裁判所が瓦製造メーカーに特別清算開始命令
2025/10/07 事業再生・倒産, 会社法, メーカー

はじめに
島根県大田市の瓦製造会社「石央セラミックス」が先月12日、松江地裁から特別清算開始命令を受けていたことがわかりました。負債総額は約4億7600万円とのことです。
今回は会社法の特別清算について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、石央セラミックスは地元の瓦メーカー5社が製造の集約化・効率化を図り、煉瓦などの役物瓦専門の製造を目的に協同組合として事業を開始したとされます。
最盛期の2000年7月期には年売上高約5億6200万円を計上していたものの、石州瓦の需要不振により、組合員の事業譲渡や吸収合併などによる脱退が相次ぎ、2010年8月には組合員が1社にまで減少していたとのことです。
さらに2019年12月期には売上高が約3億2800万円まで落ち込み、大幅な損失計上が続き2021年1月には事業停止を余儀なくされたとされます。同組合は今年3月に株式会社に組織変更し、4月10日に株主総会決議により解散しています。
会社法の特別清算とは
特別清算とは、株式会社特有の清算手続きで、債務超過の疑いがあるといった場合に行うこととなる手続きをいいます。会社が解散するとその会社は自動的に清算手続きに入ります。
役員等は退任し清算人が就任して業務は終了し、債権債務が清算され残余財産があれば株主に分配され法人格が消滅することとなります。これが通常の清算手続きです。しかし債務超過の疑いがあるなど一定の場合には清算人や株主、債権者などによる申立てによって裁判所が特別清算開始決定を行います。
これにより裁判所の監督の下、通常清算よりも厳格な清算を行っていくこととなります。厳格なものといっても破産手続きに比べれば比較的簡易で迅速なものとなっており、また手続きを進めていく者も裁判所が選任した管財人ではなく会社の清算人がそのまま担当することとなります。このように破産よりも簡易な清算手続きと言えます。
特別清算開始の要件
特別清算を開始するための要件は、(1)債務超過の疑いがあること、または(2)清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること、(3)特別清算開始障害事由がないこととされています(会社法510条、514条)。債務超過の疑いがあるとは、会社の財産がその債務を完済するのに足りない疑いがあるということです。
なお、債務超過の疑いがある場合には清算人は特別清算開始の申立てをする義務を負います(511条2項)。清算の遂行に著しい支障を来す事情とは、債権者の数が多数に上る場合や利害関係が複雑な場合、清算人が誠実に事務を遂行しないおそれがある場合などとされます。
そして障害事由がないことが必要ですが、障害事由とは手続費用の予納がない場合や清算結了の見込みがない場合、不当な目的で申立てがなされている場合などです。申立てを行うことができるのは清算人、株主、監査役、債権者となっています(511条)。
裁判所から特別清算開始決定が出されるとその後に取得した債権債務で相殺することが制限されます(517条、718条)。特別清算には大きく協定型と和解型があり、前者の場合は協定案を作成して債権者集会で可決され、裁判所の認可を受けて官報公告を行い実行していくこととなります(564条、567条、568条、901条3項)。
和解型の場合は協定の代わりに個別に債権者と和解することとなります。
特別清算のメリット・デメリット
特別清算によることのメリットとしてはまず、従来の経営陣がそのまま清算人として手続きを進めることができる点が挙げられます。破産の場合は破産管財人が担当することとなります。
また、破産よりも簡易迅速で柔軟な手続きと言えます。特別清算で作成される協定も債権者ごとに異なる内容とすることが可能とされます。そして一番のメリットとしては、破産よりも一般社会に与えるイメージが悪くないということです。グループ会社の一部が破産した場合はグループ全体へのイメージ低下が懸念されますが、特別清算の場合はそれを回避できると言えます。
一方で特別清算にはデメリットも存在します。まず破産は強制的に手続きを進めることができますが、特別清算では大多数の債権者の同意を要します。また破産手続きで認められる否認権がなく、裁判所の関与も少なく手続きの厳格性が低い点もデメリットと言えます。
コメント
本件で石央セラミックスに対し先月12日に松江地裁出雲支部が特別清算開始決定を出しました。負債総額約4億7600万円となっており債権者は約5名とされています。
今後、協定案の作成または個別の債権者と弁済や債権放棄について和解が模索されていくのではないかと予想されます。以上のように、解散した会社に債務超過のおそれがある場合や清算遂行に著しい支障を来す事情がある場合に特別清算の手続きを利用することが可能です。子会社の整理を行う場合などに利用されることが多いと言えます。
一方で協定の見込みがない場合や協定の実行の見込みがないと判断された場合は、裁判所によって破産手続きに移行されることとなります。それぞれの手続の特徴やメリット・デメリットを把握して選択していくことが重要と言えるでしょう。
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