農産品・食品に対する地理的表示保護制度導入 ~特定農林水産物名称保護法が成立~
2014/06/19   知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, その他

事案の概要

農林水産物や食品の産地名を国がブランドとして保護する「特定農林水産物名称保護法※」が6月18日、参院本会議で可決、成立した。一年以内に施行されることになる。

※特定農林水産物の名称の保護に関する法律

<背景・目的>
ある商品の品質・評価が地理的原産地に由来する場合、その商品の原産地を特定する表示(地理的表示)を知的財産の一つとして法令により保護する、地理的表示保護制度が世界100カ国以上で導入されている。
日本では、地理的表示保護制度の制定が遅れており、全国的な知名度を得ている物(例:夕張メロン、西陣織、信州味噌、笹野彫等)以外は、商標法での登録が認められなかった。
そこで特許庁は2006年から地域団体商標制度を開始し、平成25年9月末の時点で551件が登録されている。同制度により、例えば小田原蒲鉾(地名+商品・サービス名)などのように、地域名と商品の関係が明確であれば商標登録されることになる。
しかし同制度には品質の基準がなかったことから、国内の優れた生産技術、高品質な農産品・食品の保護に向かず、勝手に名称を使用したり模倣する事例が増えることで、かえってブランド力が低下し、生産者が不利益を被るケースもあった。そのため、国はブランド価値の毀損や信用の低下から生産者を保護する必要が生じていた。

また、政府は2020年までに農水産物・食品の輸出額を1兆円にまで拡大する方針を掲げている。国産の農産物・食品は低価格競争には向かないものの、高級メロンや高級イチゴのような高価値食物が海外で人気を博しているという現状がある。そこで、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結を前に、国産の農産物・食品をブランド化し、さらに価値を上げることで、農水産物・食品の輸出増につなげる狙いもあった。

<概要>
特定農林水産物名称保護法は、地域の伝統や特性を持ち、一定の品質を有する農水産物や食品に地理的表示を認めることで、国が不正使用から守るなど、生産者の権利を保護することが目的となる。
同法では、生産者団体などが特産品の名称や生産地、製造方法といった情報の登録を申請。
これが認められれば、その農林水産物等の特性を国が保証し、その地理的表示を登録することになる。
また、 地域の生産者全体に認証マークとして、地理的表示の使用が許容される。
さらに、地理的表示を不正使用した模倣品が発生した場合に、農林水産大臣は表示の除去・抹消など必要な措置を命じることができる。

コメント

日本でも「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」の改正により、地理的表示に関する表示基準を定めてぶどう酒及び蒸留酒、現在は清酒にも保護が及んでいる。今回の特定農林水産物名称保護法により農産物・食品に対する知的財産保護の範囲が拡大され、生産者とブランドの保護が拡大することは喜ばしいことと言える。また輸出増加により、海外における日本産の食品の知名度が高まることで、日本の産地名に便乗した海外商品の増加も予想されるが、今後制定される認証マークの有無により、国内での流通を防止することも期待できる。もっとも認証マークなど今後の運用次第では、消費者に混乱を与えることでブランドの価値の向上につながらない場合もありうるため、消費者の認知度向上に向けた周知徹底が重要となる 。

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