解雇の種類と手続き まとめ
2024/03/04   契約法務, 労務法務, 労働法全般

はじめに

 解雇とは、会社が従業員との労働契約関係を一方的に破棄する行為をいいます。従業員にとっては職を失うことから非常に大きな影響を与えます。

一方で、会社にとっても手続き的、また経済的にも大きな負担となることがあります。不用意な解雇を行なったことにより、元従業員から訴えられ、敗訴した場合は相当な金銭的負担と負うとともに解雇が無効となってしまうこともあります。

また、一口に解雇と言ってもその種類は普通解雇、懲戒解雇、整理解雇など様々な態様が存在し、それぞれに有効要件や手続きが異なってきます。

今回はそんな解雇の種類と手続きを詳細に見ていきます。

 


 

普通解雇とは

 「普通解雇」とは、従業員が労働契約の本旨に従った労務を提供しないこと、つまり債務不履行を理由とした解雇を言うとされております。

従業員の能力不足、就業規則違反、規律違反、協調性の欠如といった理由による解雇がこれに該当します。雇用契約等で求められた事業場における業務遂行能力が足りず、必要な労務の提供等がなされていないことを理由としているということです。

それでは、この普通解雇の要件や手続きはどのようなものなのでしょうか。

 

普通解雇の要件と手続き

(1)普通解雇の有効要件
 労働契約法第16条によりますと、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされております。つまり、客観的合理性と社会通念上相当性が必要ということです。これは一般に解雇権濫用の法理と呼ばれます。

客観的合理性が認められる場合とは一般に、労働者の労働能力や適格性の低下・喪失、労働者の義務違反や規律違反、経営上の必要性などが挙げられます。また、社会通念上相当性については解雇以外の手段が無かったかなど、様々な諸事情が考慮されると言われております。

(2)解雇の有効性が問題となった裁判例
 会社の就業規則に解雇事由として「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」と定められており、所属部署で全従業員の1割に満たない能率であった者が解雇された事例で裁判所は、体系的な教育や指導を実施することによって労働能率の向上を図る余地があるとして解雇権濫用と認めた例があります(東京地裁平成11年10月15日)。

一方で、外資系自動車メーカーでの「人事本部長」という地位に限定して中途採用された事例では、他の職種に配置転換を検討するまでもなく、当該「人事本部長」に要求される能率を満たすか否かで判断すれば足りるとして解雇を有効とした例があります(東京高裁昭和59年3月30日)。

また、2度の寝坊により2度放送事故を起こしたアナウンサーを解雇した事例で最高裁は、寝坊が故意ではなかったこと、放送事故の空白時間が長くなかったこと、普段の勤務成績は悪くなかったことなどの事情を考慮して、解雇は社会的に相当なものとは言えないとしております(最判昭和52年1月31日)。

就業規則に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、また従業員が頻繁に転勤する実態がある会社での転勤拒否を理由とする解雇の事例では、転居を伴う転勤について、業務上の必要性が存在しない場合、または必要性があっても不当な動機や目的がある場合、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など特段の事情がある場合は権利濫用となるとした上で、解雇を適法とした例も存在します(最高裁昭和61年7月14日東亜ペイント事件)。

(3)普通解雇の手続き
①普通解雇を行う前提として、どのような場合に解雇とされるかを就業規則で定めておく必要があります。労働基準法第89条では、就業規則に記載すべき事項が挙げられていますが、その中で第3号では「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」としております。

②そして労働基準法第20条では、解雇をする際には少なくとも30日前にその予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとしております。

③解雇通知書を作成します。これには解雇対象となる従業員の氏名、社名、代表者氏名、解雇通知日、解雇日、解雇理由、該当する就業規則などを記載します。

④対象となる従業員に解雇の通知と解雇通知書の交付を行います。そして会社は解雇後の各種手続きを行なっていくこととなります。

(4)解雇が法律で禁止される場合
 普通解雇は上記の有効要件や手続きの履践の有無以外にも、法令で禁止されている場合があります。具体的には以下の場合となります。

①業務上の傷病による休業期間及びその後30日間の解雇(労基法19条)

②産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇(労基法19条)

③国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労基法3条)

④労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条)

⑤女性または男性であること、婚姻、妊娠、出産、産休育休等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条、9条)

⑥障害者であることを理由とする解雇(障害者雇用促進法35条)

⑦セクハラ、パワハラ等の相談を行なったことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法11条等)

⑧公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)

などが挙げられます。これ以外にも細かな法令で同様の規定が置かれております。

 

懲戒解雇とは

 懲戒解雇も解雇の一種ですが、普通解雇と異なり、こちらは懲戒処分としての解雇となります。

懲戒処分には軽いものから戒告、けん責、始末書提出、減給、出勤停止、降格などがありますが、それらの中でもっとも重い処分として懲戒解雇があります。

会社の金銭の横領や同僚への暴力行為、重要な業務命令拒否や無断欠勤など重大な規律違反に対する制裁として行われる解雇ということです。

能力不足などで労働契約に適合する労務を提供できないことなどによる普通解雇とは違い、非違行為に対し企業として厳正に対処することを示し、起業秩序を維持することを目的としております。

 

懲戒解雇の要件と手続き

(1)懲戒解雇の有効要件
 労働契約法第15条によりますと、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」とされております。

普通解雇における解雇権濫用法理と同様の規定が懲戒処分にも置かれており、ここでも、客観的合理性と社会通念上相当性が求められております。

従業員に懲戒事由に当たる行為があった場合でも、行為の性質や態様など諸般の事情を考慮して、懲戒解雇が重すぎる場合には無効となってしまうということです。

(2)懲戒解雇の手続き
①懲戒解雇を行う上で、まず前提として就業規則に懲戒解雇事由が定められている必要があります。労働基準法第89条9号にも就業規則への記載事項として「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」と規定され、判例でも「あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要するとしております(最判平成15年10月10日)。また定めた就業規則は作業場に掲示する、労働者に書面で交付するなど周知する必要があります(第106条1項、施行規則52条の2)。

②上でも触れたように懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分です。懲戒事由が発生した場合はまず注意や指導を行い、始末書を提出させるなど改善を促す姿勢が重要です。そして、懲戒解雇よりもより軽い処分を検討し、それでも改善されない場合に懲戒解雇を検討するといった段階を踏む過程も重要と言えます。

③対象となっている従業員に弁明の機会を与えることも必要となります。懲戒事由に至った経緯や理由など反論を聴くことで懲戒解雇ではなく普通解雇やより軽い懲戒処分が妥当であると判明することもあるからです。

④そしていよいよ懲戒解雇が決定した場合には、対象となる従業員に解雇予告をすることが必要です(労働基準法第20条)。これは普通解雇の場合と同様です。しかし、一定の重大な懲戒事由につき、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受ければ予告せずに解雇することが可能です。

(3)懲戒解雇が問題となった裁判例
懲戒解雇の有効性が問題となった事例として、目黒区から八王子への転勤を命じられた従業員が、通勤時間が長くなり、子供の保育園送迎ができなくなるとして拒否したことによる懲戒解雇されたというものがあります。この事例で最高裁は懲戒解雇を有効としました(最判平成12年1月28日)。しかし、上でも触れたように転居の伴う転勤の場合、従業員に著しい負担を強いる場合などは普通解雇でも違法となる場合があると言えます。

また、セクハラやパワハラを理由に諭旨解雇処分としたものの、これに応じなかったことを理由に懲戒解雇処分された事例があります。この例では諭旨解雇に応じるか否かの検討をする時間が1時間程度しか与えられなかったことが問題となりました。この点につき裁判所は、回答期限を設定するなどの対応を取ることは十分可能であったことから解雇手続きに違法があったとしました。しかし、懲戒事由が重大である場合は手続きに軽微な違反があった場合でも解雇相当の事由か否かを判断すれば足りるとし適法としました(前橋地裁平成29年10月4日)。

業務時間中に私的なチャットを繰り返していたことを理由に懲戒解雇されたという事例も存在します。この事例では約7ヶ月の間に約5万回のチャットを行い、概算で1日あたり2時間に上るとされました。その内容も会社や他の従業員に対し誹謗中傷や名誉毀損、性的なものまで含まれていたとのことです。裁判所は、私的なチャットに対する相当性について、行われた時間や頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導、処分歴の有無に照らして社会通念上相当な範囲であれば職務専念義務に反しないとした上で、本事例ではチャットの悪質性を認めた上、弁明の際にチャットを行なっていたこと自体を否定するなど真摯な反省がなかったとして懲戒解雇を有効としました(東京地裁平成28年12月28日)。

 

整理解雇とは

 整理解雇とは、会社の経営不振や資金繰りの悪化などにより人員削減を目的として行われる解雇を言います。

これまで見てきた普通解雇や懲戒解雇と異なり、従業員の問題による解雇ではなく、完全に会社側の理由に基づく解雇であるという点が大きな特徴です。

そのため、普通解雇や懲戒解雇などよりも厳格な手続きが要求され、裁判例などでも厳しい要件が課されております。

似た用語としてリストラがありますが、こちらは解雇も含めた賃金カットや時短などの経営合理化を指すより広い概念と言えます。

 

整理解雇4要件

 整理解雇も解雇である以上、これまで触れてきた解雇権濫用の法理が適用されます。つまり、解雇理由に客観的合理性と解雇の社会通念上相当性が求められるということです。そして、労働者に非が無いにも関わらず解雇することから、これに加えていわゆる整理解雇4要件と呼ばれる有効要件が存在します。それが以下のとおりです。

(1)人員削減の必要性
 まず会社が人員削減を必要とする経営上の合理的な理由が必要です。今すぐ人員削減しなければ倒産の危機に直面するほど財政的に逼迫していることまでは必ずしも求められておりませんが、具体的な経営指標や数値などを提示して客観的に説明する必要があります。

(2)解雇回避努力義務の履行
 整理解雇は役員報酬の減額や配置転換、希望退職者の募集、出向など様々な手段を尽くした後の最後の手段です。つまり、整理解雇に踏み切るまでにそれを回避する相当の経営努力が求められるということです。これも会社の経営状況など個別具体的に判断されます。

(3)人員選定の合理性
 解雇される従業員の選定については客観的に合理性のある基準に基づいて公正に選定される必要があります。所属部署、担当業務、勤続年数、年齢、勤務地、家族構成など様々な要素を考慮して選定することとなります。

(4)解雇手続きの妥当性
 整理解雇に当たっては、対象となる従業員や労働組合に対し整理解雇の必要性や方針、方法、時期や人数などについて真摯に説明し理解を得られるよう誠実に手続きを尽くす必要があります。特に会社の経営の逼迫度合いとの関連でも、直ちに経営が傾くほどでは無い場合はより十分な説得を要すると言えます。

 

解雇後の手続き

 以上、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の要件や手続きを見てきましたが、これら解雇がなされた後に会社がすべきいくつかの手続きを見ていきます。

まず、従業員解雇後、会社は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」をハローワークに提出し、ハローワークから「離職票」が送付されてきたら、これを解雇した従業員に送付します。

そして、「健康保険・厚生年金保健被保険者資格喪失届」を年金事務所に提出し、資格喪失証明書を解雇した従業員に送付します。これは国民健康保険に加入するためです。

次に、解雇した従業員の源泉徴収票を税務署と本人に送付します。これは解雇した日から1ヶ月以内に行う必要があります。

解雇した従業員が居住していた市町村に「給与所得者異動届出書」を提出します。これは住民税の特別徴収を止めるのに必要な手続きです。

最後に解雇予告手当や退職金の支払いが必要な場合があります。また退職者の請求があった場合は解雇理由証明書の交付が必要な場合があります。

 

まとめ

 以上のように解雇には普通解雇、懲戒解雇、整理解雇などいくつかの種類があります。

いずれの場合でも客観的に合理的な解雇理由と、社会通念上の相当性が要求され、またそれぞれ特有の手続きが用意されております。

どの場合でも重要なのは、慎重な事実確認と真摯な説明や弁明の機会の付与など、丁寧な手続きの履践と言えます。能率性や技能の低さ、能力不足であっても即日解雇はできませんし、懲戒事由が発生した場合も同様です。

解雇した従業員から不当解雇だとして地位確認や慰謝料などの損害賠償を求められ提訴された場合、1000万円以上の賠償などが命じられるケースは少なくありません。

解雇を検討している場合はその要件や必要な手続き、事実確認など慎重に進めていくことが重要と言えるでしょう。

 

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