東京地裁がオリンパスの損失隠しで監査法人の責任認めず、会計監査人の責任について
2024/12/23 商事法務, 総会対応, 会社法, メーカー

はじめに
精密機器メーカー「オリンパス」で巨額の損失隠しが発覚した問題で、不十分な監査で損失隠しを見逃したとして、同社株主が監査法人に対し約2100億円を賠償するよう求めていた訴訟で19日、東京地裁が請求を棄却していたことがわかりました。監査を怠ったとは認められないとのことです。今回は会計監査人の責任について見直していきます。
事案の概要
オリンパスはバブル崩壊などによる多額の損失を隠すため、実態とはかけ離れた高額でのM&Aを行い、特別損失として計上するなど、本当の損失原因を隠してきたとされます。2011年4月に同社の英国人社長であったマイケル・ウッドフォード氏が一連の粉飾行為を指摘して発覚し、同氏は解任されましたが、翌2012年に同社会長ら7人が警視庁および東京地検特捜部に金商法違反で逮捕・起訴され有罪判決が確定しました。また金融庁は同年7月、会計監査を担当していた「あずさ監査法人」などに、深度ある組織的な監査が行われていなかったとして業務改善命令を出していたとのことです。これを受け同社の個人株主が、不十分な監査で損失隠しを見逃し、会社に多大な損害を与えたとして同監査法人に約2100億円を会社に支払うよう求め提訴しておりました。
会計監査人とは
会計監査人とは、株式会社の機関の1つで会社の計算書類等を監査し監査報告を作成することを職務としており、公認会計士または監査法人のみが就任できます。取締役や監査役といった他の役員と同様に株主総会で選任することとなりますが、監査役設置会社の場合は選任・解任議案は監査役が決定することとなっております(会社法344条)。会計監査人の設置は原則として任意ですが、大会社や監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は設置が義務付けられます(328条、327条5項)。会計監査人の任期は1年で定時総会で別段の決議がされなければ自動的に再任されたものとみなされます(338条1項)。なお会社法上の大会社とは、最終事業年度にかかる貸借対照表に資本金として計上した金額が5億円以上、または負債の部に計上した額の合計が200億円以上の会社を言います。
会計監査人の責任
会計監査人は取締役や監査役などの、いわゆる会社役員ではありません。しかし会社法上、役員と同様に委任の規定が適用され、会社に対しては善管注意義務を負っております(330条、民法656条、644条)。会計監査人もこれに違反することがあれば、やはり他の役員と同様に会社に対して損害賠償義務を負うこととなります(423条、任務懈怠責任)。この場合、本来は会社が会計監査人に責任追及をすることとなりますが、会社が行わない場合は株主が会社に代わって提訴することも可能です。これが株主代表訴訟です(847条)。株主が提訴する場合の株式保有数による制限はなく1株でも可能ですが、公開会社の場合は6ヶ月間引き続き保有している必要があります。
会計監査人の任務懈怠
それではどのような場合に会計監査人の任務懈怠が認められるのでしょうか。会計監査人である公認会計士は会計監査を行うにあたり、金融庁が定める「監査基準」や「監査に関する品質管理基準」「監査における不正リスク対応基準」また公認会計士協会が定める「実務指針」等に基づいて職務を執行するとされております。そして裁判例では、これらの基準を前提にその能力と実務経験に基づいて十分な監査証拠を入手するための正当な注意をもって、個々の会社の状況に応じて監査計画を策定し多様な証拠を入手し必要十分な手続きを実施することが善管注意義務の内容としております(大阪地裁平成20年4月18日)。つまり過失なくこれらの基準に基づいて一般的に要求されている水準で誠実に監査していれば、仮に粉飾を見抜くことができなかったとしても責任は無いと言えます。
コメント
本件で東京地裁は、損失隠しが巧妙で複雑なしくみだったことから、虚偽を疑うのは極めて困難で、妥当な監査を怠ったとは認められないとし、あずさ監査法人の賠償責任を否定しました。一般的に会計監査人に求められる水準の監査は行われており、同社が行っていた損失隠しはそれを上回る巧妙なものであったと判断されたものと考えられます。以上のように会計監査人も取締役等と同様に会社に対して善管注意義務を負い、様々な会計の基準に基づいて慎重な監査が求められます。そのため粉飾等の不祥事が発生した場合でも注意義務を十分に果たしていて、なお見抜けなかった場合は責任が否定されることもあるということです。会計監査人を設置していると、いないとにかかわらず、社内で粉飾や不適切な会計処理が行われないよう周知していくことが重要と言えるでしょう。
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