性的指向の暴露で初の労災認定、アウティングの問題について
2023/07/25 労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般

はじめに
都内の保険代理店に努めていた20代の男性が職場でのアウティングで精神疾患を発症したことについて労基署から労災認定を受けていたことがわかりました。アウティングでの労災認定は全国初とのことです。今回はアウティングの問題点について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、20代の同性愛者の男性は都内の保険代理店に2019年に入社した際、緊急連絡先を登録するために同居する同性パートナーの存在を会社側に伝えたとされます。しかしその後上司がパート従業員の1人に対して男性の同意がないまま同性愛者であることを暴露したとのことです。男性は上司を信頼できなくなり対人恐怖症となって業務に支障をきたすほど関係が悪化し精神疾患を発症、2年後に退社したとされております。男性は2021年に労基署に労災申請し、2022年3月に労災認定されたとのことです。
SOGIとアウティング
SOGIとはSexual Orientation(性的指向)とGendar
Identity(性自認)の略ですべての人が持つ性的属性を意味します。自己の性的関心が男性に向いているか、女性に向いているか、どちらでもあるか、またはどちらでもないかが性的指向であり、自己の性別についての認識が性自認です。これらは基本的にそれぞれの人間が生まれつき持っているもので意識的に変更することが困難なものと言えます。似た言葉としてLGBTQがありますが、こちらはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーといった性的少数者を意味します。すべての人間の属性を指すSOGIとは意味合いが異なります。そしてこれらの性的属性などを本人の同意なく他人に暴露する行為をアウティングと言います。アウティングは職場だけでなく学校などでも問題となり得ます。
パワハラ防止法による規制
2020年6月から大企業に、2022年4月から中小企業にも施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では事業主にパワハラ防止に関する一定の措置を講じる義務を定めております(30条の2)。そして厚労省の指針ではSOGIに関する差別的言動や嫌がらせ、そしてアウティングについてもパワハラに該当し得るとしております。事業主が雇用管理上講ずべき措置としては、(1)事業主の方針の明確化およびその周知・啓発、(2)相談に応じ適切に対応するための体制整備、(3)パワハラへの迅速適切な対応、(4)その他不利益取扱の禁止等となっております。パワハラの内容は防止の方針を明確化し社内で周知すること、相談窓口を設置し周知すること、発生したパワハラへの迅速な対応と被害者への配慮、相談等をしたことによる解雇等の不利益取扱をしないことなどです。違反に対しては現状罰則は設けられておりません。しかし厚労省からの勧告や公表がなされる可能性はあります。
アウティングに関する裁判例
アウティングに関する裁判例として以前にも取り上げた一橋大学アウティング事件をここでも触れておきます。同大学法科大学院の学生が2015年4月に同級生に同性愛者であることと付き合いたい旨を告白したところ、交際を断られ、その後にLINEで他の同級生にゲイであることが暴露されパニック障害となって構内で転落死したというものです。遺族は暴露した同級生と大学に損害賠償を求め提訴しておりました。2018年に同級生側とは和解が成立し、大学との訴訟については一審東京地裁は大学に予見はできなかったとして請求棄却判決が出ております(東京地裁平成29年2月27日)。そして二審東京高裁では請求については一審同様に棄却したものの、判決理由でアウティングについて「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであり、許されない行為である」としてアウティングが違法であることを日本で初めて言及しました。
コメント
本件で入社時に同性愛であり同性パートナーと同居している旨を伝えたところ、上司が「自分で言うのは恥ずかしいと思ったから言っておいた。1人ぐらいいいでしょ」とパート従業員に同意なく暴露したとされます。労基署はアウティングによるパワハラでの精神疾患であると認め労災認定しました。アウティングによる労災認定は全国初とされております。以上のようにアウティングはパワハラに該当するだけでなく、プライバシー権や人格権を侵害する不法行為にも該当する可能性があります。またパワハラ防止法では現在全ての事業者に雇用管理上の措置義務を課しております。上司や同僚の軽い気持ちでの暴露でも労災や損害賠償訴訟などに発展する可能性があります。今一度社内での周知と啓発を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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