豊和銀行が100億円分発行へ、優先株とその発行手続き
2023/11/30 商事法務, 会社法, 金融・証券・保険

はじめに
豊和銀行(大分市)は22日、地元企業などを引受先とする優先株を2024年2月に発行し、最大で100億円を調達すると発表しました。別の優先株の償還費用や資本増強に充てるとのことです。今回は優先株とその発行手続きを見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、豊和銀行は2006年の不良債権処理で自己資本比率が4%を下回ったことから90億円の公的資金が注入されたとされます。その後14年3月に90億円を一旦返済したものの、新たに160億円の公的資金が注入され、29年3月に返済期限を迎えるとのことです。また17年に発行した優先株80億円の償還原資が必要なこともあり来年2月に新たに100億円を上限とする優先株の発行を決定しました。同行の公的資金返済の原資となる利益剰余金は今年9月末時点で88億円とされます。なお今年の定時総会で100億円を上限に新たに優先株を発行できる旨の定款変更を行っていたとのことです。
優先株とは
優先株とは、剰余金の配当や残余財産の分配などに関して普通株よりも優先的な扱いを受ける株式を言います。これとは逆の性質を持つ劣後株というものも存在します。優先株は剰余金配当などで普通株よりも優先的に扱われる反面、議決権が制限されていることが一般的と言われております。優先株は一般的に、一定額の優先配当を受けた後、普通株主と同等の立場でさらに配当を受けることができるものと(参加型)、一定の優先配当を受けた後は普通株主と同等の立場で配当う受けないもの(非参加型)に分類されます。またこれらの中間的な性質を持つ制限参加型優先株も存在します。さらに満額の配当を受けられなかった場合、翌年に配当枠を繰り越す累積型と繰り越せない非累積型にも分類することができます。また優先株は債券の性質を持ついわゆるハイブリッド証券として利用されることもあります。
優先株のメリット・デメリット
優先株のメリットとしては、会社にとって安定した資金調達手段となる点が挙げられます。優先株は一般的に議決権が制限されていることが多く、既存の株主の議決権割合を希釈することなく資金調達が可能です。企業運営に関心は無いが安定した高配当が欲しいと考える投資家のニーズに合致すると言えます。また優先株はあくまで株式であることから借り入れや社債と異なり出資された資金は自己資本となり自己資本比率を維持したまま資金調達ができるというメリットもあります。一方でデメリットとしては、優先株を発行することによって他の株主への配当が減少することから、その後新たに株式発行による資金調達がしにくくなると言われております。配当できる剰余金は有限であることから優先株を発行するほど配当額が逼迫するということです。また優先株は市場に流通しておらず、株主にとって処分が難しい点も挙げられます。
優先株発行手続き
優先株も種類株式の一種であることから、種類株式発行の手続きを行う必要があります。まず取締役会で種類株式発行する旨の議案と株主総会招集を決定します。株主総会では定款変更の承認決議が必要です。この承認決議には特別決議を要し、議決権の過半数出席のもと、3分の2以上の賛成が必要となります。次に優先株の引受け申し込みをしようとする者に商号や募集事項、払込場所等を通知します。申し込みを受けたら会社は割当の決定を行います。誰に何株割り当てるかを決めることとなります。決定に基づき申込者に割当数を通知し、払込期日までに出資が履行されると優先株発行が完了です。増加した発行済株式数と資本金額を登記して手続きは終了となります。
コメント
本件で160億円の公的資金の返済と、以前に発行した80億円の優先株の消却原資を確保するため、豊和銀行は来年2月に100億円の優先株の発行を予定しております。既存株主の議決権の希薄化を回避するため、普通株式での公募増資ではなく優先株によるとのことです。承認決議を得るため12月22日に臨時株主総会を予定しております。以上のように既存株主への影響を抑え、安定した資金調達をする上で優先株の発行は効果的と言えます。これまでも金融機関の経営再建の際に公的資金が注入され、優先株式を消却する形で返済するスキームが多く利用されてきております。どのような資金調達手段があるのか、またどのようなメリット・デメリットがあるかを把握して、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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