日本郵便の非正規社員の待遇「不合理」と認定、待遇格差について
2017/09/15 労務法務, 労働法全般

はじめに
正社員と同一の業務内容であるにも関わらず、給与や待遇に格差があるのは労働契約法違反であるとして日本郵便に対し正社員と同一の待遇を受けられる地位の確認と約1500万円の支払を求めていた訴訟で14日、東京地裁は一部請求を認め約90万円の支払を命じました。契約社員や定年後再雇用といった非正規と正規社員の待遇差について、労働契約法の規制から見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告である日本郵便(東京都千代田区)の非正規社員3名はそれぞれ東京、千葉、名古屋の郵便局で配達や窓口業務に従事しておりました。日本郵便では年末年始の繁忙期には正社員に対し1日あたり4千円~5千円の年末年始手当を支給し、また賃貸住宅に居住する社員への住居手当を支給するなど8つの手当が存在し、夏、冬の休暇、病気休暇、有給休暇などが認められているとのことです。しかし一方非正規の契約社員にはこれらの手当や休暇の制度は与えられていないとされております。この点につき原告の3名は正社員と同一の仕事をしているにもかかわらずこのような労働条件に格差があるのは労働契約法に違反しているとして東京地裁に提訴しておりました。
労働契約法による規制
労働契約法20条によりますと、有期労働契約の労働者と期間の定めの無い労働者との間で労働条件に相違がある場合、その相違は「不合理と認められるものであってはならない」としています。不合理であるか否かの判断に際しては以下の点を考慮して判断することになります。
①業務内容およびそれに伴う責任の程度
②職務の内容および配置の変更の範囲
③その他の事情
まず①は労働者の業務内容とそれに伴って課せられている責任の強さを指します。そして②は昇進や転勤、配置転換などによって職務内容や勤務地などの変更が生じるか、また今後生じる可能性がどの程度あるのかなどを指します。正規社員と非正規社員とでこれらの点につきどの程度相違があるのかを判断し、それを考慮しても格差が不合理と認められる場合は違法となります。
20条に関する裁判例
この点が問題となった事例として、以前にも取り上げたトラック運転手の定年後再雇用の裁判例があります(東京地判平成28年5月13日)。定年後嘱託社員として再雇用されたトラック運転手が業務内容が同一であるのに賃金3割カットが不合理であるとして提訴したものです。東京地裁は①②につき正社員と同一であるとし、格差を設けコストを圧縮しなければならないほどの経営状況であるとも認められないとして違法としました。他方同じ事例の控訴審(東京高判同年11月2日)では、継続雇用制度と労働者全体の安定という社会政策上の必要性、他社の再雇用労働者の賃金水準から見ても不合理に低いわけではないこと、無事故手当や年金支給までの調整給を支払ったことなどを考慮して20条違反には当たらないとしました。
コメント
上記裁判例では一度は正社員として定年を迎え、退職金などの支給も受けた後であり、国も政策上そのような運用を前提としていたという事情があったことから適法と判断した側面があります。しかし本件では職務内容等を検討し、「最繁忙期の勤務に対する対価」であるはずの年末年始手当を同じ業務を遂行する非正規社員には支払わないのは不合理とし、また住居手当についても「転居を伴う異動のない正社員に支給され、非正規社員に支給されないのは」不合理であるとしました。定年後再雇用と違い①②が同一である場合の格差を正当化するだけの合理的理由が認められなかったものと考えられます。一般的に正社員と非正規社員は責任の程度や転勤等を甘受しなければならないといった事情などに違いがあります。それ故にある程度待遇に格差があることは社会的にも是認されていると言えます。労働契約法20条も「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることから原則は有効であり、例外的に違法な場合があるといった感じの条文となっております。このことから裁判所も従来「不合理」と判断することには消極的でした。その点からも今回の判決は画期的と言えます。正社員と非正規社員につき業務や責任などが同一である場合には、両者の待遇について今一度確認することが重要と言えるでしょう。
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