労災遺族年金の“夫のみ年齢制限”は合憲か?不支給処分めぐり夫が提訴
2025/07/31   労務法務, 労働法全般

はじめに


労災保険の遺族補償年金について、夫のみに年齢要件が課されているのは差別に当たり違憲だとして、岩手県の男性が国を相手取り提訴していたことがわかりました。
男性は当時54歳だったとのことです。今回は労災保険法の遺族補償年金について見ていきます。

 

事案の概要


報道などによりますと、原告男性の妻は岩手県の介護事務所で介護スタッフとして働き、男性と共働きで3人の子供を育ててきたものの、2020年9月に自死したとされます。

労働基準監督署は23年4月、「職場での人間関係のトラブル後、退職勧奨され解雇されるなどして精神状態が悪化した」とし労災認定していたとのことです。

男性は24年11月に遺族補償年金の給付申請をしましたが、今年2月、年齢要件を満たしていないことを理由に不支給処分となっていたとされます。

男性は「労災保険法の受給要件は、性別役割分業を前提としており、共働きが当たり前の現代社会と合致しない」として、不支給処分の取り消しを求め仙台地裁に提訴しました。

 

労災保険とは


労災保険とは、労働者災害補償保険の略で、労働者の業務中や通勤中の負傷、疾病、死亡の場合に本人や遺族に様々な給付を行い、生活を支える制度です。

どのような場合に労災に該当するかについて本稿では細かくは触れませんが、業務と傷病との間に一定の因果関係がある場合が業務災害、住居と就業場所、就業場所から他の就業場所、単身赴任先と帰省先との移動に際し、合理的な経路および方法での通勤中の傷病を通勤災害と言います。

労災保険制度の対象は正社員だけでなく、パートやアルバイト、また派遣労働者も含まれます。

労災給付には、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、葬祭料給付、傷病保障年金、介護保障給付、そして遺族補償給付があります。

なお、雇用保険料は会社と労働者が負担しますが、労災保険料はその全額を会社側が負担することとなります。

 

遺族補償給付とは


上でも触れたように労災給付の中に遺族補償給付があります。

これは労災で労働者が亡くなった場合に、その遺族に支給されるもので、遺族補償年金と遺族補償一時金に分けられます。

遺族補償年金は死亡した労働者と一定の関係にある遺族に支給されます。

これに対し遺族補償一時金は労働者の死亡時に遺族補償年金の受給資格がある遺族がいない場合に一定の遺族に支給されるものです。

具体的な支給額は遺族保障一時金が300万円、遺族補償年金は対象遺族数が1人の場合は給付基礎日額の153日分、2人なら201日分、3人の場合は223日分、4人以上で245日分となっています。

なお、「給付基礎日額」とは、事故が発生した日または疾病が確定した日の直前3ヶ月の賃金総額を日数で割った1日当たりの賃金額を言うとされます。

 

遺族補償年金の受給資格者


遺族補償年金の受給資格者は、労働者が死亡した時点でその収入で生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹となっており、この順番で最先順位の者のみが受給できます。

さらに妻以外の者には一定の条件が設けられており、具体的には(1)60歳以上か一定障害の夫、(2)18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子または孫、(3)60歳以上か一定障害の父母または祖父母、(4)18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定障害の兄弟姉妹、(5)55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹となっています。

「一定障害」とは障害等級5級以上の身体障害を言います。つまり妻以外は55歳以上かまた一定の障害を持っている場合に限定されています。

なお、遺族補償年金の請求権は労働者が亡くなった日の翌日から起算して5年を経過することにより時効で消滅するとされています。

 

コメント


遺族補償年金の不支給に対し、「共働きが当たり前の現代社会と合致しておらず不当な男女差別に当たり違憲」であるとして夫が国を提訴した今回の訴訟。
その一方、厚労省の有識者検討会は現在、年齢要件などを廃止する方向で議論を進めており、来年の通常国会での改正案提出を目指しているといわれています。

このように労災保険制度は労災認定の要件だけでなく、各種給付金の受給資格や手続きも複雑なものとなっています。
従業員やその家族に不測の不利益が生じないよう社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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