小野薬品、英アストラゼネカとの特許訴訟で和解
2023/07/28 知財・ライセンス, 特許法, 医療・医薬品

はじめに
和解金およそ200億円で、がん治療薬の特許侵害を巡る裁判に決着がつきました。訴訟では小野薬品が英国企業・アストラゼネカなどを相手取り、自社が持つ権利を侵害されたと主張していました。小野薬品は、ここまで、免疫の抑制を防ぐ抗体に関する特許関連訴訟を複数争っていましたが、今回の和解で全て解決したと説明しています。
和解金、約200億円で決着
今回の訴訟で争われたのは、がん免疫薬「オプジーボ」や「ヤーボイ」の仕組みに関わる抗PD-L1抗体/抗CTLA-4抗体関連特許について。小野薬品工業株式会社(東証プライム)および、ともに権利を有するアメリカ企業のブリストル マイヤーズ スクイブは、2022年2月28日、アストラゼネカ株式会社の日本法人が販売するがん治療薬「イミフィンジ」が同社らの特許を侵害しているとして、治療薬の販売差し止めと損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起していました。
イミフィンジは、化学放射線療法後に進行が認められていない患者を対象に、切除不能なステージIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)における根治目的の治療薬として唯一承認されたがん免疫治療薬。世界的な標準治療となっている背景から、小野薬品側は、アストラゼネカとの間でロイヤルティなどを含む適切な対価を支払う合意がなされれば、「イミフィンジ」の販売差止は求めない方針で臨むとしていました。
そして、訴訟提起からおよそ1年半後の今年7月25日、小野薬品はとアストラゼネカやその関連会社などと全世界で全面的に和解が成立した旨を発表。今回の和解により、小野薬品はおよそ約1億4000万ドル(日本円で198億円相当)を受けとり、同様に特許権を持つブリストルマイヤーズスクイブも別途、和解金(現状、金額非開示)を受領するということです。
治療薬の特許をめぐり過去にも訴訟が
小野薬品はこれまでにも、がん治療薬を巡り、訴訟で争いとなっています。2020年6月19日には、アストラゼネカとの訴訟でも取り上げられた「オプジーボ」に関し、開発に携わった本庶佑氏(京都大特別教授)との間で、特許使用料収入の一部である約262億円の支払いを巡り訴訟が提起されていました。本庶氏はオプジーボの開発につながるたんぱく質を1992年に発見し、共同研究した小野薬品が2014年から販売を開始。2018年には本庶氏がこの研究でノーベル生理学・医学賞を受賞していました。
本庶氏側は小野薬品がアメリカ製薬大手から得る特許使用料40%の支払いを約束をしていたにも関わらず、実際には1%しか支払っていないと主張して訴訟を提起。裁判所からの和解勧告もあり、両者は2021年11月12日に全面和解しています。和解内容は以下のとおりです。
・ライセンス契約に係る紛争の解決金、関連特許をめぐる第三者と小野薬品との訴訟に協力したことへの報奨金等の名目で、小野薬品が本庶氏に50億円を支払うこと
・京都大学に新たに設立される基金、「小野薬品・本庶 記念研究基金」に230億円の寄付を行うこと
・特許使用料の支払い割合は1%を維持すること
小野薬品側は、和解に関し、「我が国における産学連携の新たな形を示す」意図があったと発表しています。
コメント
製薬産業は、知識集約型で高付加価値を提供する産業で、資源に恵まれない日本において国際競争力を期待できる重要な産業といわれています。一方で、投資額の膨大さと研究開発期間の長さに対し、新薬の成功確率は非常に低いため、新薬成功を見越した、緻密かつ国際的な特許戦略を展開し、投資を回収する体制を整える必要があります。
継続的な新薬創出により、いまだ満たされぬ医療ニーズに応えていくためにも、開発した医薬品の権利の適切な保護が重要になります。
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