QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第47回Webサービス利用規約:~本サービスの中断または廃止
2023/05/01   契約法務, 民法・商法, 消費者契約法

第45からWebサービスの利用規約について具体的な条項を提示した上解説しています。[1] 今回は, 以下目次のQ8~Q11の, 本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い/本規約またはサービス条件書の変更/本サービスの内容変更/本サービスの中断または廃止について解説します。

 

【目  次】

Q1: 契約名称・前文

Q2: 定 義

Q3: アカウントの作成, 登録および利用契約の成立

Q4: アカウントの管理 (以上第45回)

Q5: 本サービスの提供および利用並びに無償試用

Q6: 利用料

Q7: 利用期間とその更新 (以上第46回)

Q8: 本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い

Q9: 本規約またはサービス条件書の変更

Q10: 本サービスの内容変更

Q11: 本サービスの中断または廃止 (以上今回第47回)

Q12: 禁止事項および遵守事項

Q13: 本サービスの不具合に関する責任

Q14: 秘密保持および資料などの返還

Q15: 解除および期限の利益喪失並びに契約終了後の措置

Q17: 損害賠償

Q18: 一般条項

 

Q8: 本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い


A8: 以下に規定例を示します。
 

第7条  本サービスに関連する権利およびユーザ提供情報の扱い

1. 本サービスに関する著作権, 特許権などの知的財産権その他全ての権利は, 当社または当社以外の権利者に留保されるものとします。

2. ユーザが本サービスの利用上, 入力, 送信その他の方法により当社に提供する情報, データ, 著作物その他のもの(ユーザ情報を含む)(以下「ユーザ提供情報」と総称する)に関する権利は, ユーザまたはユーザ以外の権利者に留保されるものとします。

3. 当社は, ユーザ提供情報を本サービスの運営, 維持または改善のために必要な範囲で利用できるものとします。

4. 当社は, ユーザ提供情報に含まれる個人情報を, 前項および「個人情報の保護に関する法律」に従い取り扱うものとします。

5. 当社は, 事由の如何を問わず, ユーザに対する本サービスの提供が終了した場合には, ユーザ提供情報を全て削除できるものとします。

6. 前項の場合において, ユーザは, 当社が削除する前でも, 当社に通知しユーザ提供情報を全て削除するよう指示できるものとします。

7. 前各項にかかわらず, 当社は, 法令または裁判所もしくは行政機関の命令によりユーザ提供情報の保存または開示を義務付けられる場合にはその義務を履行するものとします。

【解 説】


【第2項~第4項】

「ユーザが本サービスの利用上, 入力, 送信その他の方法により当社に提供する情報, データ, 著作物その他のもの(ユーザ情報を含む)(以下「ユーザ提供情報」と総称する)」としては, 本サービスに投稿機能があればその投稿内容が含まれ, その他, ユーザによる本サービスの利用履歴等が含まれます。Webサービスのサービス提供者(当社)としては, ユーザ提供情報をどのように利用できるかが問題となります。

この点に関しては, 過去において, mixiがその利用規約を変更し, ユーザが投稿した情報の使用権をmixiに無償で許諾すると規定して炎上した事件(2008年)や, ユニクロが, だれでも簡単にオリジナルデザインのTシャツをつくることができるというサービスの利用規約において, そのデザインの著作権をユニクロに無償譲渡すると規定して炎上した事件(2014年)が思い起こされます[2]

このような一方的にサービス提供者側に有利な規定は, 上記事例のようにユーザから厳しい批判を浴びサービスの評判を落とすことは必至と思われます。

また, 法的な問題としても, 定型約款の不当条項(民法548条の2第2項)としてその条項については合意をしなかったものとみなされ, また, 消費者契約法第10条により消費者の利益を一方的に害する条項として無効になる可能性があります。

更に, そのユーザ提供情報が個人のユーザアカウントの氏名等でありまたはその氏名等と合わせて管理されているCookieデータである等のために個人情報に該当する場合, それをサービス提供者がプライバシーポリシーで公表した利用目的(サービスの運営, 維持または改善等)以外の目で利用するには, 個人情報保護法第18条第2項により, そのことについてその個人(本人)の事前同意を得なければなりませんが, ユーザ提供情報についての使用権許諾または著作権譲渡によりその事前同意を得たとは言い難いと思われます。

また, そもそも, ユーザ提供情報は, 通常は, そのサービスの運営, 維持または改善のために必要な範囲で利用できれば足り, そのことのみ利用規約上で規定しておけば十分です。

そこで, 本条では, (i)ユーザ提供情報に関する権利は, ユーザまたはユーザ以外の権利者に留保され, (ii) 当社は, ユーザ提供情報を, 当社が本サービスの運営, 維持または改善のために必要な範囲で利用できるものとし, (iii) 当社は, ユーザ提供情報に含まれる個人情報を, 前項および個人情報の保護に関する法律に従い取り扱うものとしています

【第5項~第6項】 

利用期間終了等によりユーザに対する本サービスの提供が終了した場合には, ユーザ提供情報を全て削除できるのか否かは必ずしも明確ではないので, 本条第5項では, 当社の権利としてこれを削除できる(削除してもしなくてもよい)ものとしています。一方, ユーザとしても, サービスの利用を終了した以上, ユーザ提供情報を全て削除したいと希望する場合があり得るので, 第6項では, ユーザの権利として当社に削除を指示できるものとしています。

但し, 例えば, ユーザとの取引情報等として法令等により保存が要求される等の場合があり得るので第7項では, それが可能となるよう定めています。

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Q9: 本規約またはサービス条件書の変更


A9: 以下に規定例を示します。
 

第8条  本規約またはサービス条件書の変更

1. 当社は, その変更がユーザ一般の利益に適合しもしくはユーザ一般の契約をした目的に反せずかつ変更に係る事情に照らして合理的なものである場合には, ユーザと合意することなく本規約またはサービス条件書(本サービスの内容自体に関する部分を除く。以下本条において同じ)の変更を行うことができるものとします。

2. 当社は, 前項の変更を行う場合, 事前に, 当該変更を行う旨, 変更後の内容およびその効力発生時期を, ユーザへの通知または本サイトへの掲載その他の方法により告知するものとします。

3. 第1項に定める場合の他, 当社は必要な場合, 前項に従い事前に告知することにより, 本規約またはサービス条件書を変更できるものとします。この場合, ユーザは当該変更に同意できないときは, 当社がかかる事前告知で通知する期限までに当社に通知することにより, 利用契約を解除して本サービスの以後の利用を中止し, 利用期間の残存期間分の利用料の支払いを免れまたは既に支払い済みの場合には当社からその返還を受けることができるものとします。ユーザは, この解除を行わない場合, 当該変更に同意したものとみなされます。

【解 説】


民法第548条の4(定型約款の変更)によれば, 「定型約款の変更」(=定型約款に基づき締結された契約の契約期間中の変更)は, 同条に定める「定型約款の変更」の実体的・手続的要件が満たされる場合には, 変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし, 個別に相手方(ここではユーザ)と合意をすることなく契約の内容を変更することができます

本規約またはサービス条件書の利用期間中の変更は, この「定型約款の変更」に当たると考えられるので, この要件を満たすよう本条を設けています。本条の第1項は民法第548条の4の第1項の実体的要件に, 本条の第2項は民法第548条の4の第2項の手続的要件に, それぞれ対応させたものです。なお, 本条第1項で, 「......サービス条件書(本サービスの内容自体に関する部分を除く。以下本条において同じ) ......」としているのは, 本サービスの内容自体の変更については次の第9条で別途規定しているからです。

本条第2項で, 「告知」とし民法第548条の4の第2項の「周知」という用語を用いていない理由は, 「周知」と書くと何をもって「周知」と言うのかについてユーザとの間で議論になる可能性がありそれを避けるためです。

しかし, サービス提供者としては, 民法第548条の4の定型約款の変更の実体的・手続的要件を満たさない変更も行わなければならない場合があり得ます。また, これらの要件を満たすか否かは明らかでない場合もあります。そこで, 本条第3項では, そのような場合でも可能な限り有効に変更を行うことができるよう, ユーザに対し, その変更に同意できない場合には利用契約を利用期間の途中で解除し利用期間の残存期間分の利用料の免除・返還を受ける機会を与え, この解除権を行使しない場合には, 黙示的に変更に同意したものとみなすこととしています。

しかしながら, このような手当をしてもなお本規約またはサービス条件書の変更を有効に行うことができない場合があり得ると思われます。そこで, そのような場合に備え, 本契約では, 「利用契約」の定義(第1条第11項)[3]において, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により別々の利用契約が成立すること, および, 各「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されることとして, 少なくとも各ユーザの次の利用期間においては当該変更を適用できるようにしています

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Q10: 本サービスの内容変更


A10: 以下に規定例を示します。
 

第9条  本サービスの内容変更

1. 当社は, 本サービスに関し, 機能・セキュリティ上の問題, 第三者の権利侵害のおそれ, その他の問題がありこれに対処する必要があると判断した場合, または, 本サービスの機能その他の内容を改善, 改良もしくは合理化する必要があると判断した場合, いつでも, 事前通知をしてまたはしないで, 本サービスの機能の改廃その他本サービスの内容の変更をすることができるものとします。

2. 前項にかかわらず, 当社は, 前項に定める変更のうちユーザ一般に重要な影響を与えるものについては, 事前に, 当該変更を行う旨, 変更後の内容および変更の実施時期を, ユーザへの通知または本サイトへの掲載その他の方法により告知するものとします。

【解 説】


定型約款は, 「定型取引において, 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」を意味する(民法548条の2第1項)ので, 利用規約の条項自体で定められているわけではない本サービスの内容(機能等)の変更は定型約款の変更とは別問題とも思われますが, 本サービスの内容は, 機能・セキュリティ上の問題等のやむを得ない原因の他, 他社サービスとの競合等も考慮して, 自由に随時変更できることが必要です

そこで, 本条では, 第1項で当社が自己の判断で自由に本サービスの内容を変更できると規定しています。言い換えれば, 本サービスは, その内容が当社の判断で自由に変更され得ることを前提としたサービスであることを明確化しています。

但し, 例えば, 本サービスの性格それ自体を大幅に変更するような, ユーザ一般に重要な影響を与えるものについては, 第2項において, 可能な限りその変更が有効と認められるよう, 事前に, 当該変更を行う旨, 当該変更を行う旨, 変更後の内容および変更の実施時期を, ユーザへの通知または本サイトへの掲載その他の方法により告知することとしています。

しかしながら, このような手当をしてもなお本サービスの内容の変更を有効に行うことができない場合もあり得ると思われます。そこで, そのような場合に備え, 本契約では, 「利用契約」の定義(第1条第11項)において, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により別々の利用契約が成立すること, および, 各「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されることとして, 少なくとも各ユーザの次の利用期間からは有効な変更となるようにしています

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Q11: 本サービスの中断または廃止


A11: 以下に規定例を示します。
 

第10条 本サービスの中断または廃止

1. 当社は, 以下のいずれかの事由が生じた場合, いつでも, 事前通知をしてまたはしないで, 本サービスの一部または全部の提供を一時中断することができるものとします。

(1) 当社が本サービスの運営上利用するソフトウェア, ハードウェア, 通信機器その他のもの (以下「運営基盤」と総称する)を, サービス条件書に定めるところにより定期的に点検もしくは保守する場合, または, 緊急にその必要が生じた時に点検もしくは保守する場合。

(2) 原因の如何を問わず, 当社または第三者の運営基盤に障害が生じた場合

(3) 大災害その他当社が合理的に管理できない事由により本サービスを提供できない場合

(4) その他当社が本サービスの提供の中断が必要と合理的に判断した場合

2. 当社は, 当社の経営的判断により必要と判断した場合には, 本サービスの提供を終了させることができるものとします。この場合, 当社は, 事前に, これを行う旨およびその実施時期を, ユーザへの通知または本サイトへの掲載その他の方法により告知するものとします。

【解 説】


【第1項】

サービス提供者の基本的義務は, ユーザがそのサービスを利用できるようにすることですが, 場合によりサービスの一部または全部の提供を一時中断する必要が生じることがあり得るので, そのことを明確化しています。

(1)は, サービスの定期的なまたは緊急の保守点検に伴う中断です。

(2)は, 例えば, 電力会社の停電, 通信会社の通信サービス不具合等に伴う中断です。

(3)は, 地震・火事等に伴う中断です。

【第2項】

本項は, 第1項のような外部的原因ではなく, 本サービスの採算性その他を原因として経営的判断から本サービスの提供自体を将来的に終了させることができるようにすることを意図した規定です。仮にこの規定による本サービスの提供終了が有効でないとしても, 本契約では, 「利用契約」の定義(第1条第11項)において, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により別々の利用契約が成立すること, および, 各「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されることとして, 少なくとも各ユーザの現行利用期間終了時点では有効にサービス提供を終了できるようにしています

 

今回はここまでです。

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「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[4]

 

[1] 【本稿における主な参考資料】 (1) 消費者庁の消費者法「逐条解説(令和5年2月)」第8条~第10条部分, (2) 増田雅史, 杉浦健二, 橋詰卓司「新アプリ法務ハンドブック」 2022/12/12, 日本加除出版(以下「増田他」という)第3章(p.96-132), (3) 伊藤 雅浩, 久礼 美紀子, 高瀬 亜富 「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」2021/10/18, 商事法務第5章(クラウドサービス利用規約)(p.149-181), 参考資料 契約条項例(p.254-260)

[2] 【mixi, ユニクロの利用規約炎上事件】 (参考) 柿沼太一「mixiやユニクロの炎上例から学ぶ, 賢い利用規約の定め方とは」2015/08/31,  STORIA法律事務所

[3] 「利用契約」の定義(第1条第11項)】 『(11) 「利用契約」とは, 本サービスの最初の利用申込または利用期間の更新申込の登録の都度, その登録完了により成立する本サービス利用に関する契約を意味し, 「現行利用契約」とはその時点の利用期間に関する利用契約を意味します。「利用契約」にはその登録時点で有効な本規約およびサービス条件書が適用されるものとします。』

[4]

==========


【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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