中国企業への情報漏洩で産業技術総合研究所の主任研究員が起訴
2023/07/13   労務法務, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, 労働法全般

はじめに


中国企業に研究データを漏洩させたとして、東京地検は7月5日、「産業技術総合研究所」の主任研究員の中国籍男性を不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪で起訴しました。

 

研究データを中国企業に漏洩


国立研究開発法人「産業技術総合研究所」で起きた今回の事件。略称、産総研として広く名前が知られているこの研究所は、国内に3つしかない特定国立研究開発法人の一つで、日本最大級の公的研究機関です。
研究内容は、高所調査ロボット、炭素繊維、メタンハイドレート生産技術、津波調査、小型放射線線量計、メートル原器などで、日本の産業や社会に役立つ技術の創出、実用化、革新的な技術シーズを事業化に繋げるための取り組みを行っています。
100年の歴史がある産総研は、日本国内に研究拠点を12箇所設けていて、約2,300名の研究者が7つの研究領域に対して研究を進める国立の研究開発法人です。

その産総研で研究員として精を出していた中国籍の研究員の男は、2018年4月、男が研究に参加している「フッ素化合物」の合成技術に関する研究データを中国企業にメールで送り、産総研の営業秘密に当たる情報を漏えいしたとされています。男は6月15日に不正競争防止法違反罪(営業秘密の開示)の疑いで逮捕されていました。

報道などによりますと男は産総研で使っていた業務用のメールアドレスを使用し、自分の研究内容を複数回にわたって送っていたということです。中国企業側とのやりとりは遅くとも事件のおよそ1年前から始まっていたとみられています。

研究データの漏洩先となった中国企業は、産総研のあるつくば市に日本代理店を構えている、フッ素化学製品を扱う化学製品製造会社。
同企業は、男からメールを受信した1週間後に中国国内で特許を出願。2020年6月に登録されているということです。出願の時期などから、男から入手した研究データ等の情報を自社の製品開発などに利用した可能性があるとされています。
中国国内ですでに特許登録されたことで、産総研の研究データの新規性が失われてしまい、産総研は日本や中国で特許を取る機会を奪われたと指摘する声も上がっています。

男が産総研で勤務し始めたのは、2002年。2006年には、北京理工大学の教員に就任。この大学は中国軍と関係が深いとされる「国防7校」の一つとしても知られています。ここで教職を兼務したほか、中国企業の役員も務めていたと報じられています。産総研では研究員が兼業する際に報告を義務付けているものの、男は報告していなかったということです。

警視庁公安部は、中国企業へどのような経緯で情報を送ることになったのか、その見返りがあったのかなど、慎重に調べを進めています。
また、産総研は男を秘密情報の漏えい等による職員就業規則違反で、7月5日付で懲戒解雇したと発表しています。

 

東芝の研究データ漏洩事件


過去にも株式会社東芝の研究データを韓国企業に渡したとして、元技術者の男が不正競争防止法違反(営業秘密開示)の罪に問われ、裁判になっています。半導体メーカーの技術者だった被告は三重県の東芝の工場で営業秘密に当たる多数のファイルをコピーし、2008年7月と10年4月、転職先の韓国企業に提供していたということです。

一審で東京地方裁判所は懲役5年、罰金300万円の判決を言い渡しましたが、弁護側は「持ち出したフラッシュメモリーに関するデータの有用性はそれほど高くなく、刑は重すぎる」と主張し控訴していました。

しかし、東京高等裁判所は、一審の判決を支持し、弁護側の控訴を棄却しています。東京高裁は、「データは信頼性の高い製品を低コストで製造するため必要不可欠な情報だった」と指摘し、一審の量刑が不当とはいえないと判断しました。

なお、東芝が韓国企業に損害賠償を求めた訴訟は、韓国企業が東芝に約331億円を支払う内容で和解が成立しているといいます。

 

コメント


国立の研究機関から中国へ情報が流出するのは極めて異例とされており、産総研の情報管理体制の危うさが露呈した形となりました。産総研は再発防止策として、モニタリングの強化・採用受け入れ時の適格性審査の強化・技術情報管理の厳格化・職員等の意識の向上に努めるとしています。

近年、退職者の秘密情報の持ち出しが問題視されるなど、企業にとっても対岸の火事とは言えない今回の事件。今後、男の動機などが解明されていく中で、企業としての情報漏洩対策なども今一度見直していきたいところです。

 

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