虚偽報告で佐賀市の建設会社が書類送検、労災かくしについて
2025/08/12 労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 労働法全般, 建設

はじめに
労働災害で虚偽の報告をしたとして佐賀労働基準監督署が25日、佐賀市内の建設会社とその代表取締役を書類送検していたことがわかりました。
労働安全衛生法違反とのことです。今回は労災かくしについて見直していきます。
事案の概要
報道によりますと、佐賀市の建設業「薫クレーン工業」において、2024年10月14日、佐賀市内の電柱撤去と新設工事の現場で鉄板の敷設作業中に作業員が負傷したとされます。
この労働災害について、同社は同社敷地内の資材置き場で従業員が負傷したとする虚偽の報告を行っていたとのことです。
その結果、佐賀労基署は「休業4日以上の労働災害で虚偽の内容の報告をした」として同社と同社代表取締役の40代男性を労働安全法違反の疑いで佐賀区検に書類送検しました。
労災と報告
労働者が業務中に、または通勤中に怪我や病気になった場合を労働災害(労災)と言います。
工場で作業中に機械に巻き込まれ負傷した場合や、建設現場で転落や転倒するなどして怪我をした場合が典型例と言えますが、過労などによる負荷による心臓疾患やパワハラなどによる心理的負荷による精神障害も同様に労災に該当することがあります。
労災認定されるための要件についてはここでは割愛しますが、労働者に労災が生じた場合は労災保険法に基づいて労災保険が給付されることとなります。
一方で会社側は労災保険法とは別の労働安全衛生法に基づいて労働基準監督署に対し労働者私傷病報告を提出することが義務付けられています(100条1項、労働安全衛生規則97条)。
この労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の内容で報告するといった場合が労災かくしです。
労災かくしには罰則が規定されており、50万円以下の罰金とされています。
労働者私傷病報告の提出義務
事業者は次の場合には労働基準監督署長に労働者私傷病報告の提出が義務付けられています(100条、規則97条)。
(1)労働者が労働災害により死亡しまたは休業したとき、(2)労働者が就業中に負傷、窒息または急性中毒により死亡、または休業したとき、(3)労働者が事業場内またはその付属建物内で負傷、窒息または急性中毒により死亡、または休業したときとなっています。
これらの場合は原則として労働者死傷病報告の提出が必要ですが、その程度によって提出時期が異なります。
まず、労災による休業が4日以上である場合は遅滞なく提出が必要です。
労災による休業が1日~4日未満の場合は、発生が1~3月に発生した場合は4月末日までにまとめて報告、4~6月に発生した場合は7月末までに、7~9月に発生した場合は10月末までに、10~12月に発生した場合は1月末までとなっています。
なお、労働者私傷病報告は令和7年1月1日から全て電子申請によることが義務付けられました。
労災かくしの具体的事例
実際にあった労災かくしの事例として、業務を請け負った事業者が自社の従業員を現場の施設内に派遣して作業を行わせていたところ負傷したにもかかわらず、自社の倉庫内で負傷したと虚偽の内容の労働者私傷病報告を提出していたというものがあります。
また、同様に空調設備工事現場でトラックの荷台から転落して負傷したにもかかわらず、自社の倉庫内でトラックから転落して負傷した旨の虚偽の報告を提出していたという事例も存在します。
いずれも労働安全法違反の疑いで書類送検されています。
労働者死傷病報告をそもそも提出しなかったという事例として、建物解体工事現場で従業員が作業中に高さ約3メートルの梁上から落下して腰椎骨折したというものがあります。
この事例でも書類送検されています。
これら労災かくしがなされる理由としては一般的に、労災保険料の上昇を避けたい、行政処分等を避けたい、労災保険に加入していない、報告義務の存在を知らない、企業イメージ悪化を避けたいといったものが指摘されています。
コメント
本件で薫クレーン工業は従業員が電柱工事中に負傷したにもかかわらず自社敷地内の資材置き場で負傷したとする虚偽の内容の報告をした疑いがもたれています。
労働者私傷病報告の虚偽事例としてはよく見られる事故現場を偽るものと言えます。
今回、薫クレーン工業が事故現場を偽った理由については明らかになっていませんが、行政調査や指導の回避、元請や取引先への悪影響回避などが一般的に考えられます。
以上のように従業員に労災が発生した場合、労災保険法上の手続きだけでなく労働安全衛生法による報告が義務付けられています。
労災の程度によって報告時期も異なっており、また今年1月からは電子申請によることが義務付けられています。
労災による怪我や病気は健康保険による治療はできず、労災かくしを行っても医療機関や本人または第三者から発覚することが多いと言われています。
労災に必要な手続きについて今一度確認し、社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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