都労働委員会が引越社に救済命令、労働組合法の規制について
2017/08/25   労務法務, 労働法全般

はじめに

東京都労働委員会は23日、株式会社「引越社」に対し不当労働行為を行っていたとして是正を命じる救済命令を出していたことがわかりました。組合員に対する脱退勧奨をしないことや、団体交渉に誠実に応じること、不当労働行為を認定された旨社内報などで報じることなどが命じられました。今回は労働組合法で規制されている不当労働行為について見ていきます。

事件の概要

労働委員会の発表によりますと、平成27年3月労働組合は引越社に対し、従業員の賃金から車両事故の弁償金として控除した分の返還等を求めて団体交渉の申し入れを行ないました。団体交渉は翌4月22日から6月にかけて行われましたが、組合員で唯一の正社員であった営業職の従業員をシュレッダー係に配転を命じ、8月11日に懲戒解雇処分とし、その旨を「罪状」と称して社内掲示、社内報などで全従業員に通知したとのことです。その間に同組合から13名が脱退し、またそれ以降組合側からの団体交渉申入れにもかかわらず団体交渉は開催されていないとされております。同組合は引越社側が組合員に対して脱退を勧めたこと、組合員を配転させた上懲戒解雇したこと、団体交渉に応じないことなどが不当労働行為に該当するとして労働委員会に救済の申し立てを行ないました。

労働組合法による規制

労働組合法では労働者と使用者が対等な立場で交渉を行えることを目的として、自主的な労働組合の結成や団体交渉、不当労働行為の禁止、労働委員会の組織と権限などが規定されております。労働組合に関してはその要件や組織方法などが規定されており(2条、5条等)、その代表等が使用者と交渉することができます(6条)。正当な同盟罷業等の争議行為によって生じた損害については賠償請求できないことや、組合と使用者の間で締結した労働協約は書面で両者の署名または記名押印を要することなどが決められております(8条、14条)。また労使間での交渉の裁定や不当労働行為の救済を目的として労働委員会が置かれております(19条)。

不当労働行為とは

労働組合法7条各号では使用者が行ってはいけない不当労働行為が規定されております。具体的には①不利益取扱い、②団体交渉拒否、③支配介入が挙げられます。不利益取扱いとは従業員が組合に加入したこと、組合を結成しようとしていること、組合としての正当な行為を行ったことなどを理由に配転や解雇するなどの不利益な取扱を行うことを言います。団体交渉拒否とは、「正当な理由」がないにもかかわらず組合からの団体交渉申し入れを拒否し、または無視することを言います。正当な理由とは判例によりますと使用者側から見て組合が法に基づいた正規の労働組合であるか疑わしい場合が挙げられます(東京地判平成22年9月30日日本工業新聞社事件)。支配介入とは使用者側が労働組合の組織や運営に関して干渉を行うことを言います。たとえば組合員の従業員に対して使用者側が脱退するよう勧める行為が典型例となります。

労働委員会とは

労働委員会とは、使用者と労働組合との争議につき中立な立場で間に入って調停や仲裁などを行ったり、また不当労働行為の救済を行うことを目的とした公的機関です。各都道府県に置かれ、それらを統括する中央労働委員会が厚生労働大臣直轄として置かれます(19条2項、19条の2)。不当労働行為の救済申し立てがなされると労働委員会は調査や審問を行ない、不当労働行為が認定された場合には救済命令が出されます(27条の12)。どのような命令を出すかは各労働委員会の裁量に委ねられており、解雇者の復職命令、団体交渉応諾命令、不当労働行為を認め公表する命令など様々なものがあります。不服がある場合には15日以内に中央労働委員会に再審査申立を行うことができ、さらに再審査の結果に対して裁判所に取消訴訟を行うこともできます(27条の15)。再審査申立を行わず直接裁判所に取消訴訟を提起することもできます。救済命令が判決によって確定した場合、それに違反すると1年以下の禁錮、100万円以下の罰金または併科となります(28条)。

コメント

本件で東京都労働組合は、引越社側が組合員に和解金を支払う代わりに組合脱退を働きかけたものと認定し、13人の脱退について支配介入に当たるとしました。また正社員であった組合員をシュレッダー係に配転した理由を引越社側は遅刻としていましたが、労働委員会は同社営業職で業績評価について遅刻はあまり重視されていないこと、配転の時期が組合活動が活発化した時期に重なることから、組合活動を理由とした不利益取扱いであると認定しました。そして「罪状」と称する通知についても同社の当該組合員に対する強い嫌悪の情がうかがわれるとし、見せしめの意味合いが強く、組合活動を躊躇させるものであるとして支配介入に当たるとしました。以上のように被用者の団体交渉は法で強く保護されており、対応を誤ると様々な法的措置が取られる可能性があります。交渉拒否の正当理由に関しても、相手方組合が法人登記がなされ適合証明を受けている場合以外では組合規約や活動実績などで判断することになりますが、それらを考慮しても法に適合した労働組合か疑わしい場合でなければ拒否理由としては認められにくいと考えられます。団体交渉は相手の要求を飲まなければならないというわけではなく、真摯に交渉に応じることが要求されているということです。まずは言い分を聞き話し合う姿勢が重要と言えるでしょう。

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