技能実習生に労組脱退促しで提訴、不当労働行為について
2023/03/22   労務法務, 労働法全般

はじめに

 国の認可法人「外国人技能実習機構」の仙台事務所職員がベトナム人技能実習生3人に労組脱退を促し、団結権を侵害されたとして機構側に110万円の損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。機構側は個別事案のため回答は控えるとのことです。今回は労働組合法が規定する不当労働行為について見直していきます。

 

事案の概要

 河北新報の報道などによりますと、技能実習生の3人は2019年10月から石巻市の水産加工会社の工場で勤務していたものの、役員から怒鳴られるなどのパワーハラスメントを受け、22年2月にささいなミスで退職を強要されたとされます。3人が仙台けやきユニオンに加盟し復職活動を開始したところ、機構側から「監理団体が職場に戻る話し合いの条件として労組脱退を言ってきた。考えてほしい」などと求められ、メールでも何度も脱退を促されたとのことです。ユニオン側は不当労働行為に当たり得る行為で憲法で定める団結権を侵害したとして仙台地裁に提訴しました。なお外国人技能実習機構は技能実習の適正な実施や実習生の保護を目的に17年に設立された国所管の法人とのことです。

 

労働三権と不当労働行為

 憲法28条によりますと、労働者には団結権、団体交渉権、団体行動権のいわゆる労働三権が保障されているとされます。これは立場の低い労働者と立場の強い使用者を対等の立場に立たせるためのものです。そしてこの規定を受けて、労働三権を具体的に保障するため労働組合法ではこれらの権利を侵害する一定の行為を不当労働行為として禁止しております。これらの規定は労働者と直接雇用契約を締結している雇用主だけでなく、親会社や業務委託先の会社なども適用があるとされております。なお地方公務員や国家公務員も原則として労働三権が認められますが、警察や消防、海上保安庁、自衛隊などの一部の公務員には適用外とされております。以下具体的に不当労働行為を見ていきます。

 

不当労働行為

(1)解雇その他不利益取り扱い

 不当労働行為としてまず挙げられるのが、組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取り扱いです(7条1号)。労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、もしくはこれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由として解雇や不利益取り扱いをすること、また労働組合に加入しないこと、脱退することを雇用条件とすることが禁止されます。この組合に加入しないこと、脱退することを雇用の条件とすることについてはいわゆる黄犬契約と呼ばれております。

(2)団体交渉の拒否

 次に団体交渉の拒否が挙げられます。労働組合法では、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことが禁止されております(同2号)。ここに言う正当な理由に該当する例として、すでに何度も交渉を重ねてきた場合や、子会社の従業員から求められた場合、暴力や威圧行為が伴っている場合、参加者が多すぎる場合、弁護士の出席を拒否された場合、同業他社の人間が同席する場合などとされております。

(3)支配介入等

 労働者が労働組合を結成し、運営することを支配しまたは介入すること、または労働組合の運営のための経費を支払につき経理上の援助を与えることが禁止されます(同3号)。結成に対する非難や不加入の勧誘、中心人物への威嚇や懐柔、組合員の配転、組合幹部の買収や組合分裂のための援助など、労働組合の弱体化や組合活動の妨害を目的とする行為です。なお会社には原則として会社施設の提供義務はありませんが、組合弱体化の意図をもって施設利用を拒否した場合は支配介入と認められる場合もあると言われております。

(4)労働委員会への申立を理由とする不利益取り扱い

 使用者が不当労働行為をした等の理由で、労働者が労働委員会への申立、または中央労働委員会への再審査申し立てをしたことなどを理由として解雇その他不利益取り扱いをすることが禁止されております(同4号)。労働委員会の審問で労働者が証拠を提出したり、発言をしたことを理由とする場合も同様です。

 

不当労働行為の救済

 不当労働行為が行われた場合、労働者は1年以内に都道府県労働委員会に審査申し立てを行うことができます(27条1項、2項)。ここでは調査や審問が行われ、合議で不当労働行為に該当するかを判断されます。不当労働行為と判断された場合は、一定の被害回復措置を講じることを命じる救済命令が出されることとなります。またこれらの判断に不服がある場合は、15日以内に中央労働委員会に対して再審査申し立てを行うことができます(27条の15第1項)。労働委員会の処分については取消訴訟を提起することができ、提訴期間は使用者側は30日、労働者側は6ヶ月となっております(27条の19第1項、行政事件訴訟法14条1項)。救済命令に違反した場合は50万円以下の過料、取消訴訟を経て確定した救済命令に違反した場合は1年以下の禁錮、100万円以下の罰金またはこれらの併科となります(28条、32条)。また別途損害賠償請求を行うことも可能です(民法709条等)。

 

コメント

 本件でユニオン側の主張によりますと、外国人技能実習機構は技能実習生3人の復職の話し合いの条件として労組から脱退することを提示してきたとされ、メールで何度も脱退が促されたとされます。機構側はこの点については不適切な対応であったと認めているとのことです。これが事実であった場合、労働組合からの脱退を条件とする、いわゆる黄犬契約に近い行為と考えられます。違法な不当労働行為と認められる可能性はあると言えます。以上のように労働者には労働組合への加入や団体交渉などの労働基本権が保障されており、それは外国人技能実習生も同様です。どのような場合に不当労働行為となるのか、また逆に拒否するにつき正当な理由と認められるのかを正確に把握して準備しておくことが重要と言えるでしょう。

 

シェアする

  • はてなブックマークに追加
  • LINEで送る
  • 資質タイプ×業務フィールドチェック
  • TKC
  • 法務人材の紹介 経験者・法科大学院修了生
  • 法務人材の派遣 登録者多数/高い法的素養

新着情報

公式メールマガジン

企業法務ナビでは、不定期に法務に関する有益な情報(最新の法律情報、研修、交流会(MSサロン)の開催)をお届けするメールマガジンを配信しています。

申込は、こちらのボタンから。

メルマガ会員登録

公式SNS

企業法務ナビでは各種SNSでも
法務ニュースの新着情報をお届けしております。

企業法務ナビの課題別ソリューション

企業法務人手不足を解消したい!

2007年創業以来、法務経験者・法科大学院修了生など
企業法務に特化した人材紹介・派遣を行っております。

業務を効率化したい!

企業法務業務を効率化したい!

契約法務、翻訳等、法務部門に関連する業務を
効率化するリーガルテック商材や、
アウトソーシングサービス等をご紹介しています。

企業法務の業務を効率化

公式メールマガジン

企業法務ナビでは、不定期に法務に関する有益な情報(最新の法律情報、研修、交流会(MSサロン)の開催)をお届けするメールマガジンを配信しています。

申込は、こちらのボタンから。

メルマガ会員登録

公式SNS

企業法務ナビでは各種SNSでも
法務ニュースの新着情報をお届けしております。

企業法務ナビに興味を持たれた法人様へ

企業法務ナビを活用して顧客開拓をされたい企業、弁護士の方はこちらからお問い合わせください。