改正法成立で罰則導入へ、改正公益通報者保護法について
2025/06/05   労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 法改正, 公益通報者保護法

はじめに

企業などで内部通報者を解雇するなどした場合に罰則を科す改正公益通報者保護法が4日、参院本会議で可決・成立したことがわかりました。1年6ヶ月以内に施行される予定とのことです。

今回は公益通報者保護法とその改正点について見ていきます。

 

改正の経緯

公益通報者保護法は、2020年6月に事業者に通報窓口の設置や通報者の不利益取扱いの禁止など体制整備の義務化、内部通報担当者に罰則付きで守秘義務を課し、公益通報者として保護される範囲を拡大するなどの改正がなされ、2022年6月に施行されました。

しかし、その後も依然として内部通報者を雇い止めしたり不利益に扱う事例が後を絶たず、通報の対象者自身が通報者を探し出し、懲戒処分をするといった例も発生しました。

消費者庁などの調査でも、改正法によって義務付けられた体制整備義務などの履行がなされていない状況も多く確認されており、公益通報者保護法の機能不全が指摘されていました。

そこで2024年5月に消費者庁は「公益通報保護制度検討会」を立ち上げ、同年12月に報告書を取りまとめ、今年3月に改正案が閣議決定されたという背景があります。

 

現行公益通報者保護法の概要

(1)公益通報

現行公益通報者保護法2条1項では、「公益通報」とは、労働者、派遣労働者、役員、それらであった者などが不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、勤務先における刑事罰・過料の対象となる不正を勤務先事業者や行政機関、報道機関等に通報することを言うとされています。

ここで対象となる不正とは、国民の生命・身体・財産等の保護に関する約500本の法令を指し、直接刑事罰または過料が科される行為だけでなく、最終的に刑事罰または過料につながる行為も含まれるとされています。

(2)保護の内容

保護の内容としては、まず解雇無効があります(3条)。公益通報者が公益通報をしたことを理由として行った解雇が無効となります。

同様に、事業者の指揮命令の下で労働する派遣労働者である公益通報者が公益通報をしたことを理由として派遣契約を解除することも無効となります(4条)。

それら以外でも、公益通報をしたことを理由として降格、減給、退職金の不支給、その他不利益な取扱いが禁止されます(5条)。

会社役員の場合は、公益通報を理由に解任された場合、損害賠償請求ができます(6条)。

また、公益通報された事業者は、公益通報によって損害を受けたことを理由に賠償請求することができません(7条)。

(3)通報先と保護の条件

通報先は、事業者自身(内部通報)、行政機関、報道機関等の3通りがあり、それぞれに保護される条件が異なります。

まず、事業者自身(内部通報)の場合は、不正があると思料することで足ります。これは国や自治体も含まれます。

次に、行政機関への通報の場合は、不正があると信ずるに足りる相当な理由があること、または不正があると思料し、氏名などを記載した書面を提出することとされています。

そして報道機関等に通報する場合は、不正があると信ずるに足る相当な理由があること、及び内部通報では解雇や生命身体への危害、財産への重大な損害が発生する事由などがある場合となっています。

 

事業者の体制整備義務

事業者は、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等が義務付けられています(11条)。具体的には、窓口の設置、従事者の指定、内部規定の策定などです。

これらの体制整備義務に違反している事業者に対しては、助言、指導、勧告、公表などの行政措置が取られることがあります。

また、内部調査等の従事者に対して通報者を特定させる情報に守秘義務を課し、違反した場合には30万円以下の罰金となっています(21条)。

 

今回の改正点

今回の法改正で最も重要なポイントは、罰則が新設されたことです。

通報を理由とした報復目的の解雇や懲戒処分に関与した者に対し、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に対しては3,000万円以下の罰金となっています。

不当な配置転換についても罰則案がありましたが、今回は見送られています。

また、保護の対象にフリーランスも加えられ、通報を理由とする取引停止などについても不利益取扱いに含まれました。

民事事件では通報者側の負担軽減のため、立証責任が転換されており、公益通報後1年以内の解雇や懲戒処分は通報に対する報復と推定する規定が設けられています。

処分した事業者側が、通報を理由とするものではないと主張立証する責任を負います。

また、内部通報体制の整備をせず、行政からの命令にも従わない場合は、30万円以下の罰金が科されます。

 

コメント

上述したように、公益通報者保護法は2020年に改正され、2022年6月に現行法が施行されています。

その時の改正で、公益通報者として保護される範囲の拡大や通報対象事実の範囲の拡大、事業者への体制整備義務、担当者の罰則付き守秘義務などが盛り込まれましたが、依然として内部通報を理由とした雇止めや不利益取扱いが横行しており、効果を発揮していないのが現状です。

そこで今回の改正法では、一定の不利益取扱いについて罰則が新設され、民事での立証責任の転換など公益通報者の保護に強化が図られています。

施行は1年6ヶ月以内となっており、施行から3年を目処に制度の見直しがなされる予定です。

どのような場合に公益通報として保護されるのか、またどのような行為が違法となるのかを確認し、社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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