170億円集金でフィリピンの投資会社経営者らを逮捕、金商法の無登録営業とは
2025/08/13 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 金融・証券・保険

はじめに
無登録で社債の購入を勧誘したとして警視庁は8日、フィリピンの投資会社「S・ディビジョン・ホールディングス(SDH社)」の実質的経営者ら9人を金商法違反の疑いで逮捕したと発表しました。
計約170億円を集めたとのことです。今回は金商法の無登録営業について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、SDH社の実質的経営者ら9人は2021年6月~23年2月の期間、共謀して国の登録を受けずに日本国内の30~60代男女9人にSDH社が発行する社債を購入するよう勧誘したとされます。勧誘を受けた男女9人は計約1億3100万円で社債を購入したということです。
さらに、同様の手口で約2400人に社債が販売され、計約170億円が集められた疑惑が持たれています。
加えて、24年1月頃から社債を購入した投資家への利息の支払いが滞っており、また、証券取引等監視委員会が23年6月に大阪地裁に業務禁止・停止を申し立てた後も一部で勧誘が継続されていたとされます。
警視庁は詐欺容疑での立件も視野に調べを進めているとのことです。
金融商品取引法による規制
金融商品取引法によりますと、金融商品取引業は内閣総理大臣の登録を受けなければ行うことができないとされています(29条)。
登録の際には(1)商号、名称または氏名、(2)法人であるときは資本金、(3)役員の氏名または名称、(4)使用人があるときはその氏名、(5)業務の種別、(6)投資運用業で顧客から預託を受けない場合はその旨、(7)業務の種別等、(8)本店の営業所の名称・所在地、(9)他に行っている事業の種類などを記載した登録申請書を内閣総理大臣に提出することとなります(29条の2)。
提出がなされると財務事務局などで審査が行われ、登録されたら登録済通知書が送付されます。
ADR措置や協会加入、個人の場合は営業保証供託などを行って業務を開始することとなります。
この登録を行わずに金融商品取引業を行った場合は5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条の2第10号の4)。
法人の場合は5億円以下の罰金となります(207条1項2号)。
金融商品取引業者とは
それでは金融商品取引業とはどのような業務を言うのでしょうか。
金商法での金融商品取引業は大きく、以下の4つに分けられます。
(1)第一種金融商品取引業
第一種は有価証券の売買、媒介、取次、代理、募集、私募、売出し、店頭デリバティブ取引またはその媒介、取次、代理、有価証券の元引受などが該当します。
(2)第二種金融商品取引業
第二種は投資信託、集団投資スキーム持分の募集、私募、みなし有価証券の売買、媒介、取次、代理などとされます。
(3)投資助言・代理業
投資助言・代理業は投資判断に関する顧問契約やそれらの代理・媒介を言います。
(4)投資運用業
投資運用業は投資法人、投資信託の財産運用、資産運用、集団投資スキームのアセットマネージメントなどとされています。
有価証券の販売等に関する規制
金融商品取引業者が有価証券等を販売または勧誘するに際して、金商法ではいくつか規制が置かれています。
まず、広告を行う場合は金融商品取引業者の商号や登録番号、損失のリスクなど一定の事項を表示する必要があります(37条1項)。
顧客との契約に際しては原則として締結前に書面の交付、さらに締結後も書面の交付が必要です(37条の4)。
勧誘の際にも虚偽告知、断定的判断の提供、信用格付業者以外の付与した信用格付を提供、求めていない顧客に訪問や勧誘電話、勧誘を受ける意思を確認しない、顧客が拒絶の意思を表示したにもかかわらず勧誘を続ける、正当な根拠の無い情報提供など不公正な方法による勧誘が禁止されています(38条)。
また、顧客の知識や経験、財産状況などに照らして不適当な勧誘が禁止されており(40条1号)、顧客に生じた損失を補填することも禁止されています(38条の2第2号、41条の2第5号)。
コメント
本件でSDH社の経営者ら9人は金融商品取引法に基づく登録をせずに自社の社債を勧誘・販売していた疑いがあるとされます。
社債は券面が発行されている場合またはされていない場合のいずれにおいても金商法の有価証券に該当し(2条1項5号、同2項前段)、これの売買や勧誘、募集は第一種金融商品取引業に該当し登録が必要となります。
以上のように株式や社債など金融商品の売買や取次、投資助言や投資信託はいずれも国の登録が必要な金融商品取引業に該当します。
金商法ではこれらについては厳格な規制を置いており、違反に対する罰則も重いものとなっています。
出資の募集などで自社の資金調達を検討している場合は、金商法や会社法など関係法令に抵触しないか、手続きは履践できているかを慎重に検討しつつ進めていくことが重要と言えるでしょう。
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