豊田自動織機が12月にTOBを予定、株式非公開化のスキームについて
2025/07/09   商事法務, 総会対応, 会社法, メーカー

はじめに

豊田自動織機が株式非公開化に向け、12月にTOBを開始する予定であることがわかりました。買収総額は約4.7兆円にのぼるとのことです。
今回は株式非公開化のスキームを見直していきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、トヨタ自動車の源流とされている豊田自動織機が、グループ内での株式の持ち合い解消の一環として株式の非公開化を目指すとされます。

主導するのはトヨタ自動車、トヨタ不動産とトヨタの会長とされ、それぞれが持株会社に出資し、さらに特別目的会社に銀行団が計約2兆8000億円を融資して豊田自動織機を買収するとのことです。

今回のTOBでの買付予定数は約42%とされ、株主総会の特別決議に必要な残りの約24%についてはトヨタ自動車保有分となっています。
TOB価格は1万6300円とのことです。

 

株式公開のメリット・デメリット

会社の株式を証券市場に上場することには、メリットとデメリットが存在します。

まず、メリットとしては、一般の投資家から広く資金を集められることや、会社としての社会的信用度が増す点が挙げられます。

一方で、不特定多数の投資家が株主として会社経営に参画することにより、株主の利益や要望に応える必要が出てきます。

特に近年、いわゆる「物言う株主」と呼ばれるアクティビストの台頭により、株主提案や株主総会招集請求などの事例が急増しています。

このように、株式の公開化は従前に比べ、メリットよりもデメリットが目立つことが多くなっており、株式の上場廃止、非公開化する企業が目立ってきました。
経営のスリム化や再建、長期的な安定した事業運営のための選択と言えます。

以下、具体的な非公開化スキームを紹介していきます。

 

株式非公開化のスキーム

株式非公開化の手法としては、まず、その経営陣やグループ会社、特別目的会社(SPC)などによって市場に出回っている株式を買い集めることから始まります。

ここで利用されるのが、株式公開買付(TOB)です。
これにより発行済株式の何%まで回収できるかで、その後の手続きも変わってきます。

TOBの後、一般的には残存少数株主を締め出す、いわゆるスクイーズアウトを行うこととなりますが、確保できた議決権割合によって選択できる手段が変わります。

まず、TOBで90%以上確保することができた場合、特別支配株主の株式売渡請求を利用することが可能です(会社法179条1項)。

これは会社法の平成26年改正によって導入された制度で、より簡易・迅速な手続きで残存株主から株式を買い取ることができます。

しかし、90%以上の取得ができなかった場合は、全部取得条項付種類株式または株式併合を利用することとなります。
これらはいずれも株主総会の特別決議を要し、そのためには最低でも議決権の3分の2(66.6%)以上を確保する必要があります。

既発行株式をすべて全部取得条項付種類株式に変更する定款変更を行い取得する、または既存株式を買収者以外すべて1株未満となるよう併合することとなります。

 

TOBの手続き

ここで、TOBの手続きについて簡単に触れておきます。

まず、株式を買い集めようとする者は、社名や代表者名、会社の所在地、株式買付の目的、価格、買付予定株式数、買付期間、買付後の所有割合や対象会社などを公告します(金商法27条の3第2項)。

売り主側は、公告日から10営業日以内に公開買付に関する意見表明報告書を内閣総理大臣に提出します。

買い主側は、届出書と同内容のものを売付けを行おうとする株主に交付します。

買い主側は、公開買付期間最終日の翌日に応募株式数、その他内閣府令で定める事項を公告した上で、公開買付報告書に記載して内閣総理大臣に提出します。

なお、公開買付開始公告がなされた後は、原則として自由に買付を撤回することはできませんが、一定の場合には公開買付撤回届出書に理由を記載して提出することで撤回することも可能です。

 

コメント

本件で、トヨタ陣営は12月に予定しているTOBで買付予定数の下限を約42%としています。

TOB後に予定している株式併合によるスクイーズアウトには、株主総会の特別決議(66.6%)が必要であるところ、トヨタ自動車が保有する24.59%分についてはTOBに応募せずに株式併合に賛成する予定とされています。

また、豊田自動織機株については、歴史的な企業間のつながりから企業が保有している分が多く、一般から買い集めなければならない分は多くないと言われています。

以上のように、株式非公開化にはまずTOBの成否が重要と言えます。
どの程度株式を確保できたかによって、その後の手続きが変わるからです。

事業再編や事業のスリム化、また株主対策でのコスト増加に苦慮している場合には、一つの選択肢として非公開化も検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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