中国企業に“営業秘密”の研究データ漏えいで産総研の中国人元研究員に有罪判決
2025/03/12 契約法務, コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, メーカー

はじめに
中国籍の元主任研究員が、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の研究データを中国企業に漏えいしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)に問われていた裁判で、東京地方裁判所は2月25日、元主任研究員に有罪判決を下しました。
研究データを中国企業へ送信
2018年に研究データ漏えい事件が起きた産業技術総合研究所(以下、「産総研」)。
国内に3つしかない特定国立研究開発法人の一つで、日本最大級の公的研究機関です。
ここでは高所調査ロボット、炭素繊維、メタンハイドレート生産技術、津波調査、小型放射線線量計、メートル原器など、日本の産業や社会に役立つ技術の創出、実用化、革新的な技術シーズを事業化に繋げるための取り組みを行っています。
産総研の研究員だった中国籍の男は、2018年4月、自身が研究に参加している「フッ素化合物」の合成技術に関する研究データを中国企業にメールで送り、産総研の営業秘密に当たる情報を漏えいしたとされています。その結果、2023年6月、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の疑いで、逮捕・起訴されました。
研究データの漏洩先となった中国企業は、産総研のあるつくば市に日本代理店を構えているフッ素化学製品を扱う化学製品製造会社です。
同企業は、男からメールを受信した1週間後に中国国内で特許を出願。2020年6月に登録されているということです。出願の時期などから、男から入手した研究データ等の情報を自社の製品開発などに利用した可能性があるとされています。
産総研は、秘密情報の漏えい等による職員就業規則違反で、2023年7月5日付で男を懲戒解雇しています。
中国企業への情報漏洩で産業技術総合研究所の主任研究員が起訴(企業法務ナビ)
裁判で有罪判決が下る
裁判で弁護側は、「データは中国国内で行われた研究成果のため、産総研のものではない」としたうえで、「データは、そもそも不正競争防止法上の“営業秘密”に該当しない」と主張しました。
さらに、被告の離席中に別の職員が無断でメールを送信した可能性を指摘するなど、無罪を訴えていました。
しかし、東京地方裁判所は、送信した研究データは、産総研の施設や機器を使って共同作成した産総研の研究成果物と認定。技術そのものが一般的に知られていなかったうえ、産総研が漏洩防止措置を講じていることから「不正競争防止法上の“営業秘密”に該当する」と判断しました。
また、「別の職員がメール送信した可能性がある」との被告の主張に対しては、男が使用していたパソコンが、本人が設定したIDとパスワードを入力しないと操作できず、離席して一定時間が経過するとロック状態になるものだった点を指摘。データが送られた中国企業の代表者が、当時、男の妻だったこともあり、別の職員のメール送信の可能性を否定しました。
判決の中で、裁判所は、「中国企業がフッ素化合物を量産することで利益を図ろうとした身勝手な犯行」と被告を非難。
「高度な技能や知見を持つ外国人材の活用が重要視される中、今回のような事態が生じると、外国人材の活動の規律のあり方にも懸念が生じかねない」と述べ、懲役2年6月、執行猶予4年、罰金200万円の判決を言い渡しました。
コメント
今回の事件を見ても、企業等にとって、営業秘密の保護と適切な知財管理の重要性が不可欠であると分かります。
事件を受け、産総研は、再発防止策として、
・情報システムや通信回線等で取り扱う情報のモニタリング強化
・採用時等の適格性審査の強化
・技術情報のエリア管理やアクセス制限の強化
・職員に対する技術情報管理等に関する特別研修の実施
などを行うとしています。
こうした自社の社員の管理はもちろんのこと、共同開発先などからの漏えいを防ぐべく、契約で知的財産権の所在や秘密保持の範囲を明確化することも重要になります。
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