独占禁止法改正への動きについて
2018/10/10 コンプライアンス, 独占禁止法, 法改正

はじめに
日経新聞電子版は10日、公取委が2019年通常国会提出を視野に再び独禁法改正に向けて動き出している旨報じました。公取は今年1月の通常国会で裁量型課徴金制度を導入する改正案を提出予定でしたが見送っております。今回は現在の独禁法改正に向けた動向について見ていきます。
現行法上の課徴金制度
現行独禁法上課徴金制度の対象となっているのは私的独占、不当な取引制限、そして不公正な取引方法のうち共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用となっております(7条の2第1項、2項、4項、20条の2~6)。課徴金は罰金とは違い、違法な行為で得た利益を剥奪するという趣旨からその算定方法は売上額にそれぞれの算定率を乗じた数字となります。場合によっては相当高額となり過去の例では200億円を超えるものもあります。また算定方法はかなり画一的で公取委のさじ加減で増減するといったことができない制度となっております。
救済措置
現行法で認められている救済措置として課徴金減免制度(リニエンシー制度)があります(7条の2第10項~12項)。これは違反している事業者に自主的に違反事実の申告を促し、迅速に全容解明することを目的としています。減免率は一番最初に申告した事業者は全額免除、2番目は50%免除、それ以下は30%となります。公取委が調査を開始した後の場合は、公取委が把握していない事実に関して申告した場合順位に関係なく30%免除となります。この減免制度の他に、来年から導入予定の「確約手続」というものもあります。これについては以前にも取り上げましたが、事業者が自主的に是正計画を策定し公取委が認定した場合には排除措置・課徴金納付命令等の手続を行わないというものです。
裁量型課徴金制度
現在公取委が導入を目指している裁量型課徴金制度は現行法の硬直的な課徴金制度を見直し、違反事業者の調査協力の度合いなどを加味して柔軟に課徴金額を決定できる制度です。現行課徴金制度は上記のとおり売上に決まった算定率を掛けるだけというシンプルで柔軟性に欠けるものであり、課徴金適用が決まってしまえばいくら協力しても変わらないというものでした。裁量課徴金制度の導入によって事業者に調査協力へのインセンティブを与え、また非協力への抑制につなげる狙いです。欧米での独禁法では広く取り入れられている制度です。
秘匿特権とは
公取委の目指す独禁法改正案に対し、経団連が求めているのが「秘匿特権」です。これも欧米では取り入れられている制度ですが、企業の法務部と弁護士が独禁法に違反しないか等を相談し、それが文書として残っている場合に公取委の調査時に証拠として採取されることを拒める制度です。具体的には公取委の調査時に事業者側が弁護士との相談内容が記載されている旨主張すると、その文書は封筒に入れられて封印され、公取委の別の部署で審査され、弁護士との相談内容であれば事業者に返還されるというものです。これにより事業者は独禁法違反のおそれがある場合に安心して弁護士とやりとりができることになります。
コメント
公取委は経団連側が求める秘匿特権の導入に関しては慎重な姿勢を見せてきました。この制度により談合やカルテルの摘発の妨げになるおそれがあるからとされております。特に弁護士とのやり取りが記載された書面に決定的な事実が含まれている場合には捜査に大きな障害となりうるからです。日経新聞によりますと、公取委はこういった書面を即時に差し押さえずに、秘匿扱いを認めるかを判断する専門部署を設ける構想を打ち出し、一つの落とし所として来年に改正案を提出する姿勢とのことです。これが実現した場合、課徴金制度は大きく変わり、企業の独禁法対策も変わってくるものと思われます。今後も独禁法の改正の動きに注視しつつ、独禁法の規制を内部で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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