者の決定

などに、腰を据えて取り組む必要がありそうです。

 

【参考リンク】
事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されます(政府広報オンライン)

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