中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~
2024/04/03   海外法務, 知財・ライセンス, 中国法

 浅井敏雄[1]

【目  次】


(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプ)


1.    はじめに


2.    本判決の概要


(1)   経 緯


(2)   裁判所の認定と判断


3.    文化庁「考え方」と本判決の比較



 

1.  はじめに


 

近時, Chat GPT, Midjourney等, 生成AIの驚異的性能が注目されるとともに, 生成AIに関する法的問題[2]の一つとして, 生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるかの問題が世界的に議論されている。例えば, 日本においても, 政府の文化審議会著作権分科会法制度小委員会のAI と著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)(以下「考え方」) [3]にこの問題の検討結果が示されている。

この問題に関し, 中国では, 本年(2024年) 2月8日に, 広州インターネット法院が, 画像生成AIにより生成された画像について, 生成AIサービスの提供事業者による著作権侵害を認める中国初の判決(また, おそらく世界初の判決)((2024) 0192民初113号)[4](以下「本判決」)を下した

そこで, 本稿では, 本判決の概要を紹介するとともに, 「考え方」と本判決の内容を比較する。

 

2.  本判決の概要


 

(1)  経 緯

 

上海新創華文化発展有限公司(以下「原告」)は, その提出した証拠によれば, 本件のウルトラマンの画像(以下「原告ウルトラマン画像」)を含むウルトラマンシリーズ作品に関し, 著作権者である日本の株式会社 円谷プロダクション(以下「円谷プロ」)から, 中国本土における複製権, 情報ネットワーク送信権, 翻案権等についての独占的権利および自ら権利を保護する権利を付与されている。

AI公司(仮名)(以下「被告」)は, Tab(仮名)Webサイト(以下「Tab」または「Tabサイト」)において会員専用のAI画像生成機能を提供している。

2023年12月下旬, 原告は, Tabに「ウルトラマンを生成」等のプロンプトを入力すると, 原告ウルトラマン画像と同一のまたは類似する画像(以下「本件AI生成画像」)が生成され, これを閲覧およびダウンロードすることができることを発見した。

そこで, 原告は, 2024年1月5日に広州インターネット法院(以下「本法院」)に提訴し, 本件AI生成画像の生成停止, 原告ウルトラマン画像の訓練データからの削除, 30万元の損害賠等を請求した。

これに対し, 被告は, 原告の請求を全て否定した。被告は, その理由として, 原告主張の権利侵害行為を既に停止したこと, AI画像生成機能は, 被告ではなく第三者により提供されること, 本件AI生成画像は原告が生成したもので, 被告が同画像の表示等により利益を得た証拠はないこと, AI画像生成は会員向けの無料機能で, 被告はその費用を受け取っていないこと, 被告が原告ウルトラマン画像を無断表示等して利益を得た証拠はないこと, 被告行為が原告に30万元の損害・費用を生じさせた証拠はないこと等を主張した。

 

(2)  裁判所の認定と判断

 

【原告ウルトラマン画像と本件AI生成画像との比較】

 

本法院は, 原告ウルトラマン画像(「迪迦奥特曼复合型[ウルトラマンティガ(マルチタイプ)[5]と思われる]の一画像)について, その主な特徴を挙げた上, 原告が提出した本件AI生成画像(1~10)とを比較した。

本法院は, 本件AI生成画像のうち, 写真風の図1~3について, 原告ウルトラマン画像の独創的表現[日本法上の創作的表現]が保持されており, 多くの重要な特徴において原告ウルトラマン画像と非常に高い類似性があり実質的に類似すると認定した。

一方, 本法院は, 本件AI生成画像のうち, イラスト風の図46および漫画風の図7~10については, 原告ウルトラマン画像の独創的表現を一部保持し, その上で新たな特徴が形成されていると認定した。

 

【提訴後に被告が講じた措置】

 

被告は, 本件訴訟の訴状等の送達を受けた後, Tabサイトでウルトラマン画像が生成されないよう, キーワードブロック措置を講じたと主張した。

本裁判の審理において, TabサイトのAI画像生成モジュールのダイアログボックスに「ウルトラマン」を含むプロンプトを入力したところ, 「送信情報に不適格な内容が含まれている」というポップアップメッセージが表示され, 画像は生成されなかった。しかし, ダイアログボックスに「迪迦」[「ティガ」と思われる]を入力したところ, 原告ウルトラマン画像に高度に類似した特徴の画像が生成された。

本訴訟開廷前まで, Tabサイトには, 利用者関連規約または利用者がサービス利用上他人の著作権その他合法的権益を侵害してはならないことを通知する措置はなされていなかった。また, Tabサイトの AI 画像生成機能は第三者のサービス提供者により提供されることについて利用者に対する説明もなかった。

 

【原告ウルトラマン画像の著作権保護および原告の権利】

 

原告ウルトラマン画像は, 中国著作権法(中华人民共和国著作权法)[6](以下「著作権法」)第2条第2項に基づき, 外国人の著作物として著作権法上の保護を受ける。

原告の提出した, 中国著作権局への著作権登録証書, 原告と円谷プロとの間の「授权证明」等によれば, 原告ウルトラマン画像の著作権者が円谷プロであり, 原告は, 中国本土における複製権, 情報ネットワーク送信権, 翻案権等の独占的権利および同権利を[著作権者とは]独立して自ら維持保護する権利を有する。

 

【被告は原告の複製権, 翻案権, 情報ネットワーク送信権を侵害したか】

 

原告ウルトラマン画像には高い知名度があり, かつ大手動画サイトでアクセス, 閲覧, ダウンロードが可能であるから, 被告が同画像に接触した可能性がある。

本件AI生成画像1~3は, 原告ウルトラマン画像の独創的表現を, 部分的または完全に複製したものである。

従って, 被告は, 許諾を得ることなく原告ウルトラマン画像を複製し, 原告の同画像についての複製権を侵害した。

 

著作権法第10条第1項第14号は, 「翻案権」を「著作物を改変し, 独創性を有する新たな著作物を作り出す権利」と定める。

本件AI生成画像図46, 原告ウルトラマン画像の独創的表現を部分的に維持し, その上で新たな特徴を形成したもので, 被告の行為は, 原告ウルトラマン画像の翻案に当たる。

従って, 被告は, 許諾を得ることなく原告ウルトラマン画像を翻案し, 原告の同画像の翻案権を侵害した。

 

被告が原告の情報ネットワーク送信権を侵害したかの問題については, 同一行為が既に複製権・翻案権の範囲に含まれているから, 本法院は重ねて判断することはしない。

 

【侵害停止等】

 

被告の行為は, 原告が原告ウルトラマン画像について有する複製権, 翻案権を侵害しており, 著作権法第52条および第53条[7]によれば, 被告は, 侵害行為の停止, 損害賠償等の民事責任を負わなければならない。

 

本件において, 原告は被告に対し, 権利侵害の画像の生成を停止し, 原告ウルトラマン画像を訓練データから削除するよう要求した。

 

「生成人工知能サービス管理暫定弁法(生成式人工智能服务管理暂行办法)[8](以下「生成AI弁法」)(2023年8月15日施行)第22条第2項によれば, 生成系人工知能サービスの提供者(以下「提供者」)とは, 生成系人工知能技術を利用して生成系人工知能サービスの提供(プログラマブルインターフェース等の提供による生成系人工知能サービスの提供を含む)を行う組織または個人を意味する。被告は, その陳述によれば, プログラマブルインターフェースを通じて第三者サービス提供者のシステムにアクセスし, 利用者に生成的人工知能サービスを提供するから, 生成系人工知能サービスの提供者(以下「提供者」)に該当する。

生成AI弁法第14条第1項によれば, 提供者は, 違法コンテンツを発見した場合, 速やかに生成停止, 送信停止, 消去除去等の対応措置を講じなければならない。

被告は, 原告ウルトラマン画像に関する原告の権利を侵害したから, 当該侵害の停止, すなわち生成を停止する責任を負う。本件AI画像生成サービスは第三者の提供者により提供されるから, 被告は責任を負わないとの被告の抗弁は認められない。

Tabは, 今後も原告ウルトラマン画像と実質的に類似する画像(以下「類似画像」)を生成することができるから, 被告は, 類似画像生成を停止する技術的措置を講じなければならない。

被告は既にキーワードフィルタリング等の措置を講じ一定の効果を得たが, 本裁判において原告・被告双方立会いの下, Tabに, ウルトラマンに関連する他のキーワードを入力したところ, 類似画像が生成されることがあった。

従って, 被告は更にキーワードフィルタリング等の措置を講じ, Tabにおいて類似画像が生成され続けることを防止しなければならない。その防止の程度は, 利用者によるウルトラマンに関するプロンプトの通常の使用では類似画像が生成できない程度でなければならない。

 

原告ウルトラマン画像を本件AIモデルの訓練(学習)データから削除するという原告の請求については, 被告は本件AIモデルの訓練を行っていないから, 本法院はこの請求を認めない。

 

【損害賠償】

 

原告は, 被告に対し, 原告の経済的損害と, 権利侵害制止に支出した合理的費用の賠償を請求する。損害賠償責任については, 被告の過失の問題を考慮しなければならない。生成AIは道具としての属性を有し, 合法的目的にも違法的目的にも利用できる。

生成AI弁法第4条は, 生成系人工知能サービスの提供と利用は, 法律・行政法規を遵守し, 社会道徳・倫理を尊重し, 知的財産権を尊重する必要があることを強調する。従って, 提供者は同サービスを提供する際, 合理的な注意義務を果たさなければならない。しかし, 被告は同義務を果たさなかった。具体的には以下の通り。

(i) 生成AI弁法第15条によれば, 「提供者は, 苦情・通報の仕組みを確立・改善し, 容易に苦情・通報することができるポータルを設置し, 対応手続・対応期限を公表し, 公衆の苦情・通報を適時に受理・処理し, 結果をフィードバックしなければならない」。しかし, 本訴訟の開廷日まで, 被告は, Tabサイトで苦情・通報の仕組みを確立しておらず, 権利者が苦情・通報の仕組みを通じて自己の著作権を保護することは困難である。

(ii) 生成AI弁法第4条によれば, 「生成系人工知能サービスの提供と利用は, 法律・行政法規を遵守し, 社会道徳・倫理を尊重し, かつ, 以下の規定を遵守しなければならない。... (3) 知的財産権・商業道徳を尊重し... (5) サービスのタイプの特性に基づき, 生成系人工知能サービスの透明性を向上させ, 生成コンテンツの正確性と信頼性を向上させるための効果的な措置を講じなければならない」。しかし, 被告は, サービス契約等により他人の著作権を侵害してはならない旨利用者に注意喚起していない。一般的なネットワークサービスと違い, 生成系人工知能サービスの利用者は, サービス利用上, 他人の著作権を侵害するリスクを明確には認識しないから, 提供者は, これについて利用者に注意する義務を負う。

(iii) 生成AI弁法第12条によれば, 「提供者は, 「インターネット情報サービス深度合成管理規定(互联网信息服务深度合成管理规定)」に従い, 画像・動画等の生成コンテンツにマークを付けなければならない」。また, 同規定17条によれば, 「深度合成サービス提供者は, 以下の深度合成サービスを提供し, 公衆の混同または誤認を引き起こす可能性がある場合, 生成または編集した情報コンテンツの合理的な位置・領域に目立つ表示をして, 深度合成物であることを明示しなければならない。...(5)その他, 情報コンテンツを生成しまたは著しく改変する機能を有するサービス」。本件で, 被告はAI生成画像に目立つ表示をしておらず, この表示義務を果たしていない。

 

以上の通り, 被告は前記注意義務を果たしておらず, 主観的に過失があり, 権利侵害行為に対し相応の賠償責任を負う。

 

【損害賠償額の確定】

 

著作権法54条は, 権利侵害者は, 権利者が受けた実際の損害, 権利侵害者の不法所得または当該権利の許諾使用料を基準に損害賠償すべきものとするが, これらの算定が困難な場合, 人民法院は, 侵害行為の情状により500元以上500万元以下の損害賠償を決定する旨規定する。

本件において, 現有証拠に基づいて, 原告が本件権利侵害行為によって蒙った実際の損害または被告の不法所得を確定することはできない。

本法院は, 原告ウルトラマン画像の高い市場知名度, 応訴後の被告が講じた技術的措置, 本件AI生成画像は利用者に向けてのみ生成されその影響範囲は限られていること等を総合的に考慮し, 被告の原告に対する損害賠償額を1万元(合理的支出を含む)と決定する。

 

AIは未来をリードする戦略的技術であり, 科学技術革命と産業変革の核心駆動力である。生成AI産業が発展の初期段階にあることを考慮すると, 権利の保護と産業発展の双方を考慮する必要があり, 提供者の義務を過度に重くすることは適切でない。技術の急速な発展の過程において, 提供者は合理的かつ負担可能な注意義務を積極的に履行し, それにより, 安全と発展に貢献し, 均衡のとれた包括的なイノベーションと保護を両立させる中国式AIガバナンス・システムの推進に貢献しなければならない。

 

【判 決】

 

以上より, 以下の通り判決する。

 

(i) 被告は, 原告の原告ウルトラマン画像の著作権の侵害行為を直ちに停止し, 利用者が同著作権を侵害する画像を生成することを防止するため, 相応の技術的措置を直ちに講じなければならない。

(ii) 被告は, 本判決の効力発生日から10日以内に, 原告に対し, 1万元(合理的な費用を含む)を賠償しなければならない。

(iii) 原告のその他の請求を棄却する。

 

本判決に不服がある場合, 判決書送達日から15日以内に広州知識産権法院に上訴することができる。

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3.  文化庁「考え方」と本判決の比較


 

文化庁「考え方」(p 32~38)では, 「生成 AI により生成物を出力し, その生成物を利用する段階(以下, 「生成・利用段階」という。) では, 生成物の生成行為(著作権法における複製等) と, 生成物のインターネットを介した送信などの利用行為(著作権法における複製, 公衆送信等)について, 既存の著作物の著作権侵害となる可能性があ(る)」として, AI生成物の既存著作物の著作権侵害について検討している。

以下, AI生成物の既存著作物の著作権侵害について, 文化庁「考え方」と, 本判決の内容を比較する。

 

(1) 検討の前提

 

「考え方」では, AI生成物の既存著作物の著作権侵害について, 「従前の人間が AI を使わずに行う創作活動の際の著作権侵害の要件と同様に考える必要が(あり)」, 「既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば, 当該既存の著作物の著作権者は, 生成物の生成行為や利用行為が, 既存の著作物の著作権侵害に当たるとして, 当該行為の差止請求や損害賠償請求を請求し得る」とする。

 

本判決の立場も, その全体から判断して「考え方」と同様と解される。

 

(2) 侵害行為の責任主体について

 

「考え方」(p.36,37)では, 著作権侵害の主体として, 「物理的に侵害行為を行った者」, すなわち, 主にAI利用者による侵害について検討している。但し, そのほか, いわゆる規範的行為主体論に基づいて, 「生成 AI の開発や, 生成 AI を用いたサービス提供を行う事業者が, 著作権侵害の行為主体として責任を負う場合」があるとし, 続けて以下の通りいう。

「具体的には, 以下のように考えられる。

ある特定の生成 AI を用いた場合, 侵害物が高頻度で生成される場合は, 事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

② 事業者が, 生成 AI の開発・提供に当たり, 当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず, 当該類似物の生成を抑止する措置を取っていない場合, 事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

③ 事業者が, 生成 AI の開発・提供に当たり, 当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成することを防止する措置を取っている場合, 事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

④  当該生成 AI が, 事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては, たとえ, AI  利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI にプロンプト入力するなどの指示を行い, 侵害物が生成されたとしても, 事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。」とする。

また, 「考え方」は, 「特にAI 生成物の生成については, 事業者が物理的な行為主体だと評価できる場合もあるため, 事案に応じて検討する必要がある, との意見があった」, 「事業者が著作権侵害の行為主体と評価されない場合でも, AI 利用者による著作権侵害の幇助者として, 民法上の共同不法行為責任を負う場合が考えられる, との意見があった」とする。

 

本判決では, 物理的にプロンプトを入力し本件AI生成画像を生成させた利用者(ここでは原告)ではなく, 生成 AI を用いたサービス提供を行う事業者である被告が, 著作権侵害の責任主体として, その侵害責任が問われている。本判決では, 規範的行為主体論のような特段の議論はされていないが, 被告が, 生成AIを通じて, (利用者によるプロンプト入力に応じ)AI 画像生成機能を通じAI生成画像を生成したことを, 被告による物理的な行為とみてその行為の侵害責任を問うたのかもしれない。あるいは, 本判決において, 被告について上記①と同様のことが認定されていることから, 規範的行為主体論と同様の考えに基づいて, 被告の侵害責任を問うたのかもしれない

 

(3) 類似性および依拠性

 

類似性に関し, 「考え方」(p.33)では, 被疑侵害物において「既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということ等により判断される」とする

 

類似性に関し, 本判決では, 本件AI生成画像のうち, 図1~図3について, 既存著作物である原告ウルトラマン画像の独創的表現[日本法上の創作的表現]が保持されており, 多くの重要な特徴において原告ウルトラマン画像と非常に高い類似性があり実質的に類似すると認定した上, 原告ウルトラマン画像の「独創的表現を, 部分的または完全に複製」したものであるから複製権を侵害したと判断している。

また, 図4~10については, 原告ウルトラマン画像の独創的表現を一部保持し, その上で新たな特徴が形成されていると認定した上, 翻案権侵害と認定した。

従って, 表現は異なるものの, 「考え方」も本判決も, 類似性に関し, 被疑侵害物において既存著作物の表現上の本質的な特徴または独創的表現が感得できることまたは保持されていることにより判断しており, この点, 両者は共通すると言える。

 

依拠性に関し, 「考え方」(p.33,34)では, 「生成 AI が利用された場合であっても, 権利者としては, 被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性があったことや, 生成物に既存著作物との高度な類似性があること等を立証すれば, 依拠性があるとの推認を得ることができる」, また, 「AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが, 当該生成 AI の開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については, 客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから, 当該生成 AI を利用し, 当該著作物に類似した生成物が生成された場合は, 通常, 依拠性があったと推認され, AI 利用者による著作権侵害になりうる」とする。

 

依拠性に関し, 本判決では, 「原告ウルトラマン画像には高い知名度があり, かつ大手動画サイトでアクセス, 閲覧, ダウンロードが可能であるから, 被告が同画像に接触した可能性はある」としている。これは, 「考え方」の「被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性があったこと...を立証すれば, 依拠性があるとの推認を得ることができる」との考え方と同様と思われる。

あるいは, 本判決は, 「考え方」と同様, 被告は, (本件AIモデルの訓練を行っていないので)「既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが」, (本件AI生成画像の原告ウルトラマン画像との類似性等から)「当該生成 AI の開発・学習段階で当該著作物を学習していた」と推認されるので, 「客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから, 当該生成 AI を利用し, 当該著作物に類似した生成物が生成された場合は, 通常, 依拠性があったと推認され」, 被告による「著作権侵害になりうる」と判断したものとも考えられる。

 

(4) 侵害に対する措置について

 

「考え方」(p.35, 36)は, 侵害に対し取り得る措置について, (a)「AI 開発事業者が行為主体として著作権侵害の責任を負う場合において, 当該 AI 開発事業者に対しては, 著作権侵害の予防に必要な措置として, 侵害物を生成した生成 AI の開発に用いられたデータセットが, その後も AI 開発に用いられる蓋然性が高い場合には, 当該データセットから, 当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる」, (b)「AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者が行為主体として著作権侵害の責任を負う場合において, 侵害物を生成した生成 AI について, 当該生成 AI による生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には, 当該 AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者に対して, 当該生成 AI による著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。この点に関して, 侵害の予防に必要な措置としては, 当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう, 例えば, ①特定のプロンプト入力については, 生成をしないといった措置, あるいは, ②当該生成 AI の学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の, 生成 AI に対する技術的な制限を付す方法などが考えられる」とする。

 

本判決では,  (i) 上記(a)を前提として, しかし本件では被告は, 本件AIモデルの訓練を行っていない, すなわち, AI 開発事業者ではないから, 原告ウルトラマン画像を本件AIモデルの訓練(学習)データから削除するという原告の請求を否定し, (ii) AI サービス提供事業者である被告は, Tabは, 今後も原告ウルトラマン画像と実質的に類似する画像を生成可能であるから, 類似画像生成を停止する技術的措置を講じなければならない, 具体的には, 更にキーワードフィルタリング等の措置を講じ, 当該サービスにおいて原告ウルトラマン画像に実質的に類似する画像が生成され続けることを防止しなければならない, とした。従って, 本判決も, 上記「考え方」と同様の考え方をしたものと思われる。

 

(5) 損害賠償について

 

著作権侵害に関する損害賠償に関し, 「考え方」(p.35)では, 「損害賠償請求については侵害者に故意又は過失が認められることが必要であ(る)」ことを指摘している。

また, その損害賠償の額については, 権利者が実際に受けた損害の額の立証の他, 日本の著作権法(114条)では, 侵害者が侵害作成物を譲渡等した場合の当該譲渡等数量等を基準とする算定, 侵害者が侵害行為により得た利益を損害額と推定すること, ライセンス料相当額を基準とする算定等を可能としている。

 

これに対し, 本判決では, 被告の著作権侵害についての過失を, 生成AI弁法等における被告の義務違反を根拠に, 被告の注意義務懈怠を認めた上で認定している。また, 本判決では, AIサービス提供者の注意義務の程度について, AIの重要性, それが発展段階にあること等を指摘した上で, 当該「義務を過度に重くすることは適切で(なく)」, 「合理的かつ負担可能な注意義務」でなければならないとする。

損害賠償の額については, (中国の)著作権法では, 日本の著作権法と同様, 権利者が受けた実際の損害, 権利侵害者の不法所得または許諾使用料を基準にした損害賠償が可能であるが, これらの算定が困難な場合には, 人民法院が, 侵害行為の情状により500元以上500万元以下の損害賠償を決定することができる。本判決では, この, 日本の著作権法にはない裁判所の情状考慮による損害賠償額決定制度に基づき, 本法院が, 情状(原告ウルトラマン画像の高い市場知名度, 応訴後の被告が講じた技術的措置, 本件AI生成画像は利用者に向けてのみ生成されその影響範囲は限られていること等)を総合的に考慮して損害賠償額を決定している。

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以 上


【注】

[1] 【本稿の筆者】 UniLaw企業法務研究所代表 浅井敏雄

[2] 【生成AIに関する法的問題】 他の問題については以下参照。(1) 浅井敏雄『中国「生成人工知能サービス管理暫定弁法」の制定とその解説』2023/07/21, 企業法務ナビ. (2) 浅井敏雄「中国におけるAI 生成物の明示(ラベリング)関連法制」2023/11/28, 企業法務ナビ. (3) 浅井敏雄「中国におけるAI生成物の著作物性関連2019/2020年判例」2023/12/18, 企業法務ナビ. (4) 浅井敏雄「中国のAI生成画像の著作物性を認めた初の判決と米国との比較」 2023/12/18, 企業法務ナビ.

[3] AI と著作権に関する考え方について」】 文化審議会著作権分科会(第69回)(第23期第2回)」(令和6年3月19日)資料1「AI と著作権に関する考え方について」。(参考)(参考) 日テレNEWS 『文化庁の文化審議会「AIと著作権に関する考え方」取りまとめ 相談窓口設置で実例収集も』 2024/3/19, Yahoo!ニュース。

[4] 【本判決】 (原文) 中国知识产权律师网「全球AIGC平台侵权首案民事一审判决书(2024)粤0192民初113号」。(以下参考) (1) King & Wood Mallesons "CHINA’S FIRST CASE ON AIGC OUTPUT INFRINGEMENT--ULTRAMAN" 28 February 2024. (2) 柴野相雄, 三代川英嗣「【中国】【著作権】AI が生成するウルトラマン画像の著作権侵害について生成AIサービス提供事業者の責任を認めた中国の裁判例」2024.03.04, TMI総合法律事務所。(3) HFG Law & Intellectual Property - Fredrick Xie "Ultraman defeats AI generated copies" March 12 2024, Lexology. (4) Beijing East IP Law Firm "China: An AI Company Generated Ultraman Pictures Were Found Liable Of Copyright Infringement – The World's First AIGC Platform Copyright Infringement Case"15 March 2024, Mondaq  (6) ジャック「中国ウルトラマンティガ生成AI裁判(2月8日)の判決文私訳」2024年3月19日. (7) Xia Yu "China - Court Decides Artificial Intelligence Generated Content Infringes Copyright" HG.org Leading Lawyers - HGExperts.com.

[5] 【ウルトラマンティガ(マルチタイプ)】 (参考画像) 円谷プロダクション「『ウルトラマンティガ』放送25周年記念!海洋堂より「Character Classics ウルトラマンティガ」登場!」2021/9/24。BANDAI SPIRITS「ウルトラマンティガ(マルチタイプ)

[6] 【中国著作権法】 「中华人民共和国著作权法」(2021年6月1日改正施行)。CRIC和訳JETRO和訳

[7] 【著作権法第52条および第53条】 著作権法第52条「次の各号に掲げる侵害行為を犯す者は, 事案に応じて, 侵害行為の停止, 同行為による影響の排除, 謝罪または損害賠償などの民事責任を負わなければならない。...(11) 著作権または著作権に関連する権利を侵害するその他の行為」。同第53条「次の各号に掲げる侵害行為を犯す者は, 事案に応じて, 本法律第 52 条に定める民事責任を負わなければならない。...(1) 著作権者の許諾を得ることなく, その著作物を複製し, 発行し, 実演し, 上映し, 放送し, 編集し, 情報ネットワークを通じて公に送信すること。ただし, この法律に別段の定めがある場合は, この限りではない...」

[8] 【「生成系人工知能サービス管理暫定弁法(生成式人工智能服务管理暂行办法)」】 (英訳)China Law Translate "Interim Measures for the Management of Generative Artificial Intelligence Services" 2023/07/13.  (参考) 浅井敏雄『中国「生成人工知能サービス管理暫定弁法」の制定とその解説』2023/07/21, 企業法務ナビ

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