東京ガスが導管部門を分社化、吸収分割について
2020/12/09 商事法務, 戦略法務, 会社法, エネルギー関連

はじめに
東京ガスは11月30日、同社の導管部門を会社分割により分社化する旨発表しました。来年6月の定時株主総会で承認を得る予定とのことです。今回は吸収分割について見ていきます。
事案の概要
東京ガスの発表によりますと、ガス事業法により2022年4月より求められる導管部門の法的分離に対応するため、同部門を分社化し100%出資会社として導管事業会社を設立するとされます。手法としてはまず分割準備会社を設立し、その後東京ガスを分割会社、分割準備会社を承継会社とする吸収分割を行うとのことです。来年4月に準備会社を設立し、同社と吸収分割契約を締結、定時株主総会での承認決議を経て2022年4月1日を効力発生日として分社化が完了する予定とされます。
吸収分割とその手続
吸収分割とは株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させることを言います(会社法2条29号)。その一般的な手続きは、①吸収分割契約の締結、②官報公告および債権者への催告と書面備え置き、③株主総会での承認決議、④分割の効力発生、⑤分割登記と書面の事後備え置き、となります。事業を引き受ける承継会社には特例有限会社を除く全ての会社がなることができますが、合名会社、合資会社を分割することはできません。無限責任社員が存在する合名・合資会社を分割すると権利関係が複雑化したり債権者を害する可能性があるからと言われております。なお特例有限会社を分割することは可能です。
簡易・略式分割
相手会社が自社の議決権の90%以上を保有している場合は自社での株主総会承認決議は省略することが可能です(784条1項、796条1項)。これを略式分割と言います。合併の場合はその対価が譲渡制限株式であった場合は略式合併はできませんでしたが吸収分割ではそのような制限はありません。対価は株主ではなく分割会社が受け取るからです。また分割される資産の帳簿価額が分割会社の総資産の20%以下である場合や承継会社の支払う対価が承継会社の純資産額の20%以下である場合はそれぞれの会社で承認決議を省略できます(784条3項、796条3項)。こちらは簡易分割と言います。承継会社側では差損が生じる場合、対価が譲渡制限株式である場合、一定の株主が反対した場合は承認決議を省略できません。
債権者異議手続き
分割会社で債権者異議手続きを要するのは分割によって債権者が分割会社に履行請求できなくなる場合および人的分割を行う場合です(789条1項)。人的分割とは吸収分割の対価を分割会社ではなく分割会社の株主に与える会社分割を言います。旧商法下では認められておりましたが、現行会社法では直接株主に対価の交付は認められず、現状は剰余金の現物配当、または全部取得条項付種類株式の取得対価という形で交付されます。これらの場合はいわゆる財源規制が適用されないため債権者異議手続きを要することとなります。承継会社側は常に必要です。
コメント
本件で東京ガスはガス導管事業を分社化するため予め受け皿となる会社を設立して、その会社を承継会社とする吸収分割を行う予定です。今後書面の備え置きや債権者への公告・催告、分割契約締結、承認決議を経て分割登記と事後備え置きが行われていくことが予想されます。今回の会社分割はガスの小売自由化によるガス事業法改正に基づくものですが会社再建や持株会社を頂点とするグループ下などの場合にも利用できます。上では会社分割の会社法上の手続きを大まかに紹介しましたが、会社の組織再編ではこれ以外には税務上の処理や従業員の労務対応、会社の事業によっては他の法令による手続きを要する場合があります。組織再編が必要となる場合にはこれらを踏まえて早めに専門家の助力を仰ぐのが重要と言えるでしょう。
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