郵便局長が他の局長を提訴、内部通報制度について
2020/03/18 コンプライアンス, 民法・商法

はじめに
郵便局内の不祥事を内部通報したところ、役職の辞任に追い込まれたとして福岡県内の郵便局長7人が同地区の局長3人に損害賠償を求めていた訴訟の弁論準備手続が5日行われました。被告側は発言を大筋で認めているとのことです。今回は内部通報者保護制度についてみていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側は2018年、福岡県直方市内の前統括局長の息子に関する社内規定違反に関する情報を日本郵便の内部通報窓口に通報したところ、後日同統括局長から「通報者にお前の名前はないか」「犯人が局長やったら絶対つぶす」などと脅迫されたとされます。また現統括局長と副統括局長からも社内の役職を辞任するよう強要されたとしています。被告側は発言内容を大筋で認めているものの、脅迫や強要の事実については否定しているとのことです。
内部通報者保護制度
公益通報者保護法では、公益通報をしたことを理由とする通報者への不当な取り扱いが禁止されております。具体的には通報した従業員の解雇、通報した派遣労働者の派遣契約の解除は無効とされております(3条、4条)。またそれ以外にも通報したことを理由に降格、減給その他の不利益な取り扱い、派遣労働者を派遣する事業者に派遣労働者の交代を要求するといった扱いが禁止されます(5条1項、2項)。これにより通報者を保護するとともに事業者等の違法行為から国民の生命や身体、財産を保護することを目的としております(1条)。
公益通報の要件
(1)通報者の要件
公益通報者保護法によって保護される通報者は「労働者」とされております(2条2項)。この労働者には企業の正社員、アルバイト、パートタイマー、派遣社員の他、取引先の労働者や公務員なども含まれるとされております。
(2)通報対象事実
公益通報の対象となる事実は一定の法律に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰につながる行為であるとされております(2条3項1号、2号)。具体的には刑法、食品衛生法、金商法、JAS法、廃棄物処理法、個人情報保護法、大気汚染防止法など罰則が定められている法令違反ということとなります。対象となる法令は470にのぼるとされております。例えば窃盗や横領などの刑法犯だけでなく、リコール相当の不具合が発見されたにもかかわらず届け出をしていない、産業廃棄物を無許可で処分している、基準を超える有害物質を含む食品を販売している、行政により措置命令を無視しているなどといった事実が通報対象事実となります。
(3)通報先
公益通報の通報先は事業者内部の相談窓口、行政機関、その他消費者団体や労働組合などが挙げられます。事業者内部には相談窓口や担当者の設置が求められており、またそれ以外の管理職や上司も通報先となります。また違反事実を是正する権限のある行政機関や報道機関なども通報先とされております。
内部通報ガイドライン
消費者庁のガイドラインによりますと、事業者は内部通報のための窓口の設置や調査是正のための仕組み、内部規定などの整備が求められております。またこれら通報窓口等の経営幹部からの独立性や、内部通報に関する業務を行う者は通報内容と利害関係のある場合には調査や是正措置に関与しない仕組みも求められます。また通報者の匿名性や通報者の特定を防止するため、調査・情報共有の範囲を最小限にしたり、通報者を探索してはならない旨の周知徹底が求められております。
コメント
本件で原告側の局長が日本郵便の内部通報窓口に通報した内容は他の局長の息子に関する社内規定違反に関するものであったとされます。上記の公益通報者保護法の対象となる法令違反事実ではないことから直接には同法が適用されるものではありません。しかし原告側の主張が事実であった場合、原告側を恫喝する内容の発言はパワハラや不法行為に該当することとなりますし、また通報者が誰であるかが安易に被通報者に漏洩している点は日本郵便の内部通報システムが適切に機能していないということになります。以上のように内部通報者保護制度は通報者の保護を第一としております。日本国内での企業不祥事の6割近くは内部通報によって発覚していると言われております。コンプライアンス体制や企業風土の透明化を確保するため今一度内部通報者を保護できる体制ができているかを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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