自販機大手に労基署が指導、事業場外みなし労働時間制について
2018/03/30 労務法務, 労働法全般

はじめに
飲料自販機大手のジャパンビバレッジホールディングスが自販機の保守担当社員に適用していた「みなし労働時間制」が無効であるとして労働基準監督署から指導を受けていたことが29日わかりました。指導を受けたのは昨年12月6日とのことです。今回はみなし労働時間制の一種である「事業場外みなし労働制」について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジャパンビバレッジではトラックで自販機に商品を運んで飲料などを補充する業務を行うルートセールス社員に対して事業場外みなし労働時間制を適用していたとされます。ルートセールス社員の1日あたりの労働時間は7時間45分とみなされており時間外労働手当は支払われていなかったとのことです。元従業員の男性は朝8時から夜9時まで13時間勤務することもよくあり、月の時間外労働は110時間におよぶこともあったとしています。これを受け足立労働基準監督署は同社のみなし労働時間制は無効であるとの行政指導を行っていたことがわかりました。
みなし労働時間制とは
労働基準法によって、従業員が実際にその日に働いた労働時間にかかわらず、予め定めておいた時間労働したものとみなす制度をみなし労働時間制と言います。労基法上労働者の労働時間の計算は厳格に規制されておりますが(38条)、業務の内容や性質によっては実労働時間の算定が困難な場合があり一定の要件のもとに例外的に認められております。みなし労働時間制には①事業場外労働、②専門業務型裁量労働、③企画業務型裁量労働の3種類があります。今回は事業場外労働について以下見ていきます。
事業場外みなし労働制
労基法38条の2によりますと、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」としています。労働時間の算定については3つのパターンがあります。①所定労働時間労働したものとみなす場合、②所定労働時間+時間外労働分労働したものとみなす場合、③②の場合で労使協定により决定した時間労働したものとみなす場合があります。②③の場合には時間外労働手当が必要となり、労使協定で定めた場合は労基署への届出が必要となります。
事業場外みなし労働制採用の要件
事業場外みなし労働制を採用するためにはまず労働の全部又は一部が事業場外で行われている必要があります。事業場内と事業場外での労働が混在している場合には事業場外で行われている労働に関してのみ、みなし労働制の対象となります。次に「労働時間を算定し難いとき」に当たる必要があります。具体的には使用者の指揮監督が及ばず、労働時間を把握できない場合です。この点について旅行会社の添乗員に関する判例では、目的地や観光内容、手順など業務内容が具体的にマニュアルで決められており、常時国際通話のできる携帯電話を所持し毎日添乗日報を作成提出し、日程変更の際には本社からの指示を受けていることなどから「労働時間が算定し難い」とは言えないとされました(最判平成26年1月24日)。事実上使用者が労働者を管理監督できていれば該当しないということです。
コメント
本件でジャパンビバレッジ側は事業場で労働する社員に対し常に携帯電話で指示し、社員の労働時間は把握できていたと判断されたものと言えます。東京労働局のガイドラインでは、事業場外でグループで労働する場合においてその中に時間管理をする者がいる場合は、無線や携帯などで随時使用者から指示を受けている場合、事業場で訪問先や帰社時刻など当日の具体的業務の指示を受け、それに従っている場合などは労働時間の算定が困難とは言えないとしています。また営業手当を支給している場合でも、実際の時間外労働時間分以上を支給していなければ違法となると言われております。昨今「定額働かせ放題」などと揶揄され、過重労働の温床と批判されがちなみなし労働時間制度。営業や添乗員、システムエンジニアなど事業場外で労働し、みなし労働時間制を導入を考えている場合には、その要件を裁判例も踏まえて把握し、労基署から無効と認定されないよう留意することが重要と言えるでしょう。
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