「レオパレス」入居者の支払い義務を否定、NHK受信料について
2016/10/28   不動産法務, 民法・商法, 住宅・不動産

はじめに

兵庫県内のテレビ等家電品が備え付けられたアパートに入居していた男性がNHKの受信料を負担させられたことは不当であるとしてNHKに対し受信料の返還を求めていた訴訟で27日、東京地裁は男性の主張を認め受信料返還を命じる判決を言い渡しました。今回は放送法の定める受信料支払い義務について見ていきます。

事件の概要

福岡県在住の原告の男性は仕事の都合で2015年10月から会社が借り上げた兵庫県たつの市のレオパレス21の物件に入居していました。その物件はあらかじめテレビ等の備品が備え付けられており30日~100日の短期プランで契約していました。男性が入居して数日後からNHKの集金人が訪れ、受信契約の締結を執拗に迫られ、契約の上受信料を支払ったとのことです。男性はテレビを設置したのはレオパレス側であり、受信料の支払義務もレオパレスにあるとしてNHKを相手取り支払った受信料2ヶ月分の返還を求める訴えを東京地裁に起こしました。NHK側は受益者が受信料を負担すべきであり、実際にテレビを占有管理している入居者が受益者であるとして入居者が支払うべきと反論していました。

放送法による規定

日本放送協会(NHK)は日本の公共放送を担う放送事業者です。公共放送とは国以外の公的機関が運営する放送局のことで国営放送とは区別されます。放送法に基づく特殊法人として1950年に設立され、民間放送局と違い広告料ではなく受信料によって運営されております。放送法64条によりますと、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」としています(1項)。そして「協会は、第一項の契約の条項については、あらかじめ、総務大臣の認可を受けなければならない。」と規定しております。つまりNHK受信料の支払い義務はこの規定に基いてNHKと受信契約を締結しなければ生じません。この点は自動的に支払い義務が生じる税金と異なるところです。

受信契約成立時期

では受信契約はいつ成立するのでしょうか。契約は一般的に両当事者の申込みと、それに対する承諾の意思が合致したときに成立します。NHKの集金人と受信契約の承諾をしたら当然に契約は成立します。では承諾しなければ成立はしないのでしょうか。受信料に関する訴訟ではNHK側は放送法64条がテレビ設置者に契約締結を義務付けているのであるから、承諾がなくとも契約は成立すると主張しております。この点に関して東京高裁は2つの裁判例を出しました。一つはNHK側が受信契約の申込みを行った場合、遅くとも2週間経過すると正当な理由がない限り自動的に受信契約が成立するとしました(東京高裁平成25年10月30日)。そしてもう一方は裁判所が「NHKの受信契約の申込みに対し承諾せよ」との判決を出し、それが確定した時点で承諾したものとみなすとしました(東京高裁平成25年12月18日)。裁判例ではNHKの申込みまたは判決によって承諾なくして成立するとしています。そして日本放送協会受信規約によりますと、受信契約を締結したらテレビを設置した月から受信料支払の義務を負うとしています。つまり設置した月に遡って支払わなければならないということです。

受信契約締結義務者

それでは誰が受信契約を締結する義務を負うのでしょうか。自宅にテレビを設置していれば、その家の所有者が義務を負うのは当然ですが、物件の所有会社が設置していた場合に問題となります。64条1項の文言上「受信設備を設置した者は」となっていることから実際に設置した者である所有会社が受信契約の締結義務を負うと考えるのが自然だと思われます。この点につきレオパレス21の利用規約では各部屋の受信料は入居者が支払うと定めているようです。それを受けNHK側も入居者が支払うべきとして入居者に契約締結を求めてきました。

コメント

NHK側は法64条1項の文言とは裏腹に、実際にテレビを視聴して利益を受けている入居者が受信料を支払うべきと主張していました。レオパレス側もそのように考え、入居者に負担させてきました。それに対し本件で東京地裁は「受信設備を設置した者」とは「物理的・客観的に放送を受信できる常態を作出した者」とし、それは物件のオーナーまたはレオパレス21であり、入居者の男性ではないことは明らかであるから受信料の支払い義務は無いとして返金を命じました。NHKは東横イン等のホテルに対しては利用者ではなく実際にテレビを設置した所有会社側に支払い義務があるとして受信料を取っております。実際に視聴しているのはホテル利用客であるはずのところ、滞在期間が短く頻繁に利用者が変わるホテルでは逐一契約を締結することは現実的ではないという事情からそのように扱っていると考えられますが、本件とは矛盾があるように見えます。本件判決が確定した場合、これまで受信料を支払ってきた多くの入居者から返還請求がなされるものと思われます。レオパレス側も全国の物件分として相当高額の受信料を負担することになる可能性があります。会社の所有物件にテレビを設置する場合はNHKの受信料負担についても注意を払う必要があると言えるでしょう。

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