公取委がスーパー2社に警告へ、不当廉売規制について
2017/09/20 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
公正取引委員会は愛知県のスーパー2社に対し、野菜を極端に安売りした行為は独禁法違反に当たるおそれがあるとして警告する方針を固めていたことがわかりました。集客の目玉商品としての安売りも場合によっては違法となります。今回は独禁法の不当廉売を公取委のガイドラインから見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、愛知県、岐阜県、三重県で地域密着型スーパーを展開するカネスエ商事(愛知県)とワイストア(愛知県)は今年5月中旬、スーパーの店頭で大根、もやしなど6品目の野菜を1円で販売していたとのことです。同地域ではワイストアが4月に新店舗を出店しカネスエとの競争が激化していたとされております。1円での販売は公取委からの指摘をうけるまで約1週間継続しておりました。業界団体からは集客目的の安売りは行き過ぎればきりがないと懸念の声が上がっており、また生産者団体からも批判の声が出ていたとのことです。公取委は不当廉売に当たるおそれがあるとして警告する方針を固めている模様です。
不当廉売とは
独禁法2条9項3号によりますと、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」を不当廉売として禁止しており課徴金、排除措置命令の対象となります(20条、20条の4)。またこれに当たらないまでも「不当に商品又は役務を低い対価で供給」した場合には一般指定6項の不当廉売に当たり排除措置命令の対象となります(20条)。企業努力によって達成した低価格ではなく、採算度外視した不当な安売り行為を規制し、健全な競争秩序を維持することを目的としております。以下具体的に要件を見ていきます。
行為要件
(1)価格・費用基準
いかなる価格で販売すると違法な不当廉売に当たるのか。公取委のガイドラインからその基準を見ていきます。まず最初の基準となるのが総販売原価です。総販売原価とは、①商品や原料の実質的な仕入れ価格と輸送費、検収費などの仕入れ経費をふくめた仕入原価、②販売にかかる運送費、広告費、人件費などの販売費、③それ以外の一般的な本社での人件費、福利厚生費などの一般管理費といったその商品を販売するまでに要する原価のトータルを言います。これを下回った場合に初めて不当廉売の領域に入ります。総販売原価を下回ると一般指定6項の「低い対価」の恐れが生じます。そして次に可変的性質を持つ費用すらも下回ると課徴金の対象である法定不当廉売の「著しく下回る対価」となります。可変的性質を持つ費用とは、たとえば本社での人件費など何もしなくても発生する費用ではなく、その商品を販売しなければ発生しない費用、つまり①の仕入原価や②の販売費の一部が該当します。これすら回収できない価格の場合に「著しく」低い価格となるということです。
(2)継続性
法定不当廉売に該当するためには「継続して」行われることが必要です。「継続して」とはガイドラインによりますと、「相当期間にわたって繰り返して廉売を行ない、又は事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されること」とし、毎日継続して行われることは必ずしも必要なく、毎週◯曜日といった場合であっても該当し得るとしています。実際にあった例では、ガソリンスタンドでの廉売で80日という比較的長期なものもあれば、1ヶ月程度から2ヶ月といったものまで商品分野によって様々です。他の事業者への影響の度合いから判断されるものと思われます。
効果要件
上記要件に該当しても必ずしも公正競争を阻害し違法となるわけではありません。廉売を正当化する特段の事業があれば不当廉売とはならないことになります。生鮮食品や季節商品など時期を過ぎたものを見切り品として販売する場合や、キズ物、半端物などの瑕疵商品を相当の低い値で販売する行為は原則として「正当な理由」ありとされます。その他にも仕入れ後急速に原価が高騰した場合や、市場環境の変化からそれに合わせる必要性がある場合なども正当理由に当たると考えられます。また判例では「競争関係の実体、競争の地理的範囲、競争事業者の認可額の実情・・・市場の状況・・・などを総合考慮」して判断したものもあります(最判平成元年12月14日)。
コメント
本件でスーパー2社はもやし、大根などの野菜を「1円」で販売していることから総販売原価はもとより、実質的な仕入れ価格も下回ることは明らかと言えます。これがたとえば賞味期限切れ間近であるとか、キズ物であるといった理由からその価格で販売されているのであれば「正当な理由」ありとして適法となる可能性はありますが、集客を目的としたものであれば正当理由とはならないと言えます。期間は約1週間程度ですが、このまま継続した場合は他の事業者の事業活動に影響を与えるものと判断されたと思われます。以上見てきたように独禁法の不当廉売に当たるかはまず総販売原価を下回るかが最初の判断基準となります。言い換えれば総販売原価を超えていれば原則として問題とならないと言えます。また継続性や正当理由も商品によって異なります。他の事業者への影響なども考慮する必要があります。不当廉売は独禁法の事例の中では非常に多い違反類型とされます。毎年不当廉売の疑いで申告される件数は数千件に上ると言われております。店舗での安売りの際には、総販売原価を割っていないかなどに留意し、不当廉売にならないよう注意することが重要と言えるでしょう。
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