クリエイターが不安視する“AIによる権利侵害”
2023/05/17   知財・ライセンス, 著作権法, 商標法

はじめに


クリエイターたちがAIによる権利侵害に関して「不安」を感じています。最近急速に活用が広がりを見せるAI。グラフィック作品などの創作も話題となっていますが、AIの活用場面の拡大がクリエイター達にもたらす影響は未知数です。
俳優や音楽家、イラストレーターなどで構成される一般社団法人 日本芸能従事者協会は、5月8日より文化芸能関係者を対象にAIリテラシーに関しアンケートを実施しており、このほど、同アンケートの中間結果を公表しました。

 

クリエイターからの不安の声


AIを活用して制作した絵が海外のコンテストで優勝するなど、「AIで生成したものを芸術と呼ぶのか」、「そもそも芸術家とは何か」と、大きな議論を巻き起こしています。

企業も、ロゴや広告の制作等の発注を通じて一緒に仕事をする場面が多いクリエイター。商品の意図、製作過程、誕生背景などを反映したイラストや、世代に合った色使いをするなど、これまでAIには取って代わることができないと思われていた分野にもAIの波が押し寄せています。

協会の中間発表によりますと、アンケートに対し、5月14日の夕方までに2万5560件の回答が寄せられ、「AIによる権利侵害などの弊害に不安があるか」という問いに回答者の9割以上が「不安」と答えていたということです。不安の具体的な中身としては、「自分の作品を勝手に利用される(92%)」、「技術が奪われる(62%)」「報酬が安くなる(51%)」などが挙げられています。

AIがイラストなどを制作する際、これまでに公開された既存のイラストデータを学習して新しいイラストを生成します。そうしたことから、回答の中では、「人の絵を学習した上で似たものを作り出して利権を奪っていくのはどうか」という声が寄せられたほか、創作者の尊厳が軽んじられないような法整備の要望もあったということです。日本芸能従事者協会は今後、アンケートの結果を取りまとめ政府に伝える方針だということです。

「AIの急速な出現に関する日本芸能従事者協会との連帯声明」と「AIリテラシーに関する全クリエイターのアンケート」実施のお知らせ(一般社団法人日本芸能従事者協会)

 

AIを活用した制作は盗用になる?


上述の通り、AIは既存作品に関する膨大なデータを学習して新たな作品を生成するため、他のクリエイターが既に制作した作品と類似することがあります。そのため、今後、AIが制作した作品がクリエイターの著作権を侵害したとして法的な問題を引き起こすことが想定されます。これは、企業が自社でAIを活用してロゴや広告等を制作した場合にも付きまとうリスクとなります。

■AIによる制作活動と権利侵害
1.著作権侵害
他のアーティストの著作物を無断で複製、改変、公衆への提供など
 
2.商標侵害
他のアーティストが商標を保有している特定のスタイルやロゴを模倣した場合
 
3.肖像権侵害
他人の人物写真をアート作品に使用し、許可を得ずに公開した場合、その人の肖像権侵害になる可能性
 
4.個人の名誉やプライバシーの侵害
個人的な情報を含む作品や名誉を傷つけるような作品を作成した場合、名誉毀損やプライバシー侵害などに発展する可能性


現状、AIが生成した作品に対する権利侵害が問題となった場合に法的にどのように処理されるかは不透明です。責任の所在は個別の事情により異なると思われますが、場合によっては、作品の制作に携わったプログラマーや開発会社、はたまた作品を活用する企業そのものが責任を問われるおそれがあります。

出来る範囲で、契約書などで責任の所在を事前に取り決めておくことが今後重要になりそうです。

 

コメント


内閣府・文化庁などの関係省庁で検討する「AI戦略チーム」は、生成AIが生成した画像などの利用について、

・日本の著作権法上、著作権者の許諾なしに著作物をAIに読み込ませて学習させること自体は可能
・一方、AIが生成した画像が既存の著作物との類似性や依拠性が認められた場合などは、その販売が著作権法違反となり刑事罰の対象となり得る。
・仮に既存の著作物を認識していなくても違反となり得る。

旨の見解を示しています。この見解を踏まえると、生成AIを活用して制作を行う場合、既存の著作物との類似性・依拠性のシビアなチェックが必要となりそうです。

急速な進展を見せるAI。それは同時に、コンプライアンスの領域に新たな課題が生じることを意味します。AIに対する法的な取扱いを整理しつつ、社内でどのような条件でAIを活用するのか、ルール作りと現場への周知が重要になります。

 

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