中国のAI生成画像の著作物性を認めた初の判決と米国との比較
2023/12/18   海外法務, 知財・ライセンス, 著作権法, 中国法

 

浅井敏雄[1]

【目  次】


(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプ)


1.    はじめに

2.    本判決の概要

(1)      事案の概要

(2)      裁判所の判断

3.    米国著作権局見解の概要

(1)      AIガイダンスの概要

(2)      Théâtre D'opéra Spatial審決の概要

4.    本判決と米国著作権局見解の比較

5.    結 語

 

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1.  はじめに


 

近時, Chat GPT, Midjourney等, 生成AIの驚異的性能が注目されるとともに, AI生成物が著作物と認められるか, すなわちAI生成物の著作物性が世界的に議論されている。

この点に関し, 拙稿「中国におけるAI生成物の著作物性関連2019/2020年判例」(2023.12, 企業法務ナビ)(PDF)では, 中国における2020年までの関連三判例を紹介したが, 更に, 中国では本年(2023年) 11月27日に, Midjourneyに並ぶ著名画像生成AIであるStable Diffusionを利用して作成した画像を著作物と認定した判決((2023)京0491民初11279号, 原文:知产库より)(以下「本判決」)が出た。なお, 本判決は一審判決であるが, 本訴訟は個人間の訴訟であり, 本判決で認定された損害賠償額も低額(5百元:約1万円)であるため, 控訴されることなく確定した可能性がある(未確認)。

本判決は, プロンプト入力等によりAI生成物の著作物性を認めたものであり, 米国著作権局が昨年来, プロンプト入力だけではAI生成物の著作物性を否定している立場(以下「米国著作権局見解」)とは明らかに異なる

一方, 日本においても, 政府において, AI生成物の生成の際に, 生成 AI に対してどの程度具体的な指示・入力(プロンプト等)を与えれば, 生成物に著作物性が認められるのかという問題が議論されている[2]

そこで, 本稿では, 本判決の概要と米国著作権局見解の概要を示し, その上で, 本判決と米国著作権局見解の内容を特に著作物性に焦点を当て比較する。なお, 本稿において, [  ]内または「 — 」以下は筆者の見解・補足等である。

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2.  本判決の概要


 

(1) 事案の概要

 

原告(個人)は, 2023年2月24日, Stable Diffusionを利用して作成した画像(以下「本件画像」という)を小紅書[SNS・電子商取引プラットフォーム]に掲載した。同年3月2日, 原告は, 被告(個人)が, バイドゥ(百度)の百度号(Baijiahao)に, 本件画像を含むブログ記事を掲載していることを発見した。

そこで, 原告は同年 5 月 25 日に北京インターネット法院(以下「本院」)に提訴し, 被告による原告著作権(情報ネットワーク送信権)の侵害, および, 本件画像の氏名表示透かし(署名水印)を除去したことに対し, 氏名表示権侵害を主張し, 被告に対し, 謝罪の公開声明および5千元の損害賠償を求めた。

 

(2) 裁判所の判断

 

(以下, 主に著作物性の判断を中心に判決の要旨を示す。)

 

本院は, 本件の主たる争点は次の通りであると考える。

①本件画像は著作物に該当するか, また, 如何なる類型の著作物に該当するか。

②原告は本件画像の著作権を享有するか。

③被告行為は著作権侵害に該当するか, また, 被告は法的責任を負うか。

 

①本件画像は著作物に該当するか, また, 如何なる類型の著作物に該当するか

 

中国著作権法(中华人民共和国著作权法)[3](以下「著作権法」)第3条は, 「著作物」とは, 「文学, 美術および学術の分野において, 独創性を有し, かつ, 一定の形式をもって表現することができる知的成果(智力成果)」と定める。同条によれば, 本件画像が著作物か否かを検討するためには以下を検討しなければならない。

①文学, 美術, 学術の分野に属するか否か。

②独創性[日本法における創作性に該当]を有するか否か。

③一定の表現形式を有するか否か。

④知的成果か否か。

 

本件の場合, 本件画像の外観は, 人々が普段目にする写真・絵画と何ら変わりはないから, 美術の分野に属し, 一定の表現形式を有しており, 上記①と③の要件は満たす。

 

【「知的成果」要件】

 

[上記④の]「知的成果」の要件に関しては, 「知的成果」とは知的活動の成果を意味する。従って, 対象物(以下「作品」)は, 自然人の知的投入を具現(体)した作品でなければならない。

本事件において, 原告は, 夕暮れの光の下で, 写真風の美女のクローズアップ画像を描きたいと考え, Stable Diffusionにプロンプトワード(以下単に「プロンプト」)を入力し, そのプロンプトにより, ジャンル[作品の種類]を「超リアル写真」かつ「カラー写真」, 主体[対象物]を「日本のアイドル」として肌状態, 目・三つ編みの色等の人物の詳細を指定し, 環境[対象物が置かれている環境]を「屋外」・「ゴールデン・タイム」・「ダイナミックライティング」, 人物表現形式を「クールなポーズ」・「カメラ目線」, スタイルを「フィルム調」・「フィルム風」等として指定し, 同時に関連パラメータを設定し, 最初に生成された画像をベースに, プロンプト追加とパラメータ調整を行い, 最終的に自分の満足のいく画像を選択した。

原告は, 本件画像の構想から最終的に本件画像を選択するまでの全過程において, 人物表現の設計, プロンプトの選択, プロンプトの順序調整, 関連パラメータの設定, 自己の期待に沿う画像の選択等, 一定の知的投入(智力投入)を行っている。

本件画像には原告[自然人]の知的投入が具現されているから, 本件画像は「知的成果(智力成果)」の要件を具備している。

 

【「独創性」要件】

 

勿論, 知的創造の全てが著作物に該当するわけではなく, [上記②の]「独創性」のある知的創造のみが著作物となり得る。一般的に言えば, 「独創性」とは, 著作物が著作者により独自に生み出されたものであり, かつ著作者個人の表現を具現(体现)したものであることを意味する「機械による知的成果」は除外される。

例えば, ある作品が一定の順序・公式・構造に従い完成され, 異なる者が同じ結果を得る場合, その表現は同じだから独創性があるとは言えない。

AIが生成した画像に作者の個性的表現が具現されているか否かは, ケースバイケースで判断する必要があり一般化することはできない。

一般的に言えば, Stable Diffusionを利用して画像生成する場合, 作者のニーズが他人と異なれば異なる程, また, 画像の要素や配置構成に関する指示が明確で具体的であればある程, 作者の個性的な表現を具現させることができる。本件の場合, 本件画像を見れば, 本件画像とそれ以前の作品との相違が認識できる。

本件画像の生成過程から見ると, 原告は具体的な線を引いてはおらず, また, Stable Diffusionに具体的な線や色の描き方を100%指示したわけでもなく, 絵を構成する線と色は基本的にはStable Diffusionが「描いた」と言え, これはこれまでの人々が絵筆や描画ソフトを利用して絵を描く方法とは大きく異なる。

しかし, 原告は, 人物やその表現形式等の画像要素をプロンプトにより設計し, また, 画像の配置構図等をパラメータで設定することにより, 自己の選択・アレンジメント(安排)を具現させた

他方, 原告は, プロンプトを入力し, 関連するパラメータを設定して最初の画像を得た後も, プロンプトを追加し, パラメータを修正し, 継続的に調整・修正し, 最終的に本件画像を得ており, かかる調整・修正過程でも, 原告の美的な選択や個性的判断が具現されている。

本裁判において, 原告は, 個々のプロンプトまたはパラメータを変更することにより異なる画像を生成しており, このことは, Stable Diffusion利用により, 異なる人が新たなプロンプトを入力し, 新たなパラメータを設定することにより異なるコンテンツを生成できることを示している。 従って, 本件画像は「機械による知的成果」ではない

以上より, 本件画像は「独創性」の要件を具備している。

 

【法政策的考慮】

 

現在, 新世代の生成AI技術が益々多くの人々の創作活動に利用されており, Stable Diffusionやそれに類似する機能のAIは, 文字による記述に基づき精巧で美しい画像を生成することができる。描画スキルのない人も含め, 多くの人々がこれらの新たな[AI]モデルを利用してコンテンツを生成し, 自己のアイデアや設計を具体的に表現し, 画像作成の効率を大幅に高めようとしている。

生成AI技術は人々の創造方法を変え, 歴史上の多くの技術進歩がもたらした影響と同様, 技術発展の過程は, 人間の仕事を徐々に機械にアウトソーシングしていく過程である。カメラが誕生する以前は, 人々は客観的対象物のイメージ再現のために高度の描画スキルを要したが, カメラ誕生により客観的対象物のイメージを記録することが容易になった。現在, スマートフォンはますます高性能化し, 使い易くなっているが, スマートフォンで撮影された画像は, 撮影者独自の知的投入が具現されている限り, 写真著作物とみなされ, 著作権法で保護される。

技術が発展し, ツールが賢くなればなる程, 人間による投入が必要でなくなることは明らかだが, だからといって, 著作物の創作を奨励するために著作権制度を適用し続けることを妨げるものではない

上述のAIが登場する以前は, 人々は美術著作物を手に入れるために, 時間と労力を費やして特定の絵画技能を習得するかまたは他人に絵画作品制作を依頼しなければならなかった。他人に絵画を描くことを依頼する場合, 委託者は一定のニーズを提示し, 受託者はそのニーズに従い線を引き, 色を塗り, 一つの美術作品を完成させる。 委託者と受託者間では, 一般的に, 絵筆を動かし絵画を描く受託者が創作者とみなされる。

かかる状況は, 人間がAIを利用して画像を生成する場合に類似するが, 両者には大きな違いがある。即ち, 受託者は自らの意志を持ち委託者から依頼された絵画作品完成に際し, 自らの選択と判断を絵画作品に織り込む。

[これに対し, ]現段階では, 生成AIは自由意思を持たず, 法的主体でもない。 従って, 人がAIを利用して画像を生成する場合, 両主体の間で誰が創作者であるかという問題を決定する必要はない。

本質的には, 道具を利用して創作するのはやはり人間であり, 即ち, 創作過程全体において知的投入を行うのは人間であってAIではない

創作の奨励は, 著作権制度の中核的な目的として認識されている。著作権制度を正しく適用し, 適切な法的手段により, より多くの人々が最新の道具を利用して創作することを奨励してこそ, 著作物の創作とAI技術の発展に益する

かかる背景と技術的現実を踏まえれば, AIが生成した画像は, それが人間の創作性ある知的投入を具現している限り, 著作物として認められ, 著作権法により保護されるべきである。

 

結論として, 本件画像は著作物の定義を満たし, 著作物に該当する。

 

【本件画像の著作物類型】

 

中国著作権法実施条例(中华人民共和国著作权法实施条例)[4]第4条によれば, 「美術著作物とは, 平面, 立体を問わず, 絵画作品, 書道, 彫刻等の造形美術の著作物であって, 線, 色彩その他の方法により美的意味を構成したものをいう」とされており, 本件画像は線と色彩からなる美術著作物であり, 美術著作物の範疇に属する。

 

②原告は本件画像の著作権を享有するか[誰が著作権を有するか]

 

著作権法第11条は, 「本法に別段の定めがある場合を除き, 著作権は著作者に帰属する」(1項), 「著作物を創作した自然人を著作者とする」(2項), 「法人または非法人機関が主宰し, 法人または非法人機関の意思を代表して創作され, かつ, 法人または非法人機関が責任を負う著作物については, 法人または非法人機関が著作者とみなされる」(3項)と定める。同条によれば, 著作者は自然人, 法人または法人格のない組織に限定されるから, AI自体は著作者になれない従って, 本件画像は本件AIにより「描かれた」ものではあるが, 本件AIは本件画像の著作者にはなり得ない

本件AIの設計[開発]者は本件画像を創作する意思はなく, また, 生成されるコンテンツを予め設定することもしておらず, 本件画像の生成過程には関与しておらず, 本件生成ツールの製造者に過ぎない。本件AIの設計[開発]者は, アルゴリズムを設計し, 大量のデータを用いてAIを「訓練・学習」させ, AIが様々なニーズに対して自らコンテンツを生成する機能を持つようにし, その過程において知的投入をした筈であるが, 設計[開発]者の知的投入は, 本件画像に具現されるのではなく, AIの設計, 即ち「創作ツール」の制作に具現されている。従って, 本件AIの設計[開発]者は, 本件画像の著作者ではない。また, 証拠によれば, 本件AIの設計者は, そのライセンスにおいて, 「出力されるコンテンツに関する如何なる権利も主張しない」旨表明していることから, 設計者は出力コンテンツに関する如何なる権利も主張していないと考えられる。

以上の通り, 原告は直接ニーズに応じて本件AIに対し関連する設定を行い, かつ最終的に本件画像を選択し, 本件画像は, 原告の知的投入に基づき直接生成されかつ原告の個性的な表現が具現されたものであるから, 原告は, 本件画像の著作者であり本件画像の著作権を享有する

 

③被告行為は著作権侵害に該当するか, また, 被告は法的責任を負うか

 

著作権法10条第12号は, 「情報ネットワーク送信権, 即ち, 公衆が個別に選択した時間および場所においてこれにアクセスできるように, 有線または無線の方式により公衆に著作物を提供する権利」を規定する。

本事件において, 被告は, 本件画像をイラストとして無断で利用し, 被告アカウント上に掲載することにより, 自己の選択する時間および場所において公衆が利用できるようにしており, 本件画像に関する原告の情報ネットワーク送信権を侵害した。

 

また, 著作権法10条は, 「氏名表示権, 即ち, 著作者であることを表明し, 著作物にその氏名を表示する権利」を規定する。著作者は, 実名を表示する権利と, 仮名を表示する権利または実名を表示しない権利を有する。証拠等によれば, 小紅書からダウンロードされた本件画像には小紅書と利用者の番号の透かしが付与されるが, 被告画像には同透かしがないから, 被告が同透かしを除去したものと認定できる。同透かしの利用者番号は, 本件画像の著作者であることを表明する役割を果たす。従って, 透かしを切除した被告は, 原告の氏名表示権を侵害したもので, その責任を負わなければならない。

 

以上より, 被告は原告の氏名表示権および情報ネットワーク送信権を侵害し, 謝罪および損害賠償の民事責任を負う。

 

著作権法54条は, 人民法院は, 権利者の実損害, 権利侵害者の不法所得および権利許諾使用料の算定が困難な場合, 侵害行為の情状により500元以上500万元以下の損害賠償を判決する旨規定する。本院は, 本件画像並びに権利侵害と利用の状況から, 被告は原告に500元を賠償すべきであると判決する。

 

以上より, 被告は, 本判決日から7日以内に, ①百家アカウント上で, 原告に対する謝罪文を24時間以上公開し, ②原告に500元を賠償しなければならない。

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3.  米国著作権局見解の概要


 

米国著作権局は, 昨年来, 以下の決定等において, AI生成物の著作権登録申請に関する見解・判断を示してきた。

①2022年2月:Stephen ThalerによるAI生成物"A Recent Entrance to Paradise"の登録申請拒否決定(決定原文)[5]

②2023年2月:Van Lindbergによるグラフィックノベル"Zarya of the Dawn"の著作権登録の対象範囲を限定しAI生成画像を登録対象から除外すべきとした決定(決定原文)

③2023年3月:「AI生成物を含む著作物の著作権登録ガイダンス」(以下「AIガイダンス」)(AIガイダンス原文)公表。

④2023年9月:Jason M. AllenのMidjourney生成画像“Théâtre D'opéra Spatial”の著作権登録の対象範囲を限定しAI生成画像を登録対象から除外すべきとした米国著作権局審査委員会審決(以下「Théâtre D'opéra Spatial審決」)(審決原文)

 

以下においては, AIガイダンスの概要と, Théâtre D'opéra Spatial審決の概要を示す。

 

(1) AIガイダンスの概要

 

1)「人間の創作」(Human Authorship)要件(II)

 

著作権は人間の創作の産物のみ保護できることは確立した解釈である。このことは, 例えば, 以下のようなことから理解される。

(a)憲法および著作権法上の「著作者(author)」という用語から人間以外は除外されている。

(b)憲法上, 連邦議会は, 「著作者...に対し, 一定期間その著作...に関する独占的権利を保障...する権限」を有する旨規定されているが, 最高裁判所は, 代表的判例において, この「著作者」から人間以外を排除している。連邦控訴裁判所も同様である。

 

2) 著作権局による「人間の創作」(Human Authorship)要件の適用(III)

 

著作権局は, テクノロジー生成物またはテクノロジー支援生成物等, 著作権保護されないものと組み合わされた “human authorship”[人間が創作したことまたはもの](以下「人間の創作」)を含む作品(work)(以下「作品」)の著作権登録申請の審査を, 先ず, 当該作品が人間の創作であって, コンピュータ(または他のデバイス)は単に補助的なツール(道具)に過ぎないのか, あるいは, 当該作品における伝統的な創作的要素(traditional elements of authorship)(文学・美術的・音楽的な表現または選択・アレンジメント要素)(以下「伝統的創作要素」)が, 実際には人間ではなく機械により考案・実行されたものなのか否かを判断することから始める。

AI生成物を含む作品の場合, 著作権局は, 当該AIによる寄与(contributions)が「機械的複製」の結果なのか, それとも著作者が「それに目に見える形を与えた創作的な心的概念・考え」の結果であるのかを検討する。その答えは, 個別事情, 特にAIツールがどのように作動し, 最終作品創作にどのように用いられたかによる。これは必然的にケースバイケースにより検討しなければならない。

作品の伝統的創作要素が機械により作り出された場合には, その作品は人間の創作ではなく, 著作権局はこれを登録しない例えば, AIが人間からプロンプト(*)のみを受け, そのプロンプトに応じ複雑な文章・映像・音楽作品を作成する場合, 伝統的創作要素は人間であるユーザではなくそのAIにより決定・作成される。(*)プロンプトの中には著作権保護に十分なものもあるが, だからといって, そのプロンプトによる生成物まで著作権保護されるとは限らない

現在利用可能な生成AIテクノロジーに関する著作権局の理解に基づけば, そのような生成AIがどのようにプロンプトを解釈し結果物を生成するかに対し, ユーザは最終的な創作的コントロールをすることはない。むしろ, プロンプトは, 作品制作を依頼された美術家に対する指示のように機能する。プロンプトは, 何を描かせたいかは特定するが, その指示が出力(output)においてどのように具体化される(implemented)かはそのAIが決定する(*)。(*) ある画像生成AI(Midjourney)については, プロンプトが出力に「影響する」とは説明されているが, プロンプトがそれを指示またはコントロールするとは示唆してはいない。

例えば, ユーザは, テキスト生成AIに「ウィリアム・シェイクスピアのスタイルで著作権法に関する詩を書け」と指示した場合, そのAIが, 詩として認識可能で, 著作権に言及し, シェイクスピアのスタイルに似たテキストを生成することは期待できる。しかし, 韻律パターン, 単語およびテキスト構造はAIが決定する(*)。(*)一部AIでは, 例えば, ユーザは, AIに対し, 既に生成テキストを, 特定のトピック・ポイントを言及・強調するよう修正することを指示できる。かかる指示は, ユーザに対し, 出力に対するより大きな影響力を与えるかもしれないが, AIは, その追加指示をどのように実行・具体化するかを決定する。

AIがその出力の表現要素(expressive elements)を決定する場合, そのAI生成物は人間の創作の産物ではない。結果として, 当該AI生成物は, 著作権保護されず, かつ[その部分については]著作権登録申請上権利不要求(disclaim)されなければならない。

 

しかし, AI生成物を含む作品にも, 著作権保護に足る人間の創作[要素]が含まれることもある。例えば, 人間がAI生成物を十分に創作的な方法で選択・アレンジすることにより, その結果物全体が著作物に該当する場合がある。また, 美術家がAI生成物を改変して著作権保護基準を満たす程度に至ることもある。

本ポリシーは, 技術的ツールが創作プロセスの一部であってはならないということを意味しない。著作者は長い間, そのようなツールを利用して作品を創作し, またはその表現を再構成・変形・翻案してきた。例えば, 画像編集にAdobe Photoshopを利用する作家は, 改変された画像の著作者であることに変わりはない(*) (*)但し, その編集は上記の[改変の程度等の]分析の対象となる。

いずれの場合も, 重要なのは, 人間が作品の表現に対して創作的コントロールをしており, 伝統的創作要素を「実際に形成せしめた」その程度・範囲である。

 

(2) Théâtre D'opéra Spatial審決の概要

 

1) 事実経過(II)

 

2022年9月, Jason M. Allen (以下「Allen」)は, “Thetre D'opra Spatial”と題する画像(以下「本件画像」)を著作権局に著作権登録申請した。

Allenは, その申請時に, 本件画像がAIを利用して制作されたことを開示しなかったが, 本件画像は, AI生成画像として初めて美術品コンテストで優勝したことで全国的な注目を集めていたため, 著作権局はAI生成物が本件画像に寄与していることを認識していた。そこで, 著作権局の担当審査官は, Allenに対し, 本作品の作成上Midjourneyを利用したことに関する追加情報を要求した。

これに対し, Allenは, 本件画像制作のため, 少なくとも624回, 多数の修正とテキストプロンプトを入力したこと等その制作プロセスに関する説明をした。その結果, 審査官は, 本件画像のAI生成部分について著作権主張から除外[すなわち, “disclaim”:権利不要求]することを要求したが, Allenはこれを拒否した。

2020年12月, 著作権局は, 本件画像は, Allen氏が創作したと主張するものに限定されておらず, AllenとMidjourney双方からの「不可分に融合した分離不可能な寄与」を含むとして, 著作権登録を拒否した。

その後, Allenは, 本件画像全体の著作権登録を求め, 著作権局に2回の再審査請求をしたが, 2023年9月5日, 著作権局審査委員会(以下「委員会」)は著作権登録拒否を維持する審決をした。これがこのThéâtre D'opéra Spatial審決である。[6]

 

2) 審決の概要

 

(a) 創作性と「人間の創作」(Human Authorship)要件(III-A)

 

(上記のAIガイダンスにおける「人間の創作」(Human Authorship)要件と同様趣旨の説明をした上, )著作権保護を主張するためには, その創作者は人間でなければならない。ある作品の伝統的創作要素の全てが機械により作成された場合, その作品は人間の創作物要件を欠き, 著作権局はこれを登録しない

しかし, AI生成物を含む作品が, 著作権主張を支持するに足る人間の創作物をも含む場合, 著作権局はかかる人間の寄与物を登録する。この場合, 申請者は, [その作品中の]僅少とはいえない(more than de minimis)AI生成物[部分]についてはこれを申請書上で開示し, 著作権主張範囲から除外[即ち, 権利不要求(disclaim)]することができる。

 

(b) 再審査請求に対する分析検討・結論(III-A, IV)

 

【AI(Midjourney)生成画像の作成を含む本件画像の作成過程と, 両画像およびプロンプトの著作物性】

 

Allen氏によれば, 本件画像は, 1)最初にMidjourneyを利用し画像(以下「Midjourney画像」)を生成し, 2)Adobe Photoshopを利用しMidjourney画像の「様々な外観上の詳細/欠陥/物等を美化および調整」(具体的には歪み・傷の除去等)し, 3)Gigapixel AIを利用し画像をアップスケール[画像の解像度を高くする処理]することにより作成された。

本件画像には僅少とはいえないAI生成物が含まれているから, [その部分は]権利不要求されなければならない。本件画像に[僅少とはいえない]相当な形で残存するMidjourney画像は人間の創作の産物ではない。

なお, 上記2)のAdobe Photoshopを使ったAllen氏による調整行為[の結果物]が著作権保護されるか否かについては, その判断を下すのに十分な情報が不足していから判断しない。また, [上記3)の]Gigapixel AIの利用に関しては, Allen氏自身がその利用により画像に新たな創作的要素が加えられるわけではない等としていることから判断しない。また, Allen氏はプロンプトの著作権保護を求めず, その内容も開示しなかったから, 委員会は当該プロンプト自体に著作権保護されるべき十分な創作性があるかも検討できなかった。

 

Midjourney画像に対するAllen氏の唯一の寄与は, Midjourney画像を作成するためのテキストプロンプト入力であったから, Allen氏の行為は彼をしてMidjourney画像の著作者(author)になさしめるものではない。

Allen氏は, Midjourney画像作成のため「624回以上の多数の修正とテキストプロンプト入力を行った」と言うが, そのステップは, 結局のところ, MidjourneyシステムがAllen氏のプロンプトをどのように処理するかに依存していた。Midjourneyの資料によれば, プロンプトはMidjourneyが生成するものに「影響を与え」, Midjourneyにより「解釈され」かつ「訓練データと比較される」。Midjourneyは, 人間のようには文法, 文章構造または単語を理解しないから, プロンプトを特定の表現結果を作成するための具体的・直接的な指示としては解釈しない。従って, Midjourneyのユーザは満足のいく画像にたどり着くまでに何百回もの反復作業を試みる必要があるかもしれない。Allen氏も, 600以上のプロンプトで実験した後, 何百もの画像を生成し, 4つの候補画像の中から1つの受入れ可能な画像を選択しこれを取得した。

AIガイダンスに記載されている通り, AIが人間からプロンプトのみを受け, そのプロンプトに応じ複雑な文章・映像・音楽作品を作成する場合, 伝統的創作要素は人間であるユーザではなくそのAIにより決定・作成される。

プロンプトによるプロセスが創作性を伴う場合はあり, そのプロンプトは, 文学的著作物として「著作権保護に足る十分な創作性があり得る。しかし, だからといって, [人間が]Midjourneyにプロンプトを与えることが, [人間が]その生成された画像を「実際に形成させた」ことを意味するわけではない

 

【AI生成物の著作権保護否定に関する政策的検討】

 

委員会は, AI生成物に対する著作権保護を否定することは, 「創作者にとり悩ましい著作権の空白」を生じさせるというAllen氏の政策的主張を否定する。

著作権保護されるには, その作品が「著作者が作成した創作的な著作物」でなければならない。全ての作品がこの基準を満たすわけではないという事実は, 著作権の「悩ましい」空白を生じさせるものではない。著作権局は, 連邦議会が制定した著作権法を執行するのであって, 連邦議会と憲法が定めた制限を超えることはできない。

著作権局は, Allen氏がAI生成物に関連して著作権登録対象を限定しない場合, Allen氏による人的寄与物を登録することはできない。

 

【委員会の結論】

 

以上の理由から, 委員会は, 本件画像の著作権登録拒否決定を維持する。本審決は著作権局の最終処分となる。

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4.  本判決と米国著作権局見解の比較


 

中国における本判決も米国著作権局見解(AIガイダンスおよびThéâtre D'opéra Spatial審決)も, Stable DiffusionやMidjourney等の最近登場した, プロンプト入力により画像を生成するAI (以下, このようなAIを「画像生成AI」と, その画像を「AI生成画像」という) を扱う。

 

【共通点】 本判決によれば, AI生成画像が著作物であるためには, 当該画像が自然人の知的投入を具現したものでありかつその自然人(著作者)の選択・アレンジ・個性的判断を具現したものでなければならない。これは, 基本的に, 拙稿「中国におけるAI生成物の著作物性関連2019/2020年判例」(2023.12, 企業法務ナビ)で解説した三判例の立場と同じと解される。

一方, 米国著作権局見解によれば, AI生成画像が著作物であるためには, それが“human authorship”(人間が創作したことまたはもの)(「人間の創作」)であること, あるいは, 当該画像の伝統的創作要素(traditional elements of authorship)または表現要素(expressive elements)が人間により考案・決定されたものであることを要す。

従って, 本判決も米国著作権局見解も, AI生成画像が著作物であるためにはそれが人間が創作したものであることを要する点において共通する。

 

【結論における相違点とその原因】 しかしながら, 同種の画像生成AIによる同様のAI生成画像を扱いながら, 本判決ではAI生成画像を著作物であると認定したのに対し, 米国著作権局見解ではAI生成画像を著作物ではないとする

この相違の原因は, 以下の通り, 人間によるプロンプト入力, パラメータ設定等の事前行為(以下「プロンプト入力等」)とその結果物であるAI生成画像との関係について, その事実的認識は共通するものの, 人間の創作と言えるかに関しての法的評価が相違することであると思われる。

(a)本判決人間はプロンプト入力等により画像生成AIに具体的な線や色の描き方を100%指示したわけでもなく, 絵を構成する線と色は基本的には生成AIが「描いた」と言える。しかし, それでも, 人間がした複雑・多数のプロンプト入力等により, AI生成画像にその人間の選択・アレンジ・個性的判断が具現され, 従って, そのAI生成画像は人間が創作したものと言える

(b)米国著作権局見解プロンプト入力等が如何に複雑・多数であっても, 人間は, 画像生成AIがどのようにAI生成画像を生成するかに対し最終的な創作的コントロールをすることできず, むしろ, AI生成画像の伝統的創作要素・表現要素は人間ではなくその画像生成AIにより決定・作成される。その場合, そのAI生成画像は人間の創作の産物ではなく, 従って著作物ではない

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5.  結 語


 

上記の通り, 現時点においては, プロンプト入力等によるAI生成画像の著作物性に関し, 本判決と米国著作権局見解とはその結論を異にする。

しかしながら, 2023年8月, 米国著作権局は, AIにより提起される著作権法上・政策上の問題の研究等を目的として, 意見募集通知(notice of inquiry)を発しており, そこで意見募集されている項目の中には, 生成AIによりその全体または一部が生成された作品の著作権保護に関し, 人間の創作であること(human authorship)を要するとした場合のその創作の範囲・程度・考慮要素(プロンプトの繰り返し入力等)も含まれている。従って, その意見募集結果によっては, 将来米国著作権局見解の内容も変わるかもしれない。また, 今後なされる判例においては同見解と異なる判断がなされる可能性もある。

一方, 前述の通り, 日本においても, 政府において, AI生成物の生成の際に, 生成 AI に対してどの程度具体的な指示・入力(プロンプト等)を与えれば, 生成物に著作物性が認められるのかという問題が議論されているが, その際, 本判決や米国著作権局見解で示されている考え方も検討されるかもしれない。

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以 上


 

[1] 【本稿の筆者】 UniLaw企業法務研究所代表 浅井敏雄

[2] 【日本おけるAI生成物の著作物性に関する議論】 日本では, 第23期文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下「法制度小委」)第1回(令和5年7月26日)の「資料3 AIと著作権に関する論点整理について」では, 主要論点項目の一つとして, AI生成物が著作物と認められるための要件が挙げられている(p.1)。そして, 同資料では, AI生成物の著作物性についてのこれまでの検討結果として, AI生成物をAIが自律的に生成した場合には著作物性なし, 人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用した場合には著作物性あり, 「『道具』としてAIを使用した」というためには, ①創作意図及び②創作的寄与が必要, とされている。また, 法制度小委の第4回(令和5年11月20日)の「資料1-1 AIと著作権に関する考え方について(骨子案)」では, 生成物の著作物性について, AIと著作権に関する論点整理の項目立て及び記載内容案の概要の一つとして, 「イ 生成の際に, 生成 AI に対してどの程度具体的な指示を与えれば, 生成物に著作物性が認められるのか。以下のような要素は著作物性の有無に関して, 生成物のどの範囲に, どの程度影響するか。他に影響が考えられる要素はあるか。① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容, ② 生成の試行回数, ③ 複数の生成物からの選択, ④ 生成後の加筆・修正」を示している(p. 9)。

[3] 【中国著作権法】 「中华人民共和国著作权法」(2021年6月1日改正施行)。CRIC和訳JETRO和訳

[4] 中国著作権法実施条例】 「中华人民共和国著作权法实施条例」(2013年1月30日改正施行)。JETRO和訳

[5] この"A Recent Entrance to Paradise"著作権登録拒否決定に対する不服訴訟の2023年8月18日連邦地裁判では, 米国著作権法上, 著作物は“human authorship”(人間の創作)でなければならず, 従って, 人間の創作物のみ著作権保護されるとして, 著作権局が人間の関与なく創作された著作物の著作権登録を拒否したことが支持された。

[6] 【Théâtre D'opéra Spatial審決の事実経過】 (参考) Skadden Arps Slate Meagher & Flom LLP - Stuart D. Levi, MacKinzie M. Neal and Shannon N. Morgan “Copyright Office Rejects Application for Refusal To Disclaim AI-Generated Elements” September 14, 2023, Lexology

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