緊急事態宣言の「休業手当」への影響
2020/04/10   労務法務, 労働法全般

緊急事態宣言による休業要請

6日に都が緊急事態措置案を発表した(朝日新聞)。中でも休業要請が目立つ。例えば、教育施設、運動施設、観劇施設、展示施設、生活必需品以外のショッピング施設、飲食店、カラオケやゲームセンターを始めとする娯楽施設が休業の要請対象となると見込まれる。

このような、生活必需品を取り扱う店舗以外の大規模な休業要請となると、その施設・店舗で就労する多くの労働者は、休業を余儀なくされてしまうだろう。

となると、問題になるのが、賃金である。このような場合、使用者は何らかのをお金を支払う必要があるのか、また労働者は何らかの形でお金を得ることができるのだろうか。

支払いの要件(民法526条、労働基準法26条)

(1)ノーワーク・ノーペイの原則
「休業」とは、労働義務のある時間に労働ができなくなることを一般的に意味する(※1)。したがって、休業時は働かないことになるが、労働の対価である給料は、対価である以上、原則として働かなければ得られない。新民法624条は、雇用契約とは、「労働に従事すること・・・に対してその報酬を与えることを約する」ものと規定する。したがって、働かなければ報酬を与えないというのが雇用契約を解釈するうえでの原則的な考え方(ノーワークノーペイの原則)である。

(※1)(水町勇一郎「労働法(第7版)有斐閣」p258)

(2)労働者保護のための例外
一方で、労働者の生活にも配慮が必要である。

※ここにいう労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」をいう(労働基準法9条)。
※ほとんどのアルバイトやパートもこれに含まれる。

そこで、民法及び労働基準法はそれぞれ、

①給料全額の請求ができる場合(新民法536条2項)
②給料の6割相当額の請求ができる場合(労働基準法26条)
を定める。

※2020年4月1日から施行された新民法536条が適用されるのは、施行後に締結された契約であるが(附則(平成二九・六・二法四四)30条1項)、基本的な理解は変わらないため新民法の条文を使用する。

○新民法536条2項
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」

○労働基準法26条
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」

新旧関わらず民法536条で賃金全額をもらうためには、使用者の故意若しくは過失又はこれと信義則上同視できる事由と認められるような使用者側の事情が必要とされる。例えばパワハラ等で故意に出勤できない状況を作り出した場合等である。

他方、労働基準法26条で平均賃金の6割相当の支払いを求める場合、広く使用者側に起因する経営、管理上の障害(客足が遠のく、官庁による業務停止命令等)でよいとされている。したがって、支払いが認められやすい(また、26条違反の使用者には罰則もある。同法120条1項)。ただし、後ほど問題になるが、一般的に、不可抗力によるものは使用者の責めに帰すべき事由にあたらないとされている(荒木尚志「労働法第3版」p124)。

これを、コロナウイルスによる営業自粛要請についてあてはめるとどうなるのだろうか。

コロナウイルスによる自粛要請の場合

まず、コロナウイルスによる休業は要請を受けて行うものである。したがって、一般的には使用者の故意や過失によるものではないから、民法536条にいう「使用者の責めに帰すべき事由」による休業にはあたらない。

では、自粛要請に従う休業は、労働基準法26条にいう「使用者の責に帰すべき事由による休業」といえるか。

結論としては、「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは言い難いということになってしまいそうである。
これについては、様々な見解があり、個別事情にもよるため、実際は裁判所の判断に委ねるほか無いのが現状ではある。

☆東京新聞「<新型コロナ>緊急事態の業務停止 休業手当の義務、対象外 厚労省見解

ただし、厚生労働省が休業手当の支給義務を課すことが難しい旨の見解を示すのは、ひとえに「不可抗力」の場合、使用者の責めに帰すべき事由による休業にはあたらないとされているからであろう。

厚生労働省HP
<休業させる場合の留意点>問1 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

※不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。(以上HPより引用)

確かに、コロナウイルに起因する休業は①その原因が事業の外部より発生した事故にあたりそうである。また、休業を要請される施設は軒並み、接客や受付等”その場で何らかの行動すること”を契約内容とする労働者を多く抱えるものばかりである。したがって、自宅等で就労可能な仕事を割り振ること等ができない場合が多いであろう。その場合、一般的には、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故と言える。したがって、労働者にとっては受け入れがたいが、不可抗力であるという主張の方がしやすい。

他方、自宅等で就労可能な仕事があるのに割り振らなかった場合、後から休業手当を請求をされたとき、不可抗力と主張しにくくなってしまう。
労使双方のためにも、業務の割り振りに不備がないか、労務担当の方にはご確認いただきたい。

☆雇用・労働についての相談窓口等一覧(厚生労働省HP)

雇用調整助成金制度の特例措置

以上より、現行法のままでは多くの労働者が生活に困窮することが想定されるため、2020年4月7日現在、政府は事業主に対する雇用調整助成金の特例措置を用意している。

休業手当を支払った事業主に対し、支払い分のほとんどともいえる割合を助成する、というものである。
詳しい制度の内容・助成要件等は下記のリンク先が参考になる。

☆「雇用調整助成金ガイドブック(2020年3月1日版).pdf」厚生労働省HP
☆「新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大.pdf」厚生労働省HP
雇用調整助成金 ◇新型コロナウイルス感染症について 厚生労働省HP

面倒だと思ったとしても、是非ご一読いただいて、今後の事業計画・使用者への働きかけを今一度考えていただきたい。

「双方の利益」の最大化のために行動を

さて、緊急事態宣言の「休業手当」への影響をみてきた。
こと休業手当の話となると、休業手当相当額についてどちらかが損をすると感じるため、使用者と労働者の意見が対立しがちになってしまう。
しかも、双方とも資金繰りに困っている現状にあっては普段以上に、対立が激しくなることが予想される。
ただ、制度をうまく使えば、そのシワ寄せを最低限に抑えることもできるのだ。

また、普段の業務ができない代わりに、新しい試みや中長期的な利益のためになすべき業務をこの際に実施する企業も多い。

増加する売上減少企業、一方でコロナの影響をビジネスチャンスにする動きも
今こそ、小売企業はベルクに学べ!
自粛ムードが高まるなか、企業が打ち出す社会貢献と新たなビジネスチャンスとは?

確かに、使用者対労働者の対立構造の延長線上にある法的な休業手当の可否という議論もこの過酷な状況を乗り切る上では重要である。ただし、その後も成長していくことを望むのならば、助成制度の活用を踏まえた、両者の総損失を最小にするための申請や話し合い、取り組みのフェーズに一刻も早く進むべきであろう。

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