契約の解除と解約 まとめ
2024/02/08   契約法務, 民法・商法

はじめに

 契約を締結後、相手の代金不払いや製品の不具合などによって契約を解除したり、当事者の都合で解除することを合意することがあります。また、賃貸借契約を目的達成などにより解約することもあります。

このように取引相手方との契約関係を解消する必要がある場合でも、その原因や要件・手続はそれぞれ異なります。これらは有効な契約関係を前提としておりますが、そもそも契約が無効であったり取消原因がある場合も存在します。

今回は、取引相手または顧客との関係で問題が生じた際に、どのようにして契約関係を解消するのか、それぞれの意義や特徴・手続などを見ていきます。

 

契約の解除

(1)法定解除
 契約の解除とは、契約が有効に成立した後に、その一方当事者の意思表示によってその契約が初めから存在しなかったのと同様の状態に戻すことを言います。解除には法定解除と合意解除があり、法律の規程による解除を法定解除、当事者の事前の取り決め等により解除を合意解除と言います。

民法第540条1項によりますと、「契約又は法律の規程により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は相手方に対する意思表示によってする」としております。法定解除であれ、合意解除であれ解除権が発生している場合は一方的意思表示によって解除の効果が発生するということです。

そして債務不履行に関して民法では、「当事者の一方が債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」とされております(第541条)。これは法定解除の一つですが、他にも賃貸借契約における無断転貸での解除など特殊な解除権も存在します(第612条2項)。

 

(2)約定解除
 法定解除権とは別に、当事者間であらかじめ定めておく解除権を約定解除権と言います。契約締結の際に一定の事由が発生した場合に契約当事者は解除できる旨定めておくことができます。

例えば、債務不履行、手形や小切手の不渡り、その他公序良俗に違反する行為があった場合には相手方は解除することができるといった条項を契約に盛り込んでおく場合が挙げられます。

また、民法上でも手付による解除(第557条)や買戻し特約による解除(第579条)も約定解除の一種と言われております。

 

(3)合意解除
 これら法定解除と約定解除は法律または特約等によって解除権が発生し、それに基づいて契約を解除しますが、それらがなくとも当事者の合意によって契約を解除することも可能です。

お互いに契約が必要無いと考えている場合に、無理に両当事者を契約関係に縛っておく意味はありません。そこで、当事者が納得した上で合意すれば当然に契約を無かったことにできるということです。

 

解除の効果

 解除の効果の法的構成に関しては従来から争いがあり、直接効果説と間接効果説に分かれております。

民法第545条1項では、「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。」としております。

直接効果説では、解除の直接の効果として契約上の債権債務が初めに遡って消滅すると考えます。これにより、未履行債務は消滅し、既履行債務は不当利得となります。そして、第545条1項ただし書きの意義は解除の遡及効から転得者を保護するものとされております。

これに対し間接効果説では、解除の効果として債権債務が消滅するのではなく当事者間に原状回復義務が生じるにとどまり、それが履行されて初めて契約関係が消滅すると考えられております。未履行債務については履行拒絶する抗弁権が発生し、既履行債務については新たな返還義務が生じるとされます。

なお、判例は直接効果説の立場に立っていると言われております。

 

契約解除の手続

 上でも触れたように債務不履行に基づく解除の場合、まず相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは解除の意思表示を行うこととなります。

この契約解除の意思表示は特に方式は定められておらず、口頭ですることも可能です。しかし、証拠を残すために内容証明郵便等で契約解除通知書を送ることが一般的と言えます。

なお、この契約解除の意思表示は撤回することはできないとされます(第540条2項)。また、債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除はできないとされます(第541条ただし書き)。

 

契約解除通知書記載例

 契約解除通知の方式については民法上特に定まっておりませんが、以下記載例を挙げておきます。

「当社は、貴社と令和○年○月○日付で○○の売買契約を締結しましたが、代金支払期限である令和○年○月○日を経過しても代金が支払われておりません。その後、再三の催告にもかかわらず履行がなされておりません。つきましては、本件売買契約については民法第541条に基づき、本書面をもって契約を解除いたします。」


 

解約とは

 契約の解除は上記のとおり有効に成立した契約を事後、最初に遡って無かったことにするものですが、契約の解約は契約の効果を将来に向かって消滅させることを言うとされます。

賃貸借契約や委任契約、組合契約などの継続的契約を解約することが典型例と言えます。民法第617条によりますと、契約期間の定めのない賃貸借契約の場合はいつでも解約でき、一定期間が経過すると契約関係が解消されます。一方、契約期間の定めがある場合はその期間中は原則として解約できないとされます。

解除では法的効力をはじめからなかったものとしますが、解約は将来にむかって契約関係を解消します。賃貸借契約などで債権債務関係を遡及的に消滅させたら、これまでの不動産等の利用が無権限なものとなり、また支払った賃料も不当利得となるなど不都合ということです。そこで、過去の債権債務関係は有効としつつ、将来に向けて消滅させたということです。

 

無効と取消

 民法では契約の解除に似た概念として「無効」と「取消」があります。「無効」とは法律行為にはじめから効果が認められないことをいい、「取消」とは法律行為に何らかの問題があったため、はじめから無かったことにする意思表示を言うとされます。

ここで法律行為とは、当事者の意思表示に基づいて法律効果を発生させる行為とされます。売買などの契約もその一つですが解除や債務免除、遺言などの単独行為や法人の設立などの合同行為も含まれます。

民法第94条1項では「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」されております。お互いにその気もないのに土地を売買したことにしてもそれは無効ということです。また公序良俗に反する法律行為も無効とされております(第90条)。

そして、民法第96条1項では「詐欺又は脅迫による意思表示は、取り消すことができる」とされます。そして「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす」とされております(第121条)。

無効は当事者が何もしなくても最初から効力はありませんが、取消の対象となる法律行為に関しては、取消権者が取り消すまでは有効で、取り消されて初めて無効となります

 

クーリングオフによる解除

 上記の民法による契約の解除だけでなく、他の法律による解除も存在します。それがクーリングオフの制度です。

特定商取引法第9条によりますと、訪問販売や電話勧誘販売で契約をした場合、購入者は書面を受領した日から起算して8日以内であれば申し込みの撤回や契約の解除ができるとしております。

この申込みの撤回や契約解除の意思表示は書面ですることが求められ、その書面が発送された時にクーリングオフの効果が生じるとされております(同2項)。

この販売業者はこのクーリングオフがされたことに伴う損害賠償や違約金の支払いを請求することはできないとされます(同3項)。既に商品の引き渡しがなされている場合、その返品費用も業者負担とされております(同4項)。

なお、代金が3000円に満たない場合は適用除外とされます(同1項3号、特定商取引法施行令第6条)。

 

まとめ

 以上のように、一口に契約の解除と言っても法定解除、約定解除、合意解除など態様や要件に違いがあります。法定解除でも債務不履行に基づく場合や契約不適合による場合もあります

解除に似た概念として法律行為の無効や取消しなど民法に規定されているだけでもかなり複雑です。また、民法以外の法令にも特有の解除権や無効事由が存在します。

解除の意思表示の方式については特に規定はありませんが、後日の紛争に備えて内容証明郵便などの書面で通知することが無難です。またクーリングオフの通知は相手方から発送された時点で効力が生じる点にも注意が必要です。

どのような場合に解除や取消しができるのか、その要件や手続を確認して契約書の雛形や約款を見直し、社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。

 

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