「トリップ・トラップ」は著作物か ―最高裁判決にみる量産品と著作権の判断基準
2026/04/27 知財・ライセンス, 著作権法, メーカー
はじめに
ノルウェーの家具メーカー「ストッケ」社製の子ども用椅子「トリップ・トラップ」が著作物に当たるかが争われていた訴訟の上告審で最高裁は24日、「著作物に当たらない」として上告を棄却しました。量産品は著作物に該当しないとのことです。今回は著作権法上の著作物と意匠について見ていきます。
事案の概要
ノルウェーの家具メーカー「ストッケ・エイエス」が販売している子ども用椅子「トリップ・トラップ」はL字型の2本の木製脚の間に2枚の板が配置され、板は座面と足置きになるデザインとされます。デザインしたのは世界的なデザイナー「ピーター・オプスビック」氏で1972年頃から販売されており、累計販売台数は1400万台に上るとのことです。
兵庫県の家具メーカー「Noz」も同様のL字型の2本の脚が特徴の子ども用椅子を販売しており、ストッケ社は同社に対し著作権侵害に当たるとして製造販売の差止めと損害賠償を求め提訴していました。
一審東京地裁は原告側の請求を棄却、二審知財高裁も同様に請求を棄却し、その後、最高裁に上告されていました。
著作物とは
著作権法2条1項1号では、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲にぞくするもの」を言うとされています。つまり、著作物と認められるためには思想または感情を含み、創作的に表現され、文芸や学術、美術等の範囲に属するという要件を満たす必要があります。
単なる事実やデータの羅列だけでは思想または感情が含まれているとは認められず、単なる事実の伝達に当たり、著作物に該当しないとされます(著作権法10条2項)。しかし、そこに筆者の意見や評価が含まれる場合は著作物となり得ます。
創作的とは、高度な独創性までは不要でありつつも、ありふれた表現を超える最低限の個性が必要と言われています。そのため、子どもが描いた絵などにも創作性は認められます。
そして、文芸や学術、美術、音楽等の範囲に属する必要がありますが、これについては10条で小説、論文、プログラム、絵画、写真、地図、建築、映画、音楽などの類型が例示されています。これら以外の新しい形式なども該当し得ることとなります。
意匠とは
それでは「意匠」とはどのようなものを言うのでしょうか。意匠法2条1項では、意匠とは「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」とされています。
つまり、意匠とは、物品や建築物の形状やデザインそのものを知的財産の一種として保護する制度です。魅力的なデザインは市場での競争力を高める一方で、模倣の対象ともなります。そこで一定の要件のもとに意匠も創作者の財産として保護し、利用のルールを定め、意匠の創作を奨励し産業の発達に寄与することを目的としているとされます。
具体的に意匠として保護されている例としては、自動車やバイクなどの乗り物、カメラ等の電子機器、洗濯機や扇風機トイレの便座などの家電品、食品や飲料の容器、建築物や事務用品、運搬機器、衣服等多岐にわたります。
また、令和2年4月から、物品に記録・表示されていない画像や内装デザインなどについても保護の対象となっています。
著作権と意匠権の違い
上でも触れたように著作物や思想や感情を創作的に表現したものとされており、著作権は当該創作物が創作された時点で自動的に発生します。そして著作権の存続期間は著作者の死後70年を経過するまで存続するとされます(著作権法51条1項、2項)。
一方、意匠の場合は特許庁に出願し、意匠登録を受けることによって初めて意匠権が発生します(意匠法3条1項、20条1項)。意匠権の出願がなされた場合、意匠審査官は方式審査と実態審査を行い、登録拒絶理由がなかった場合に登録査定を受けることができます。
出願の際の費用は16000円、登録査定がなされた場合は登録料として毎年8500円(4年目以降は16900円)を収めることとなります。意匠権の存続期間は出願日から最長で25年となっています(21条1項)。
このように、著作権は著作物が創作された時点で自動的に発生しますが、意匠権は特許庁に出願して登録されなければ発生しません。
権利の保護期間も著作権のほうが意匠権よりも長く、また、意匠権の維持には登録料がかかることとなります。
コメント
本件で最高裁はまず、著作物というためには「思想や感情の創作的な表現と把握できるものでなければならない」と示しました。
そのうえで、量産された実用品についても、例外的に著作権法の保護対象となる場合はあるとしつつ、本件トリップ・トラップは、「創作的な表現と把握できない」として、著作物には該当しないとしました。
こうした判断の背景には、量産品が著作権法の保護対象となった場合、量産品の形状などを保護する意匠法との兼ね合いから(著作権法と意匠法とで保護期間も異なる)、権利関係が複雑化し、それにより量産品の利用が妨げられ、「産業の発達に寄与する」という意匠法の本来の目的が阻害されかねないという事情もあったとされています。
以上のように、著作物に該当するとされるためには思想や感情が創作的に表現されている必要があり、量産品は原則として該当しないと考えられます。
また、著作物は何もしなくても保護されるのに対し、意匠は登録されなければ保護されません。加えて、保護期間も25年と70年と格差が存在しています。
これらの点を踏まえて、自社の製品についてどのような保護を受けることができるのかを慎重に検討し、必要な準備を進めていくことが重要と言えるでしょう。
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