厚労省が有識者会議を設置、「労働者」該当性の見直しへ
2025/05/08 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
厚生労働省は2025年5月2日、法律上の「労働者」として認められるための要件を見直すことを目的とした有識者会議を設置したことを明らかにしました。労働基準法における「労働者性」の基準について、約40年ぶりとなる本格的な見直しに着手した形です。
近年の働き方の多様化を背景に、現行の定義が時代に即していないとの指摘があがっており、改めて「労働者」とは何かという根本的な議論が始まっています。
検討の背景と近年の動向
この見直しの背景には、ネット通販大手・アマゾンの配達員(個人事業主)が、配達中に負傷したことを理由に労働基準監督署から労災と認定される事例が続いたことがあります。これにより、業務委託契約であっても実態として「労働者」に該当すると判断されるケースが社会的関心を集めました。
こうした状況を受けて厚労省は「労働者性」に関する新たな研究会を立ち上げました。
初会合では座長を務める岩村正彦・東京大学名誉教授が、「現在の労働者の定義は、スマートフォンやインターネットといったテクノロジーの発達を前提としていない。現実とのズレがある」と指摘。プラットフォームワーカーやギグワーカーと呼ばれる新しい働き方に対応する必要性を強調しました。
労働法における「労働者」の重要性
労働法の多くの規定は「労働者」を保護の対象としており、たとえば労災保険の適用、最低賃金の保障、時間外労働の割増賃金、団体交渉の権利など、すべて「労働者であること」が前提条件となっています。
一方で、働き方の自由度を重視し、企業と対等な関係で契約する個人事業主などは「労働者」とはみなされず、こうした法的保護の対象外となります。そのため、「労働者に該当するか否か」の判断が法的トラブルの火種になることも少なくありません。
労働基準法における「労働者」の定義と判断基準
労働基準法第9条では、「労働者」とは「事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。そのうえで、実際に労働者か否かを判断する際には、以下の2点が主要な基準とされています。
1. 他人の指揮監督下の労働であるかどうか(業務の指示を拒否できるか、勤務時間・場所に拘束があるか)
2. 報酬が「労働の対価」として支払われているかどうか
この2つを合わせて「使用従属性」と呼ばれますが、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)では具体的は判断基準が示されています。
それによると、まず、指揮監督下の労働に関しては、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無が挙げられています。そして「労働者性」の判断を補強する要素として、事業者性の有無、専属性の程度などが挙げられています。
受ける仕事を自由に選択できず、またどこでどのようにまた何時から何時まで働くかなども決められている場合は指揮監督下の労働に傾くこととなります。
労働者性が争点となった実例
労働者性が問題となった事例として、まずUberEats配達員が挙げられます。
この事例は、Uberの配達員が2019年に労働組合を結成し、配達中の事故や報酬に関して運営会社に団体交渉の申し入れを行ったものの、会社側は配達員が労働者に該当しないとして拒否したというものでした。
東京都労働委員会は配達員が会社からの配達リクエストを拒否しづらい状況であったこと、評価制度やアカウント停止措置により会社が定める業務手順や配達経路に従わざるを得なかったことなどから指揮命令下にあったとして労働者性を認めました。
一方でセブンイレブンジャパンとフランチャイズ契約を結ぶ店主の例では裁判所は労働者性を否定しています(東京高裁令和4年12月21日)。
商品の仕入れや従業員の採用、立地など店舗経営の基本方針や重要事項の決定を店主自ら行っており「事業者性」が認められること、また収益も商品の対価であり労務提供の対価ではないと判断されたことが理由です。
今後の企業対応への示唆
このように、「労働者性」の認定は形式的な契約形態ではなく、実際の業務の状況や報酬の性質などを踏まえて判断されます。厚労省の研究会では、こうした複雑な実態に対応するための新たなガイドラインや法改正が検討されることが予想されます。
企業としては、現在締結している業務委託契約や委任契約が、実質的には労働者性を有していないかを点検することが重要です。特に、勤務時間の拘束や業務内容の詳細な指示がある場合、契約形態にかかわらず、労働者性が認定されるリスクがあるため注意が必要です。
おわりに
働き方の多様化が進む現代において、「労働者」という定義そのものの柔軟な再構築が求められています。今回の厚労省の動きは、40年ぶりの制度的な見直しであり、企業実務に大きな影響を与える可能性があります。
今後の議論の動向を注視しながら、契約内容や運用実態を見直し、適切な法的対応を取ることが、企業のリスクマネジメント上ますます重要となってくるでしょう。
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