契約書作成義務の拡大へ、下請法改正の動き
2021/08/17 契約法務, コンプライアンス, 下請法, その他

はじめに
政府は会社などの組織に属さずフリーランスで働く人の保護を強化するため下請法の対象となる事業者を拡大する方針を固めました。口約束の仕事を一方的にキャンセルされるといったトラブルが頻発しているとのことです。今回は下請法の規制を見直していきます。
改正の経緯
近年会社などに属さずフリーランスで働く労働者が増加しております。労働時間等に融通がきく一方、組織に属さないことによる立場の弱さから来る問題点も浮き彫りになってきました。
特に問題とされているのが事業者からの発注を受ける際に契約書等の書面が作成されず、事業者側から一方的にキャンセルされたり、代金が減額、または不払いといったトラブルが頻発していると言われております。
フリーランスの労働者側から事業者側に書面の作成を求めても、業界の慣習や立場の弱さから拒否される場合が多いとされます。
そこで政府は下請法の対象となる事業者を拡大すべく来年の通常国会に改正案を提出する方向で調整しているとされます。
下請法の適用対象
下請法2条7号、8号によりますと、下請法が適用される下請取引の範囲は取引の内容と当事会社の資本金の2つの区分によって定められております。取引の内容が物品の製造委託、修理委託、情報成果物委託(プログラム)、運送・保管などの役務提供委託の場合は親事業者側の資本金が3億円超えで下請事業者が3億円以下、または親事業者側の資本金が1000万円超3億円以下で下請事業者側が1000万円以下となります。
そして取引の内容が情報成果物委託(プログラム以外)、運送・保管等以外の役務提供委託の場合は親事業者側が5000万円超、下請事業者側が5000万円以下、または親事業者側が1000万円超5000万円以下、下請事業者側が1000万円以下となります。
親事業者の義務
下請法が適用される場合、親事業者は書面の交付義務(3条)、書類作成・保存義務(5条)、代金支払期日を定める義務(2条の2)、遅延利息支払義務(4条の2)を負います。
この中で特に重要とされるのが書面の交付義務で、下請事業者に委託した場合には直ちに交付する必要があります。書面には当事会社、委託日、委託内容、受領期日、検査完了日、代金と支払日、手形を交付する場合には金額と満期などを記載することとなります(公取委規則)。5条書類についても公取委規則によって記載事項が定められております。
禁止事項
下請法が適用される親事業者は上記の義務の他に様々な行為が禁止されております。
受領拒否、代金支払遅延、減額、返品、買いたたき、物の購入強制、役務の利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、割引困難な手形交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な契約内容の変更・やり直し要求などが禁止されます(4条各号)。
違反した場合には公取委による勧告(7条)や罰則として50万円以下の罰金が規定されております(10条)。
コメント
以上のように下請法では一定の要件を満たす事業者間での取引において、親事業者には書面の交付義務など様々な規制を置いております。立場の弱い下請事業者に対し一方的なキャンセルや買いたたき、代金不払いや受け取り拒否などができないようになっております。
しかし上記のとおりその対象は資本金1000万円を超える事業者となっており、それに満たない事業者は現状適用外となります。そのためフリーランスのライターやイラストレーター、プログラマーなどが企業から受注しても契約書など書面の交付が受けられずに泣き寝入りとなる事例が増えていると言われております。それを受け政府では適用対象を拡大する改正を予定しております。
なお下請法は独禁法を補完するものであることから、下請法が適用されない場合でも優越的地位の濫用に該当する場合はあると言えます。外部のフリーランスを使用している場合には自社での取り扱いを見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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