賛否両論 加盟すべきか?ハーグ条約
2011/07/15   海外法務, 外国法, その他

問題状況

国際結婚で片方の親が勝手に子を国外に連れ去ることを禁じ、親権問題などの紛争を解決するよう定めて国際ルール。現在は欧米を中心に85カ国が加盟。主要国で加盟していないのは日本、ロシアなど少数。もっとも、アジアやアフリカの国々の加盟は少なく、国連加盟国192カ国からすると加盟していない国は多いともいえる。
しかし、近年この問題への関心が高まっており、欧米においては条約未締結国である日本が問題を放置しているとして批判されることが多い。毎年各国政府の要人が日本に来る度に、この問題の解決を日本政府に促していて、7月11日にも外務省において松本剛明外務大臣は,ブラウン英国閣外相にハーグ条約に関する検討状況を説明し、7月4日の外務大臣政務官のフランス訪問の際にも、政務官は我が国のハーグ条約締結準備に関する5月20日付閣議了解に至るまでの経緯及び同条約締結に向けた準備状況等を説明するとともに,国際的な子の連れ去りについて意見交換している状況にある。
 政府は加盟する方針だが賛否両論が渦巻いている。焦点は、夫の家庭内暴力(DV)から逃れ、海外から子連れで日本に帰国した女性たちの問題だ。

ハーグ条約の考え方

1.原則と例外
  ○原則:常居所地国に子を返還する。
  ○例外:この返還により身体的または精神的危険がある、子自身が返還を拒否、連れ去りから1年以上経過し新しい環境になじんでいる等の場合は返還拒否できる
  ○主要締結国の司法判断の際の、返還命令と返還拒否の割合は、およそ7対3。
2.判断の主体
  現所在国の裁判所。(日本への連れ帰り事案については日本の裁判所が判断する。)

国内法

ハーグ条約の実施に関する法律骨子案では、子の返還拒否事由として以下の要件を設けている。

 子の返還拒否事由
  (1)子に対する暴力等
  (2)相手方に対する暴力等
  (3)帰国できない事情等
  (4)包括条項

反対の見解

条約は即時返還を原則としており、子供の権利を無視した機械的ルールだ。
連れ帰った妻は、夫の暴力、乱訴による嫌がらせ、精神的圧迫を受け、正面からの対応では抗しきれない攻撃を受けて、最後の手段として日本に帰ってきている事例も多い。そのような夫のもとに子を帰すべきではない。
国内法の子の返還拒否事由では条件が厳しすぎて子の返還を拒むことが困難。将来の暴力については、証明するのが極めて難しい。相手が暴力をふるわないことを約束すれば、子を返還せざるを得ない。返還先で、暴力をふるわれるおそれがある。

賛成の見解

日本に子どもを奪取されてしまえば子どもと会うことすらできなくなり、一生生き別れになってしまうおそれがある。日本人女性による子の誘拐事案がDVから逃れるためだという主張は当事者やその周辺の人間の言い分であり客観的に証明できる資料が公開されているわけではない。DVのねつ造も多く、DVの証拠もなしにDVを理由に引き離しの被害にあっている父子が数多くいる。たとえ妻に暴力をふるう父親でも、子供と会う権利はある。
国内法の返還拒否事由は条約の骨抜きだ。

まとめ

夫のDV(家庭内暴力)に耐えかねて、やっと日本国内に逃げ帰ってきたケースのような場合、ハーグ条約に加盟していないことで妻子の安全を図ることができるが、逆に、日本から国外に連れ去られたケースが放置されることになる。加盟しても、日本の司法判断により例外要件に該当するとして子の返還を拒否する運用も可能である。しかし反対派としては、例外要件に該当する暴力の事実を証明することの難しさから返還が認められてしまうのではないかという懸念があると思われる。条約への加盟に際しては、DVを受けた親子が確実に救済される運用を確立した上で行うべきと考える。

【関連リンク】
外務省/国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)
・日本経済新聞(夕刊)2011年7月15日/生活  

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