米グーグルが敗訴、米反トラスト法について
2024/08/07 海外法務, コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法, 外国法

はじめに
米ワシントン連邦地裁が5日、米グーグルが検索エンジン市場などで反トラスト法に違反したとの判断を下していたことがわかりました。アップルなどのスマートフォンに検索エンジンを標準搭載させていたとのことです。今回は米国の独占禁止法である反トラスト法を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、アメリカ司法省は2020年、グーグルがインターネット検索や広告などの分野で反トラスト法に違反している疑いがあるとして提訴しておりました。アメリカでの検索サービスは2020年時点でグーグルがおよそ90%を占めていたとされ、同社はアップルなどのメーカーや開発者に巨額の契約料を支払って自社の検索サービスを初期設定にさせていたとのことです。このように検索エンジンをスマホなどに標準搭載させる契約が競合他社を排除する参入障壁となり独占につながるとしております。
米国の独占禁止法
日本では企業同士が価格の調整をしたり、競争入札の際にどの業者が受注するかを話し合って決めたりする行為は独禁法に違反することとなります。それでは米国ではどのような規制が行われているのでしょうか。米国にも日本の独禁法にあたる法律が存在し、一般に「反トラスト法」と呼ばれております。しかしこの法律は単一の法律ではなく、いくつかの法律の総称であるとされます。具体的には(1)シャーマン法、(2)クレイトン法、(3)連邦取引委員会法が主な反競争法とされております。司法省の反トラスト局はシャーマン法またはクレイトン法に違反する行為が存在すると認めるときは自ら審査し、連邦地裁に起訴することができます。そして連邦取引委員会は連邦取引委員会法またはクレイトン法違反の疑いがある場合に自ら審査し、審判手続を経て排除措置命令を出します。
反トラスト法の具体的な規制内容
反トラスト法の主な規制内容としては、(1)取引制限行為、(2)独占行為、(3)再販売価格維持行為、(4)価格差別・拘束条件付取引、(5)不公正な競争方法、(6)企業結合となっております。取引制限行為とは、価格協定や入札談合、共同ボイコットなどのカルテル行為が該当し、シャーマン法1条で規定されております。日本の独禁法の不当な取引制限に当たる行為と言えます。罰則として法人には1億ドル以下の罰金、個人には100万ドル以下の罰金または10年以下の禁錮とされます。独占行為はシャーマン法2条で規制されており、各州間または外国との取引・通商のいかなる部分を独占化し、独占を企図し、または独占する目的をもって他の者と結合・共謀することとされております。違反した場合の罰則は取引制限行為と同様です。不公正な競争方法は取引制限行為や独占行為、再販売価格維持行為などの行為の萌芽または初期のうちに執行することを趣旨としているとされます。
法執行手続
司法省反トラスト局の事件処理手続の流れとしては、予備的審査が行われ、事件として正式に審査することが決定した場合、同時に民事事件として立件するか、刑事事件として立件するかも決定されます。刑事事件では担当検事と地方検事が協議し大陪審の設置が要請され、大陪審では証人喚問や文書提出命令などを経て起訴相当かを審理されます。大陪審での審理後、証拠などを検討して起訴すべき者を選定し大陪審に対して起訴勧告がなされ、大陪審での評決で正式起訴が決定されることとなります。公判では被告人の罪状認否、有罪または無罪の答弁、不抗争の申し立てなどが行われ、量刑は合衆国量刑委員会が定めたガイドラインに基づいて行われます。民事事件として立件する場合は司法省反トラスト局が管轄連邦地裁に提訴します。この民事訴訟では被告との間で公共の利益に合致する内容の同意判決案が出され、一般からの意見なども集められた上で裁判官が承認するかを決め判決を出すとされます。
コメント
本件でグーグルは2021年に総額260億ドルもの対価をスマホメーカーに支払い、同社の検索エンジンを標準搭載させたとされます。ワシントン連邦地裁の判事は、慎重に証言や証拠を検討した結果、同社は独占企業であり、独占維持を目的に行動してきたと指摘、こうした契約が他社製品の参入を阻害したとして反トラスト法に違反すると判断しました。グーグル側は控訴する方針とされます。以上のように米国でも日本の独禁法と同様に反競争行為に対する厳格な規制が存在します。これまで多くの日本やアジア系企業も反トラスト法違反で訴追されており数億ドルの罰金が徴収されることも多いと言えます。米国だけでなく海外進出をする際には当該国の反競争法や競争当局の動きにも慎重に対処する準備をしておくことが重要と言えるでしょう。
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