【コラム】法務の鉄人 (8) 『株主総会』
2021/12/11   総会対応, 会社法

株主総会に携わる意義


3月下旬、そして6月下旬は、株主総会の季節である。

株主総会の運営は多くの会社は総務が中心になって行い、法務関連は想定問答などで関わるというのが一般的なスタイルだ。

私は法務関連部門の担当者としては、株主総会に深く関与した経験があるかで、リーガル人材として大きな価値の差が生じると思っている。それは、

1、会社で最大で最重要のイベントであり、会社法の実務を知っていることは非常に重要。


2、法務等の担当として、想定問答の取りまとめや作成をすることは、会社の事業をよりよく知ることになり、かつ、会社中の部署の担当者とコミュニケーションをすることになるから。


3、想定問答の取りまとめやレビューはただ事業を知っているのみならず、会社や事業に対して、株主や世間の人々がどのような関心、思いを抱いているかを知った上で対応が必要になり、会社を客観的にも見る機会になるから。


得られるものが沢山あるから、法務やコンプライアンスの担当者は是非、会社の株主総会やその準備に参加してもらいたい。空気を感じるだけでもいい。だから、警備員役だっていい。

 

総会対応の難しさ-①事業部が頑張っていることと世間の関心とのズレ


ところで、事業側の人たちは、「私たちはこれをこんなに頑張っている」という思いが強い。実際、皆さん、日夜頑張っているのだと思う。

ただ、事業部が頑張ることと、世間から何を気にされているのか関心があるのかというのは、別の話である。株主総会の想定問答作りになると、この辺りが難しい。

 

例えば、ゴーン事件が起きれば役員報酬のことがみんな気になるし、ソフトバンクの大規模通信障害が起きれば、他の通信会社でも、同様のことは関心事になる。

実情として、自分たちの会社は制度が違ったり、同様のインシデントが起こる可能性は極めて低かったとしても、である。それは頑張っているとかいないとかの話ではない。株主や外部の人たちは、分からないから確認したいのである。

 

こうして考えれば、株主総会の存在意義そのものである。ただ、それをうまく伝えるのは簡単ではないのだが。

 

総会対応の難しさ-②専門知識の習得


もうひとつ、法務を含む管理部門にとって厄介なのは、専門知識である。

例えば、次の言葉を幾つ平易な言葉(専門用語は極力なし)で説明できるだろうか。


4G/5G
インフルエンサーマーケティング
シェアリングエコノミー
サブスクリプション
エコシステム
情報銀行
ソーシャルレンディング


IT業界やマーケティングで幾つか社会で話題になっている言葉をあげてみた。どの程度お分かりだろうか。

 

自分の仕事、事業には、「今、直接関わりはない」としても、世の中ではこうした新しい言葉/概念が生まれ、ビジネスの世界で飛び交っている。ひょんなことから急に関わることになるなんて話も珍しくない。その時に、ビジネスでこうした新しい言葉/概念が理解できていなければ、株主総会の想定問答を作ることはできない。知識がなければ対応できないことだから、知らない時点であなたは仕事を果たせない可能性がある。

 

人類は、遥か昔から、知恵や知識を重要視してきた。例えば、『旧約聖書』「箴言」24章5節には、「知恵ある男は勇敢にふるまい、…知識ある男は力を発揮する」という言葉があるし、イギリスの哲学者フランシス・ベーコンは、『知は力なり』と説いた。

 

今日は、手元のスマホやタブレットで解らないことはすぐに調べられる。けれども、その何割をあなたは自分の言葉で説明出来るだろうか。理解しているだろうか。

 

知識を「使えるレベル」で持っていること=理解していることが重要である。

上の例で言えば、4G/5Gを聞いたことがある、それが何か知っているでは足らない。4Gとは何なのか、それが5Gとはどう違うのか。どんなメリット、デメリットがあるのか。ここまでわかっていると、ようやくこの話を事業部とできるようになってくる。

契約法務の場面なら、そのサービスがどんな特徴を有するかは、責任や損害賠償などで重要なポイントになりうるし、リスクマネジメントや渉外業務であれば、どのようにリスクをマネジメントし、何かあった場合に対応するのかということになる。

事業部から聞けば良いじゃないか?という考えもあるかもしれない。しかし、自社の事業部の説明は必ずしも一般的なものではないのかもしれない。だから、ニュートラルな視点を自ら勉強することで得る必要がある。

 

ではどのように勉強するべきか。

 

勉強にお薦めの書籍


今回からは、法務やコンプライアンス業務を行うあなたに、オススメの本を数冊ずつ紹介していく。

初回は、Fintechの分野から。

紹介するのは、『Fintechの法律 2017-2018』増島雅和ほか 日経BP社である。

 

今日、Fintechは非常にホットな分野である。

まず、QRコード決済。そして非接触型ICカード(プリペイドカードも含む)による決済。こうした決済手段は今、まさに群雄割拠。

更には、銀行でなくてもお金を送金できる仕組みも始まっている。

そして暗号(仮想)通貨。場合によっては、ポイントの問題も関わるかもしれない。

Fintechはどのように動き、法律の規制はどうなっているのかが分かる一冊。

 

更に勉強したい人は、

FinTechと金融の未来 10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?』大和総研 日経BP社

も面白い。

こちらを読むと、金融イノベーションが元々は金融系でないところから生まれる可能性が高いことがわかってくる。

法律に直接言及する部分は少ないが、現行の金融業がどうなっていて、どのようにテクノロジーがイノベーションを起こす「隙間」があるのか、そこにどのようなビジネスチャンスがあるかが見えてくる。

さあ、勉強を始めてみよう。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


Harbinger(ハービンジャー)


法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。


その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。


現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。


 
 

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