厚労省、「雇用における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談実績」を公表
2022/07/01 労務法務, 労働法全般

はじめに
厚生労働省は2022年6月24日、令和3年分の「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績」を公開しました。この実績は、都道府県労働局や公共職業安定所(ハローワーク)における障害者の差別・配慮等に関する相談の件数や内容をまとめたものです。そこで今回は、令和3年版の実績から障害者雇用に関する実態を見ていきましょう。
相談件数
公開された相談実績を見ますと、ハローワークに寄せられた障害者差別・合理的配慮の提供に関する相談は244件となっており、対前年度比で0.8%減となり、わずかに減少しました。一方で、労働局長による紛争解決の援助申立受理件数は2件となり、前年度の12件から大きく減少しています。また、障害者雇用調停会議による調停申請受理件数は10件と前年度から5件増加となっています。
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務は、障害者雇用促進法法第34条及び第35条の「障害者であることを理由とした障害者でない者との不当な差別的取扱いの禁止」、同法36条の「障害者に対する合理的配慮の提供義務」、同法36条および74条の「障害者からの相談に対応する体制の整備・障害者からの苦情を自主的に解決することの努力義務」などによって定められています。厚生労働省は、雇用分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る制度の施行状況を踏まえ、さらなる制度の周知に努めるとしています。
差別の禁止及び合理的配慮の提供義務とは
障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務は、同資料に具体例がまとめられています。差別の具体例としては、募集・採用の機会の際に障害があることを理由としてを募集・採用を拒否すること、待遇の面では、賃金を引き下げること、低い賃金を設定すること、昇給をさせないことなどが具体例として挙げられています。
また、障害を持つ方の雇用環境には、それぞれの能力に応じて合理的配慮が必要とされます。合理的配慮の具体例としては、募集・採用の配慮として、問題用紙を点訳・音訳すること・試験などで拡大読書器を利用できるようにすること・試験の回答時間を延長することなどが挙げられています。
施設の整備、援助を行う者の配置などに関する合理的配慮の主な具体例としては、車いす利用者に合わせて机や作業台の高さを調整することや、文書・絵図を用いたコミュニケーション、 手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣することなどが挙げられています。
障害者差別・合理的配慮の提供に関する相談に対する対応事例
本資料では、実際に寄せられた相談の事例も紹介されています。まず、発達障害を持つ方の雇用に関するハローワークへの相談としては、「音や匂いに敏感という障害特性を持つため、在宅勤務等による静かな環境での就業を求めたが、職場からの配慮が実施されず、説明もないまま」という相談が寄せられています。これを受けて、ハローワークは事業所への聴取を行い、本人が求める合理的配慮の一部は措置困難であったとはいえ、本人への話し合いが十分になされていなかった事実を確認しました。その後、事業所は、就業時間や業務内容への配慮を実施したとされています。また、障害を開示せずに在職していた者が同僚からの暴言等に耐えられず障害を開示したところ、賃金を下げられた事例に関しては、ハローワークが経済的虐待の事実等の法令違反を確認し、障害者虐待の防止及び障害者差別の禁止について助言を行ったとされています。
コメント
障害者雇用は国が推進する雇用のあり方であり、企業は社会的責任を果たすためにも一定の障害者を雇用し、差別を排除し、合理的配慮を実施する必要が求められています。合理的配慮の具体的事例や差別に該当する恐れがある問題事例については、公表された資料内で詳細かつ豊富に掲載されています。自社の障害者雇用の環境改善のため、ぜひ一度目を通してみてください。
【関連リンク】
厚生労働省|「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和3年度) 報道発表資料」
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