日東電工の訴訟で再審開始決定、米国居住の被告は裁判知らず
2025/08/07 訴訟対応, 民事訴訟法, メーカー

はじめに
電子部品大手「日東電工」(大阪市)の元執行役員の外国人男性に損害賠償を命じた判決が確定した訴訟で大阪地裁が25日、再審開始の決定をしていたことがわかりました。
訴訟手続に不備があったとのことです。今回は民事訴訟の再審について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、日東電工は2023年に同社の元執行役員であった外国人男性が同僚を他社に勧誘したなどとして約490万米ドルの損害賠償を求め大阪地裁に提訴していたとされます。
提訴に際して米国内の被告の住所に訴状を送付したものの、「敷地は手入れされておらず、人が住んでいる気配がない」として米国から返送されたとのことです。
そこで同社は公示送達によって訴状の送付を行い、被告の出頭が無いまま24年10月に原告請求の全額が認容される判決が言い渡され、確定したとされます。
しかし、実際には被告男性は訴状に記載された米国内の住所に居住しており、別の訴訟の代理人弁護士から知らされ初めて訴訟を提起されていたことを知ったとのことです。
再審の訴えとは
再審の訴えとは、確定した終局判決に対し、訴訟手続の重大な瑕疵その他判決の基礎資料に異常な欠陥があったことなどを理由として判決を取り消し事件について再度の審判を行うことを求める非常の不服申立てを言うとされています。
確定判決による紛争処理の結果の尊重と適正な裁判とそれに対する信頼確保が趣旨とされています。
再審請求が認められる要件は、(1)再審事由があること、(2)確定した終局判決であること、(3)再審の訴えの適格者であること、(4)再審期間内であることとなっています。
訴えの適格者として、確定判決の当事者は当然として、民事訴訟法115条1項3号の口頭弁論終結後の承継人も再審の原告となりうるとされています(最判昭和46年6月3日)。
そして、再審期間は判決が確定した後、再審事由を知った日から30日以内であり、判決が確定した日から5年以内とされています(342条1項、2項)。
再審事由
民事訴訟法338条1項では1号から10号まで再審事由が列挙されていますが、主だったものとしては次の5つが挙げられます。
(1)代理権の不存在
(2)刑事上罰すべき他人の行為による自白等
(3)判決の証拠となる文書等の偽造
(4)虚偽の陳述が判決の証拠となっていた場合
(5)前に確定した判決に抵触する判決
代理権の不存在とは、法定代理人や訴訟代理人が訴訟行為をするのに必要な代理権を持っていなかった場合を言います。これは訴訟に関与する機会を適切に確保するためと言えます。
そして、判決の基礎となっている自白や証拠について不正な手段等が介在したことにより公正な判決が妨げられている場合にも、これを是正する機会が付与されています。
また、前に確定した判決に抵触する内容の判決についても是正機会が与えられています。
しかし、これらの再審事由は全て確定前は控訴・上告によって争えることから、当事者がこれらの事由を知りながら上訴しなかった場合は再審の提訴はできません(338条1項ただし書き)。
再審に関する判例
再審に関する判例として訴状の有効な送達がなかったという事例が挙げられます。
この事例で最高裁は、被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はなく、再審事由に当たるとしています(最判平成4年9月10日)。
上で触れた再審事由に代理権の不存在がありますが、訴訟に適切に関与する機会の保障という意味では、有効な訴状の送達がなされていなかった場合も同様ということです。
また、この場合には訴訟への関与の機会が与えられなかったという再審事由を了知することができず、上訴がなされなかった場合でも338条1項ただし書きは適用されないとされています。
コメント
本件で大阪地裁は、「日東電工は被告男性の代理人弁護士を知っており、弁護士を通じて男性の居場所を知るなど6通りの調査方法が考えられたにもかかわらず調査を尽くさなかった」として再審開始を決定しました。
公示送達は調査を尽くしたにもかかわらず他の送達方法を採ることができない場合の最後の手段となります。
また、公示送達が功を奏して相手方が提訴を了知することはほぼ期待できないことから、要件を満たさない公示送達は訴訟に関与する機会が与えられなかったと判断されたものと言えます。
民事訴訟の再審は刑事とは異なり、判決を覆すような新証拠が後から出てきた場合などは再審事由とはされておらず、再審請求がなされることは極めて稀と言えます。
しかし、送達など重大な手続不備がある場合は再審が認められる可能性があるということです。
提訴する場合は、相手の訴訟の機会を十分に与えられているか、慎重に調査を尽くして進めていくことが重要と言えるでしょう。
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