大阪高裁で国と企業の責任認める、アスベスト訴訟について
2018/09/04 労務法務, 労働法全般

はじめに
建設現場でアスベストを吸い込み肺がんなどの疾病を発症したとして、京都府の元労働者とその遺族が国と建材メーカーに対し計約9億6千万円の損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で大阪高裁は国とメーカーに約3億円の支払いを命じていたことがわかりました。一人親方に対しても国の責任を認めたとのことです。今回はアスベスト訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、建設現場でアスベストを吸入し肺がんなどになったとして京都府の元労働者などが国と、建材メーカーであるニチアス、エーアンドエーマテリアル、太平洋セメント、新日鉄住金化学、三菱マテリアルなどを相手取り損害賠償の支払いを求め提訴しておりました。国側はいわゆる「一人親方」については労働関係法令上の労働者に当たらず保護の対象とはならないと反論していました。一人親方とは経営者が従業員を使わず一人で事業を営んでいる建設業者を言います。一審京都地裁は一人親方含め国と企業側の責任を認めました。
アスベスト訴訟とは
アスベスト(石綿)工場やアスベストを含む建材を使用した建設現場などで働いていた労働者が肺がんなどの健康被害を被ったたして国及び企業を相手取り賠償請求を行う訴訟をアスベスト訴訟と言われます。アスベストに発がん性などの有害性が知られている以上、国は防じんマスクの着用義務や排気装置の設置義務、有害性の警告義務などを企業等に義務付けなかったこと、すなわち規制権限を行使しなかったことが違法であること、そして企業は従業員の安全性などを配慮しなかった点に違法性があるとして賠償を求めております。
アスベストの現在の規制
現在アスベストは建築基準法上、建材等に吹き付けアスベスト等の使用が禁止されております(28条の2)。また建築物の増改築、大規模な修繕、模様替えの際には既に使用されているアスベストなどは除去することが義務付けられます(86条の7、令137条の4の3等)。また労働安全衛生法ではアスベストおよびアスベスト含有率が0.1%を超える全ての物の製造、輸入、使用が禁止されます(55条、令16条)。またアスベスト吹付け材の除去作業を行うには労基署に届出が必要となり(88条4項)、アスベスト含有建材の除去、封じ込め等の場合は作業前に予め労基署に届出が必要です(石綿障害予防規則5条)。またこれらの作業を行わせる際には粉塵の飛散防止措置が必要です(6条~34条等)。
一審京都地裁判決
本件で一審は、国がマスクの着用や集塵機付き電動工具の使用や警告表示義務を企業等に義務付けることを怠ったとして国側の違法を認めました。一人親方については従来どおり労働関係法令の対象である「労働者」に当たらないとしつつ、国の立法不作為である点をしてきしました。そして企業に関しては概ね10%以上のシェアを有するメーカーの建材であれば労働者が年1回程度はその建材を使用する現場で従事した確率が高いとしてその基準を満たす9社に責任を認めました。
コメント
本件で二審大阪高裁はアスベストの吹付けについては1971年に、屋内作業については73年には国も企業側も危険を認識していたとして一審同様両者の責任を認めました。また労働安全衛生法は「労働者」以外の者の保護も念頭に置いているとして一人親方に対しても国の責任を認めました。アスベスト問題は疾病として現れるまで相当の時間がかかることから因果関係などの立証が難しくまた時効などの問題もあり困難な訴訟とされてきました。しかし上記一審京都地裁判決は全国で初めて企業の責任を認めたものと言われております。高いシェアを有する企業であれば現場でその企業の建材を使っていた可能性が高いという点を考慮し立証の困難を救済したものと思われます。上告審でどのように判断されるかは現状不明ですが、今後企業への責任を認める下級審判決も増えるのではないかと予想されます。アスベストを扱っていたことがある場合、またこれからもアスベストが使用された現場で授業員が従事する場合は現在の規制を十分に配慮することが重要と言えるでしょう。
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