ビッグモーター社が消費者庁に報告、内部通報制度について
2024/03/12 コンプライアンス, 公益通報者保護法, 自動車

はじめに
内部通報体制の不備が指摘され行政指導を受けていたビッグモーター(BM)が内部通報体制の整備状況について消費者庁に報告を行なっていたことがわかりました。今回は公益通報者保護法が規定する内部通報体制について見ていきます。

事案の概要
報道などによりますと、中古車販売大手BM社の保険金不正請求問題をめぐり、同社の特別調査委員会は工場で不要な板金・塗装の施工が横行していると社員が会社側に訴えたが詳しく調べずに現場での解決を求めたと報告をしていたとされます。同委員会は同社が作業員からの告発をもみ消したと言わざるを得ないとし、同社の内部通報体制の不備を指摘しておりました。これを受け消費者庁は昨年8月、同社に対して公益通報者保護法に基づく報告を求めていたとのことです。同法に基づく報告要請は初めての事例とされ、今月8日に内部通報体制の整備状況について報告が行われたとされます。
公益通報者保護制度とは
内部通報制度に基づいて公益通報を行なった場合、公益通報者保護法によって保護されることとなります。これにより企業内の違法行為が明るみに出ることを促し、もって国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の遵守を図り、国民生活の安定と社会経済の健全な発展に資することを目的としております。公益通報を行なったことを理由とする解雇は無効とされ、降格や減給、その他の不利益な取扱、派遣契約の解除等は禁止されます(3条~5条)。また役員が公益通報をしたことを理由に解任された場合は、解任自体は無効とはなりませんが、会社に対して解任により生じた損害の賠償請求を行うことができるとされます(6条)。以下具体的に公益通報として保護される要件などを見ていきます。
公益通報者と通報対象事実
(1)公益通報者
公益通報者保護の対象となる「公益通報者」は①労働者、②派遣労働者、③請負契約などに基づき業務に従事する者、④役員となります。労働者、派遣労働者については退職後1年以内の者も含まれます。また請負契約などに基づく従事者の場合は従事後1年以内の者も含まれます。
(2)通報対象事実
公益通報の対象となる事実は、公益通報者保護法で対象とされている法令に違反する犯罪行為とされます。消費者契約法や商標法、建築基準法、健康増進法、金商法、独禁法、食品衛生法、船舶法、電気事業法、電波法、道路運送法、廃棄物処理法、破産法、労働基準法など約500の法令が指定されております(公益通報者保護法別表第8号の法律を定める政令)。また同様に過料の対象となっている行為も対象とされ、これらにつながる恐れがある行為も含まれます。
(3)通報先と保護の条件
公益通報者保護法では、通報先によって保護の条件が異なっております。まず不正があると思料する場合は通報先は事業者(内部通報)となります。不正があると信じるに足りる相当の理由がある場合、または不正があると思料し、氏名などを記載した書面を提出する場合は通報先は行政機関となります。不正があると信じるに足りる相当な理由があり、内部通報では解雇される、生命・身体への危害、財産への重大な損害が発生する恐れがあるなどの場合は報道機関への通報が可能です。
内部通報制度の整備義務
2022年6月の法改正によって、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は内部通報体制の整備が義務化されました。300人までの場合は努力義務となります(11条)。具体的には、窓口の設置、従事者の指定、内部規定の策定など、内部通報を適切に対応するために必要な体制の整備が必要です。窓口の担当者や従事者は適切に退部通報を受付、担当部署をつなぐ重要な役割を担うことから専門性と独立性が要求されます。また社内の内部通報制度を適切に運用できるよう社内規定を策定し周知・教育することが求められます。これら内部通報制度の構築義務に違反した場合は助言や指導、勧告や公表などの行政処分や、従事者に課される守秘義務に違反した場合は30万円以下の罰金も規定されております(21条)。
コメント
本件でBM社の特別調査委員会は、従業員が不要な板金・塗装の施工が横行していると会社に訴えたものの適切に対処せずもみ消したと指摘していたとされます。公益通報の窓口や従事者の選定などが行われていないだけでなく、そもそも公益通報社保護法の存在自体も認識されていなかったのではないかと考えられます。しかし公益通報に対する不備は会社の隠蔽体質が疑われ、企業イメージの著しい毀損につながると言えます。BM社は現在、第三者による支援を受けて会社再建を模索しており、失墜した企業イメージを取り戻す意味でも内部通報制度の適切な構築は急務と言えます。社内で内部通報があった際には窓口や対応手順などが整備されているのか、今一度自社での状況を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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