今さら聞けない! 高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ法案)について
2017/08/22 労務法務, 労働法全般
1.はじめに
「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入を盛り込んだ労働基準法改正案の修正をめぐって、日本最大の労働組合の全国中央組織である日本労働組合総連合会(連合)が政府・労働者・使用者の三者(政労使)による合意を見送る方針を固めてから1ヶ月が経過しました。従来より雇用問題対策などに強い影響力をもっていた政労使の合意が見送られたことで、最近では、あまり耳にしなくなった、この「高度プロフェッショナル制度」ですが、法案自体が流れたわけではなく秋の臨時国会で可決される可能性もあります。
そこで今回は、残業代ゼロ法案とも呼ばれる「高度プロフェッショナル制度」について検討していきたいと思います。
2.「高度プロフェッショナル制度」とは?
労働基準法は、労働者の労働時間の上限を1日8時間、週40時間までと定め(労働基準法32条)、これを超える場合には割増賃金の支払いを義務付けています(同37条1~5項)。
高度プロフェッショナル制度は、現行の労働法を改正し、①一定の職種で、②年収1075万円以上の労働者に対し、③長時間労働防止措置を採る場合に残業代の支払い義務をなくすという制度です。対象となった労働者には、残業や深夜、休日労働に対する割増賃金が支払われなくなるため、「残業代ゼロ法案」という別名で呼ばれるようにもなりました。一方で、労働時間と賃金の相関関係がないことから「脱時間給」「成果型賃金」と呼ばれることもあります。
3.具体例とされた5つの職種と、雇用,請負契約の違い
さて、高度プロフェッショナル制度における上記①の用件については、具体例として、金融商品の開発業務,金融商品のディーラー業務,アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務),コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務),研究開発業務の五つが挙げられています。
では、なぜこれらの職種が挙げられたのでしょうか?
厚生労働省労働政策審議会は、これらが「高度の専門的知識、技術又は経験を要する」とともに「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」職種であることを理由としています。一方で、これらの業種が雇用というより請負に近いため、という見解もあります。
雇用(民法623条)も請負(同632条)も、役務を提供し対価を受け取るという点では共通しています。しかし、雇用は他人の指揮・命令に従って仕事をし、それ自体に対価が支払われるのに対し、請負は労働者(請負人)が注文者の指揮・命令を受けることなく自らの判断で仕事を進め、完成した目的物に対して対価が支払われることに特色があります。
雇用の具体例としては一般の会社員が、請負の具体例としては大工が建築を行う場合が挙げられます。
このような区別に照らすと、上記の5つの職種は担当者が自身の判断で進める部分が多いという点に共通点がみとめられ、請負の色彩が強い雇用といえそうです。
4.まとめ
長時間労働防止措置については、政府案として、企業が①年104日以上の休日,②労働時間の上限設定,③勤務時間インターバル制度のいずれか一つを取り入れることが挙げられていました。これに対し連合は、年間104日以上の休日取得を絶対条件とし、これに加えて①労働時間の上限設定,②勤務時間のインターバル取得,③2週間連続の休日取得,④臨時の健康診断のいずれかを採用しなければならない、とする修正案を出しました。
冒頭に記載したとおり、高度プロフェッショナル制度は今秋の臨時国会で成立する可能性があります。
加えて、いわゆるバブル世代が管理職世代となり企業の人件費の増加が予想される昨今においては、人件費縮小のために対象職種が上記の5つの他にさらに「請負の色彩が強い雇用」職種が追加されることも予想されます。
企業の法務,労務担当者にとっては所属企業の給与や労務関連の紛争が予想されますから、引き続き注目すべき改正法案といえるのでないでしょうか。
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