相場操縦でSMBC日興証券元副社長に有罪判決
2025/07/23   金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法, 金融・証券・保険

はじめに


SMBC日興証券の相場操縦事件で、金商法違反の罪に問われた元副社長に対し東京地裁が22日、懲役2年6月、執行猶予5年の判決を言い渡していたことがわかりました。株価を安定させることが目的だったとのことです。
今回は金融商品取引法が禁止する相場操縦について見直していきます。
 

事案の概要


報道などによりますと、SMBC日興証券の元エクイティ部部長らは計10の銘柄の株式で市場が閉まる直前に大量の買い注文を入れて株価を買い支えた疑いが持たれているとされます。被告らは大株主から証券会社がまとまった株式を買い取り、投資家に転売する「ブロックオファー」と呼ばれる取引に際して、株価が下落して取引が中止になることを恐れ、終値の故意に安定させていたとのことです。

なお、本事件に関しては既に法人としての同社と幹部に対し懲役1年6月、執行猶予3年、同社への罰金7億円と追徴金44億7千万円の有罪判決が確定しています。公判では会社側は起訴内容を認めたものの、元エクイティ部部長は安定操作に当たるとは思っていないと主張しているとされます。

 

金商法の不公正取引規制


金融商品取引法では、株式など金融商品について不公正な取引を禁止しています。具体的には、風説の流布や偽計、相場操縦、内部者取引などが挙げられます。

金商法158条では、「何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等…の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならかい」としています。

風説とは、うわさや合理的根拠のない風評を言います。そして、流布とは不特定多数の者に伝達することです。たとえば、自ら保有する銘柄を高値で売却するため、ネット上の掲示板などに虚偽の情報を掲載するといった場合が典型例です。

偽計とは、相場の変動を図る目的で他人に錯誤を生じさせる詐欺的・不公正な策略、手段を言います。これらの行為に対しては、10年以下の拘禁刑、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条1項5号)。

不公正取引によって得た財産は没収され(198条の2)、法人には7億円以下の罰金となっています(207条1項1号)。

 

相場操縦行為


(1)仮装・馴合売買
市場において、その相場があたかも自然の需給によって形成されたものであるかのように他人を誤解させるなどによって自己の利益を図ろうとする行為を相場操縦と言います。

まず、仮装売買とは同一人が権利の移転を目的とせず、同一の有価証券について同時期に同価格で売りと買いの注文を発注して売買することを言います。ある特定の株式の売買が頻繁に行われていると他の投資家に誤認させることが目的です。これを複数の者が通謀して行うと馴合売買となります。これらは金商法159条1項で禁止されています。

(2)変動操作取引
次に、変動操作取引ですが、これは他人を有価証券の売買に誘引する目的で売買が活発に行われていると誤解させ、または株価を人為的に変動させるような一連の売買を言います(159条2項)。

たとえば、複数の証券会社を介して連続した高指値注文を行って株価を引き上げ、下値に買い注文を大量に入れるなどの方法で当該株式の売買が繁盛であるかのように誤認させ、他の投資家が買い付けてさらに上昇したところで売却して利益を得るといった例が実例として挙げられています。

また、売買を成立させる意思が無いにもかかわらず、大量の売買注文を発注し取消し、訂正など頻繁に行うといった行為(見せ玉)も該当する可能性があります。

(3)安定操作取引
安定操作取引とは、新規に株式などの証券を市場で発売した際に、その価格が市場で不安定にならないように証券の発行会社や金融機関が市場で一定期間証券の買い支えや売り出しを行うことを言います。これを一般の投資家などが行った場合、上記の変動操作取引など相場操縦行為となります。

159条3項によりますと、「何人も政令で定めるところに違反して、取引所金融商品市場における上場金融商品等…の相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって、一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をしてはならない」とされています。

つまり、政令に基づいて一定の会社等が行う場合にのみ適法となるということです。適法な場合として内閣府令で定められている場合とは、安定操作を行う可能性があることを有価証券届出書や目論見書で事前開示し、売出し日から35日以内の期間で実施記録を保存しつつ行う場合です。

 

コメント


本件訴訟で被告らは「相場を安定させる目的はなかった」と主張していましたが、東京地裁は相場を安定させる目的があったと被告らの故意を認めたうえで、「証券会社は証券市場に対する信頼を大きく傷つけた」として懲役3年、執行猶予5年などを言い渡しました。

以上のように、金商法では株式等の取引を優位に行うために行う様々な行為を相場操縦行為として禁止しています。上で紹介した以外にも、決算期末の終値での買付も会計処理などの関係で相場操縦が疑われることがあると言われています。

日本取引所自主規制法人や証券取引監視委員会は株価や売買高が急激に変動した銘柄について詳細に分析しています。自社の株式については相場操縦だけでなく、以前にも取り上げたインサイダー取引も含めて社内で周知し防止していくことが重要と言えるでしょう。

 

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