東京五輪のテスト大会を巡り独占禁止法の疑い
2022/11/25   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

はじめに

東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件で、「談合」の疑いが持ち上がっています。報道などによりますと、東京地検特捜部に対し、関係者が大会組織委員会が発注したオリパラ関連事業の入札について「談合があった」と話しているということです。大手広告代理店の「電通」など9社と1団体が落札していたとされていて、特捜部は独占禁止法(不当な取引制限)に抵触する疑いがあるとみて、公正取引委員会と連携して調査しているとのことです。

東京オリンピック・パラリンピックでは、競技会場ごとに計56回のテスト大会が行われましたが、その「計画立案・計画支援業務」に関し、2018年5月から8月の期間に総合評価方式(入札価格に加え、技術提案等も加味して契約の相手方を決める入札方式)で26件の競争入札が行われました。その結果、電通をはじめ、10事業者(大手広告代理店・イベント会社・共同企業体)が約400万円から約5900万円(総額で約5億3700万円)で落札したとされています。

これらの入札の中には1社だけで応札したケースもあったそうで、複数企業間で受注調整が行われ、会場ごとの落札予定者が事前に取り決められていた疑いが持たれています。

 

独占禁止法とは

独占禁止法は,私的独占,不当な取引制限(カルテル,入札談合等),不公正な取引方法などの行為を規制する法律で、6つの内容に区分されます。

・私的独占の禁止
・不当な取引制限の禁止
・事業者団体の規制
・企業結合の規制
・独占的状態の規制
・不公正な取引方法の禁止

公正取引委員会 独占禁止法の規制内容

今回の事件では、特捜部は「不当な取引制限の禁止」に該当するとみているといいます。

不当な取引制限とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを指します。

(公取委 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)

 

不当な取引制限の要件

不当な取引制限の要件について、さまざまな議論が進められていますが、「意思の連絡」と「相互拘束」が必要だと大きく理解されています。

(1)意思の連絡
事業者が相互に対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容するだけで成立すると言われています。「合意」と表現されることもありますが、事業者間相互で明示して合意する必要はなく、黙示のものでよいとされています。
実際に、公正取引委員会や裁判所では、意思の連絡について直接証拠がないとしても、間接証拠や状況証拠の積み上げでの立証が認められています。

(2)相互拘束
事業者が他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束することを指します。談合などの行為者のそれぞれの事業活動を制約し、特定の事業者を排除するなど、共通の目的の達成に向けられたものであれば要件に足りるということです。

 

談合とカルテルは違う?

不正な取引制限の具体的な事例として、「入札談合」「カルテル」の2つがあげられます。

■入札談合
国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する企業同士が事前に相談して、受注する企業や金額などを決めて、競争をやめてしまうこと

■カルテル
複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量、取引先を共同で取り決める行為

どちらも企業が話し合って物やサービスの値段などを調整するものですが、入札談合では自治体などが通常よりも高い金額で発注することとなり、税金がより多く投入されることになります。

入札談合をした場合、刑法で裁かれた上、公正取引委員会が処分を下します。

まずは刑法でどのように裁かれるのか見ていきます。

刑法 第96条(公契約関係競売等妨害)
第1項 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第2項 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。


ポイントとなるのが、談合に参加した時点で成立するということです。実際に企業が価格調整を行うなどの行動に移さないとしても罪に問われるとされています。

そして公正取引委員会から厳しい処罰が与えられます。

・排除措置命令
違反行為をした者に対して、その違反行為を除くための行政処分。
違反行為の再発防止に向け将来に向けた違反行為の禁止させる措置などがあり、違反事業者は公正取引委員会への報告なども行う必要があります。

・課徴金
違反行為の抑止を目的として、課徴金を命じられる可能性があります。

そのほかにも談合での被害者が損害賠償の請求が可能となります。「民事措置(損害賠償の請求)」と呼ばれ、企業は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができません(無過失の損害賠償責任)。

公取委 独占禁止法違反事件の処理手続図
企業の信頼を損ねるだけでなく、財政的にも大きなダメージとなります。

 

判例

入札談合に関する、過去の事例を見ていきます。

1)電気設備工事の競争入札での事例
参加事業者10社が事前に協議を行い、落札する事業者と落札価格の取り決めを行いました。
公正取引委員会は、入札談合に当たると判断し排除措置命令と課徴金納付命令を行いました。
さらに、市役所の職員が関与した官製談合に当たると判断されたため、市役所に対する改善措置要求も併せて行われました。

2)リニア中央新幹線の建設工事を巡る入札談合事件
大林組、清水建設、鹿島建設、大成建設の大手ゼネコン4社は、JR東海が発注するリニア中央新幹線の品川駅、名古屋駅の新設工事に関して談合を行ったとされるものです。4社は予め受注予定者を決め、各社がJR東海に提示する見積額なども詳細に調整することで合意し、発注された工事を各社3~4件ずつ受注したとのことです。4社のうち大林組、清水建設は談合を認め公正取引委員会に申告。鹿島建設と大成建設は談合を否定していましたが、公正取引委員会は4社に対して排除措置命令と課徴金納付命令を行いました。

 

コメント

今回の一連の事件は、法務パーソンとして、自社においてどのように入札談合を防いでいけば良いのか、改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。日本でも有数の広告代理店が絡む疑惑だけに、続報に注目が集まります。

 

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